リターンズ2
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「アンタは賢いゲロ。兄譲りの見る目と慎重さ、それに勇気があるゲロ。誤りを認めるだけの勇気が…」
「…どういうこと?」
戸惑うカクタスガールにカエル占い師ははぐらかすような笑みを返して引き出しから一本の花を取り出す。
「さあどういうことだろうゲロね?そうそう、初回サービスでこれをあげるゲロ…きっと役にたつゲロよ」
手渡された赤い花にカクタスガールは困惑した。
「信ッじらんない!あの緑オヤジ〜…ネコゾンビにそんなひッッッどい夢見せてたなんてッ!」
ボンサイカブキへ『自分に二人の幻を見せるように頼んだ』のは君なのかというネコゾンビの問いかけに、エンジェルはあっさりと肯定した。
「ええそうよ?あの二人が帰っちゃってっからずーっとアンタが寂しそうにしてたから、幻でもいいから会いたいかなーと思って頼んだんだけど…なにかあったの?」
きょとんとした顔で逆に尋ねられ肩透かしを喰らったネコゾンビが、ボンサイカブキに見せられていた悪夢の幻について説明するとエンジェルドッグはみるみるうちに目尻をつり上げる。
「あんのセクハラボンサイオヤジ〜ッ!待ってなさい☆ネコゾンビ…今すぐアイツがあらゆる物の角に足の小指をぶつける魔法をかけたげるからッ!!」
「いや、さすがにそれは遠慮しておくニャ」
こっそりとネコゾンビは胸を撫で下ろした。
やはりあの幻はボンサイカブキが自分の願望だと勝手に見せたモノだったのだ。その証拠にエンジェルドッグは何も知らなかった。
「わざとじゃなかったのニャ…?」
少なくとも、こうしてネコゾンビのために怒る彼女の姿からは演技らしきものは感じられなかった。…考えすぎだったのかニャ?
ネコゾンビが悩んでいると、ため息をついてエンジェルドッグが肩をすくめてみせる。
「はぁ…仕方ないわね。おわびに何かさせてちょうだい☆何がいい?なんでもいいわよ♪」
微笑みを浮かべる天使に、ネコゾンビは瞬巡の末に『願い事』を口にした。
「それじゃあ、ボーイ達を助けて欲しいニャ」
…もしもエンジェルドッグが二人を陥れたのならば、きっとこの提案を断るだろうと予想してカマをかけたのだ。
しかし、エンジェルドッグは曇りのない笑顔で頷く。
「あら、そんなのお安い御用よ☆」
「本当に…いいのかニャ…?君はあの二人をあまり気に入っていたようには…」
前回の脱出の際、魂を奪われた怒りもあり彼女は二人が現実に帰ろうとすることに最後まで反対していた。いくら気まぐれとはいえ、こんなにもあっさりと二人を助けることに力を貸してくれるなんて…とネコゾンビがポカンとした顔を向けるとエンジェルドッグが苦笑する。
「それはあの二人が現実なんかに帰ろうとしたからよ☆結局やっぱり戻ってきたみたいだけど…ホント馬鹿みたい。現実なんか…いいもんじゃないのに…」
俯き気味に呟いた言葉に、ネコゾンビはエンジェルドッグ自身がこの世界に迷いこんだ時のことを思いだす。彼女は、ボーイやガールよりももっと以前にこの世界に迷いこみ…そして自ら現実に帰ることを拒んでここにいるのだ。
「エンジェル…」
「なんか湿っぽくなっちゃったわね!さぁ見てなさいネコゾンビ!とびっきりの奇跡を起こしてあげるわ♪」
エンジェルドッグがステッキを振るとボンッ!と音がしてガールとカクタスガール、そして審判小僧が空中に投げ出された。カクタスガールの手に持つロープに繋がっているのは身動き出来ぬように縛られたボーイ。
強制的に瞬間移動され尻もちをついたガールがすばやく部屋を見回し、ネコゾンビと視線があった途端に興奮した面持ちのまま叫んだ。
「ああネコゾンビ!今ネコゾンビのトコに行こうとしてたのよ!ようやく捕まえたわ!」
「放せ!畜生この…ふがっ!」
エンジェルドッグがステッキを再度ひと振りした瞬間、周囲に罵声を浴びせていたボーイの口に猿ぐつわが噛まされる。
「ウフフ♪余計なオマケがついてきちゃったけど…超ラッキーだわ。見つける手間が省けたわね☆さぁ覚悟なさい…パブリックフォン!!」
「!!」
天使がニヤリと悪魔の笑みを浮かべてその翼を黒く変化させる。デビルドッグとなった少女が槍を向けると、縛られた青年の体の下に出現したドアが勢いよく下に開いた。
パカッと開いた床の遥か下方には無数の針の山がこちらに切っ先を向けているのが見える。青年が串刺しになるのを止めたのは、ネコゾンビだった。
