リターンズ2

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物置のひび割れた鏡を前に腕を組んで仁王立ちしているミラーマン。その紅い右目が怪しく光る。ぼんやりともやに覆われたように曇った鏡の中を睥睨していた彼が不意に口の端を引き上げた。

「…見つけたぞ。アイツだ」

もやの晴れた鏡に鼠耳を生やした青年が映る。その側には小さくマイサンや審判小僧の姿もあった。
ひとまずは無事な姿に皆が安堵のどよめきをもらす。

「すごいわ!さすがミラクル☆ミラーマンね!!」
「だからその呼び名を止めろと言っているだろうがッ!…嗚呼クソッ!まだ偽りの姿のままか…だから見落としていたわけだな、忌々しい!」

げんなりとしたミラーマンを気にした様子もなく、ガール達は鏡を覗き込む。

何枚かの紙をパラパラとこちらにめくって見せながら、彼はにこりといつもの表情で笑った。

『やあ相棒。君なら気づいてくれると信じていたよ。そしてこれを見ているなら僕達の状況も多少は分かっていると思う。早速だけど、プレゼントはこっちで用意した。どうか助けて欲しい…君なら出来るハズだ。タイムリミットは爆発から3日目の朝8時半…これを逃したら、僕達はそちらに帰れないだろう。大丈夫。君には頼もしい仲間もいる。君ならきっと奇跡を起こしてくれるだろう。…よろしく頼むよ、相棒』

そこまで真面目な顔をしていたボーイがへにゃっと眉を下げる。背中を向けながら鏡の前から遠ざかる時、彼は小さく口にした。

『………うん。こんなものかな、生中継だからなぁ…まぁ本番に強いから大丈夫だろうけど………心配しなくてもこっちはうまくやるさ。…あ!僕の工具箱!折れた木の下だ!!回収しなくちゃ』

そう言って映像は終わった。

「成る程…過去のオレがこれを見ても興味を持たないようにか?人物や単語はボカしている。なかなか役者じゃあないか…それに…『肝心のモノ』は相棒にしか渡らないようになっているしな」
「?どういう事?ボーイは何を言いたいの?」

感心しきりのミラーマンにガールが問いかけると、代わりにクロックマスターから呆れた視線が返ってくる。

「…だから、折れた木の下にあるんじゃろう?お前さん宛の彼奴からのプレゼントが」


再び全員で裏庭に出て、機械の爆発に巻き込まれた一本の枯木の根元をガールがスコップで掘っていく。

「ふぅん。ボーイちゃんったら、また『プレゼント作戦』なのね〜。中華鍋で懲りたと思ったんだけど〜」
「中華鍋?何だそりゃ」
「うふふ…あの子が帰ってきたら直接聞いてあげるコトね〜。きっとイイ反応するわよォ〜〜〜」
「あら♪ずいぶん楽しそうな話してるじゃなぁーい☆これはもう是が非でも帰ってこさせないとね!」

ボーイが顔を真っ赤にして恥ずかしがる姿を想像し、ニタリと笑うキャサリン。その様子になんだか面白そうな気配を感じたのか、エンジェルドッグが食いついた。…これで『仲間』も『奇跡』も彼女に味方するだろう。あとは彼と彼女次第だ。

木の下から青い工具箱を掘り出したガールに歓声が上がる。駆け寄る皆の背中を見ながらキャサリンは艶やかに微笑んだ。

「…あの子を泣かせたりなんかしたら承知しないわよ?ボーイちゃん」



工具箱の中には古新聞に包まれた錆びた工具達と何も書かれていない数枚の黄ばんだ紙束が入っていた。一旦蓋を閉じて、目も閉じて…ガールが再びその箱を開くとそこには古新聞に包まれた綺麗に手入れされた工具と、設計図のような図面が入っている。

「設計図だ!」
「へー♪確かに、物質交換は2人にしか使えないわけだものね☆」

混沌から物質を作り出す物質交換はグレゴリーも使えるが、一度目にしたモノを完璧にコピーする物質交換はボーイとガールにしか使えない。
これこそボーイがガールに向けて託した『プレゼント』だったのだ。

「これで機械が作れますね!」
「…いや、喜ぶには早い」

沸き立つ周囲の中、図面に目を通していたクロックマスターがひとり、首を横に振る。

「ヤツめ、とんだ喰わせものじゃな…見ろ。設計図がバラバラになっておる。どこまでも用心深い奴だ…。まぁ…そうしなければ過去のわしが設計図を残させる理由はないが…これを組み合わせるのは至難の技じゃな…」

数枚の紙に、線が重ならないように途切れ途切れに書かれた設計図。こんなパズルをやっていたのではとてもじゃないがタイムリミットに間に合わない。
どうしたものか…と頭を抱えた時、黙って見ていたガールが横からその紙を手に取り並べ替えていく。
そして全てを並べ替え、紙を透かして見ると…。

「「「あ、」」」

そこには『完璧な設計図』が出来上がっていた。

「コレ、思ったより簡単ね!」
「えーっ!?なんで分かるのよ!?」
「なんでって…うーん。でも私にだってこれくらい分かるわ!だってこの紙、いろは順だもの!」

コレよコレ、とガールが指差したのは所々に書いてある書き損じのような図形。

「いろはにほへと…なんて並べ方が決まってるの。多分、私かボーイか…ボンサイさんくらいしかこのホテルでこれが分かるのはいないんじゃない?」

とにかく!とガールが紙束を振るとその手には一枚の完璧な設計図が握られていた。彼女は力強く拳を握る。

「設計図ゲットよー!待っててねボーイッ!!」





「なるほどな…東の国におけるアルファベット順みたいなものか。確かに重要な秘密を探るためであっても、ボンサイカブキに見せてみる愚か者はおらんじゃろうしな」

鏡への録画をした後で僕が説明した情報漏洩対策に頬杖をつきながらもしぶしぶ納得するヤングマスター。

「あ、もう彼もこの世界にいらっしゃってるんですね」
「当たり前だ。彼奴もわしらには及ばぬが魔力を持つ者…この世界に取り込まれるのは決まっておろう」
「魔力…?ひょっとして、あの人も魔法使いなんですか?」

エンジェルが以前言っていた限りではこの世界であっても魔法使いは数えるほどしかいないそうだが…意外な人物がそうであったらしい。確かによく考えてみれば、妄想や幻を見せるなんて一種の魔法のようなものだが。

「何を言っておる。この世界に魔力を持たぬ者などあのサボテン兄妹しか居らぬわ」
「え!もうガンマンもいるんだ!?」
「当たり前じゃろうが。奴らがおらねばお前も此処に居らんだろう?『魔力を持たぬ魂が何故この世界に紛れ込んだか』…お前達審判小僧はそもそもそれを調べに来ているはずじゃが」
「えっ」
「…その様子では調査はまだまだ終わっておらんようだな」

嫌みっぽくため息をつくヤングマスター。
しかしそれも審判にしてみれば初耳の情報だった。
ずっと自分達『審判小僧』はジャッジの特訓のためにこのホテルに滞在しているのだとばかり思っていた。

ここは過去のホテル…ここにならば審判の知りたい情報もあるかもしれない。

「…ねぇ!このホテルに最初の宿泊客って誰!?」
「最初の宿泊客?誰じゃったか…生憎興味のない事だったのでな。覚えておらぬ。宿帳には書いてあるんじゃないか」

宿帳。そうか、過去のホテルであるならば未来ではもう存在しない『最初の宿帳』があるはず!
それに気づいた審判が興奮してさらに質問責めにしようとした時、困り顔のボーイに肩を叩かれ止められてしまった。

「審判、悪いけど後にしてほしい。あまり時間がないんだ」
「左様。無駄話はこれで終いじゃ。さっさとこの馬鹿者がバラバラにした次元転移装置を作り直さねばならん」
「おいらも手伝うよ!」

マイサンも自分のドライバーを片手に手をあげる。なんとなく何かしなきゃいけない気がして審判は控えめに手を挙げそれに続いた。

「あ、じゃあボクも…」
「「ありがとう審判、そうしたら少しそこで座っていてくれる?」」
「はーい」

ヤングマスターが何かを悟ったような、残念な目でこちらを見てくる。後のクロックマスターからあんな目で見られると思えばなんだかすごく嫌な気分がした。未来に帰れたら晩御飯はキノコスープをシェフにリクエストしよう。

そうしてかれこれ30分程作業をぼーっと眺めている。ボーイは集中して何も喋らないし、ヤングマスターはボーイに対してまだ怒ってるのか、こちらも不機嫌顏。
マイサンは二人の間で居心地悪そうに作業している。マイサンすっごく可哀想!

しばらくそれを眺めていた審判は、あまりに暇すぎてだんだんと飽きー…ただ座っている事に罪悪感を感じたので何かしようと思い立った。

「そうだ、せめて食べ物を貰ってこよう!こんな時には栄養ドリンク!」

ファイト〜一発!とドアを開けて物置へと戻ろうとした時、さっき言われた言葉を思い出した。

「過去の知り合いに会うと未来が変わっちゃうんだっけ…」

しばし考えて、審判は一度組立にかかりきりになっている三人をちらりと振り返ってから…大きく頷いた。

「見つからなければいいんだよね!」


こうして審判による『過去のホテル探検』が始まった。


…世の中の大抵の問題とは、まず暇つぶしから始まるものである。


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今年中に更新したかったので!
次回は久々にあのキャラが登場します。

次回、パラドックス発生!〜審判もうお前おとなしくしててくれ〜
気長にお待ちください!


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