服をつかんでなんとか引っ張りあげると、デビルドッグが眉を寄せる。
「…なんで邪魔するのよネコゾンビ」
「それは…このボーイが『本物』だからニャ…」
「なんですって?」
ガールがボーイを縛っていたロープと猿ぐつわを外していく。深呼吸して息を整え、立ち上がったのは本物のボーイだった。
「…そういうことだよ。捕まえたなんて話は嘘だ。部屋の外から様子を伺ってたんだけど…貴女がなかなか尻尾を出してくれないから一芝居打つことにしたんだ。あれだけ巧妙な変装じゃ僕が本物か偽物かも分からないだろうと踏んでね…それにしても、本気で死ぬかと思ったよ…」
冷たい視線を向けるボーイの横でネコゾンビが決定的となった疑惑を突きつける。
「なんで…なんでエンジェルが『パブリックフォン』のことを知ってるニャ?今朝からの騒動を見ていて、ボーイが追いかけられてることが分かったとしても…偽者のボーイの存在やその正体がパブリックフォンだなんてことは分からないはずニャ………裏で繋がってでもいない限り…」
デビルドッグが槍を下ろした。羽ばたきひとつでその翼は黒から白へと変わる。だがその表情は険しいままだった。
「ヒドイわ、ネコゾンビ………アタシを罠にかけたわね?」
じっとりとした視線でボーイ達を値踏みするかのように見回した後、エンジェルドッグは首を傾げる。
「でも分からないわね?そんなことしてアタシにいったいなんのメリットがあるのっていうの?」
「…魂を盗んだ僕達への復讐じゃないのかい?」
エンジェルドッグはその推理を鼻で笑って否定した。
「そんな昔のこと、根に持つほど暇じゃないわ!そうね…大サービスで答えを教えてあげる。ちょっとしたジョークよ。イタズラ♪アンタ達に恨みなんかないわ。ただあんな椅子に縛りつけられてたパブリックフォンが可哀想だったから助けてあげただけよ☆」
ごめんねー?と笑いながら天使は微笑む。だがその目は笑ってはいない。
「ねぇ…ちょっとした行き違いがあったみたいだけど、アタシ達仲直りしましょうよ。アンタ達皆と仲直りしたいんでしょ?アタシはアンタ達が戻ってきてくれて嬉しいのよ。だから特別…戻ってきた記念にアタシが仲直りを手伝ってあげるわ☆」
差し出された手にボーイ達は戸惑った。
「…信じていいのかしら?」
「分からない。そうだ、審判がジャッジすれば…」
ボーイが小声でした提案にも審判が厳しい顔で首を横に振る。
「この状況で天秤が正しく動くと思うかい?ボクは一回、厨房でパブリックフォンに篭を壊されてるんだ…。そういう何万分の一の現象でさえ、あの子が可能性を操れば確実に起こせる。なにしろ…彼女は奇跡と幸運を操る天使なんだから」
目の前で微笑む少女は、本当に味方なのか…あるいはこれは罠なのか…天使か悪魔か分からない彼女の言うことを信じるしか道はないのか…?
「すでにホテル中から追われているし…彼女の機嫌を損ねてこれ以上悪化させられても困るね…」
「そうね…信じるしかないなら信じてみましょう」
覚悟を決めたガールがその手を取ろうとした、その時。
「待って」
握手のために伸ばされた手を、進み出た少女の背が止める。
驚いて見張ったガールの目に写るカクタスガールの横顔…その瞳には涙が滲んでいた。
「ガールさん…ごめんなさい。でもわたしにはなんであの子がこうしたのか、全部分かるの。だって………わたしもあの子と『同じ』だったから」
「…え?」
ガールが聞き返すより先に、思わぬ妨害を受けたエンジェルドッグが眉をひそめて苛立った声をあげた。
「なによアンタ?邪魔するのは止めてくれない?」
「わたしはカクタスガール…カクタスガンマンの妹よ!だから、わたしは…自分の罪を認めるのなんて怖くないわ!!」
「はぁ?」
カクタスガールがエンジェルドッグに向けてまっすぐに伸ばしたその手には、カエル占い師に貰った真紅の花が揺れている。
「貴女が潔白だと言うなら、この花に誓えるはずよ…エンジェルドッグ。貴女が、この二人が帰ってきたことを本当に心から望んでいたと言えるのなら!!」
まるで剣のように突きつけた一輪のバラは、赤く咲き誇り…カクタスガールの覚悟を彩っていた。
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お待たせいたしました、46話。エンジェルドッグ追及です!
なんとかもう少しで追い詰められそうなところではぐらかされてしまったボーイ達。
しかしなにやらカクタスガールには動機が分かっているようです。
次回、少女達の決闘。お楽しみに!