GIFT

□【捧】ボクの名前を知らないかい?
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皆さんこんにちは、審判小僧ファーストです。
突然ですが今、わたしは訓練部屋の前にいます。この部屋はわたし達の一番末の弟子である、審判小僧ルーキーの私室も兼ねているのですが…今朝なかなか起きて来ず、訓練のため仕方なく合い鍵でドアを開けたら…部屋の中でルーキーが大きな金属タライに逆さまに刺さっていました。

………状況は全くわかりませんが、面倒事であるとは一目でわかりました。介抱している間にセカンドに親分を呼んできて貰い、その後ようやく気絶していたルーキーが目を覚ましました。

「ああ、気がついた!大丈夫かいルーキー!?」
「ルーキー?なんだいそれは?…それより…君達は誰だい?」

目を覚ましたルーキーが口にした爆弾発言に、今朝購買で買った胃薬を早速飲みました…。




「ほらルーキー!ぼくの名前を知ってるかーい♪」
「なんだい?その変な歌は…ルーキーってボクの名前かい?…あれ?ボクは誰だい?」

サードがお馴染みの歌を歌っても全く反応なし。我々の方が条件反射で口ずさみたくなっただけでした。

「…どうやら…原因はわかりませんがルーキーは記憶喪失になったみたいですね…親分」

振り返ると親分が真っ白になっていました。呆然とルーキーを見つめています。

「ルーキーに『誰?』って言われて相当こたえたみたいだな…親分」
「審判ゴールドなのに真っ白な親分…白金…親分が審判プラチナに進化し…痛ッ!!」

空気を読まない冗談を言ったフォースがセカンドに殴られたのを眺めつつ、わたしは親分に話かけました。

「…あの…親分?大丈夫ですか?ルーキーは記憶喪失になったから…自分自身やこのホテルのことも忘れてるんで…だからあの…親分のことを忘れてしまっていても仕方な…」
「う…うわぁああああーーーーッ!ルーキーの数少ない記憶がぁああーーーーーーッ!!」
「…ああ、やっぱりダメだった…」

…親分の悪い癖です。
いつもは弟子のわたし達の訓練にも熱心で、優秀な審判者で指導者なのですが…末弟子のルーキーを親バカ並に可愛がっています…文字通り、メッキが剥がれるほどに。

そんな人がこの非常時に平静を保てるわけがなかったのです。

説得虚しくパニック状態でルーキーに抱き着いて離れない親分…ルーキーが戸惑っている。

「…ねぇ、この人大丈夫なのかい?」
「大丈夫大丈夫ー。いつものことだから、すぐに落ち着くよ」
「…そう…だいぶ悪いんだね…」

フォースの言葉にルーキーは親分のことを病人か何かのように思い込んだようでした…あながち間違いでもないのが悲しい…。

「…親分。とりあえず今はルーキーを元に戻すための方法を探しましょう!」

思いの強さが大きな影響を及ぼすこのホテルで、記憶のない者がうろうろするのはあまりに危険すぎる。

「そうそう!さっさと治して訓練再開しましょう!」
「…うう…お前達〜…なんて良い弟子達なんだぁあああ…」

浮かんだ涙に金箔が剥がれかけている…上司がこんな時に泣かないでいただきたいものですが、口にはしませんでした。

しかし…

「ねぇ…あのね、ルーキーのことなんだけど…」
「あれー?親分、ルーキーのこと本当に元に戻すのー?」

サードの言葉を遮って、フォースが悪魔的ひらめきを呟きました。

「よかったー!てっきり育て直して真面目なルーキーにしちゃうんだと思ってたよー!!」

ビシリと空気が軋む音が聞こえた気がしました。

わたしとセカンドは互いの顔を見遣り…その目を親分に向ける。ルーキーを抱きしめたまま…親分の顔があさっての方を向きました。

わたしだって、昨日までのルーキーは十分可愛かった…。ですが…ルーキーは事あるごとに訓練をサボるわ、ホテルで騒ぎを起こすわ…はっきりいって、問題児ではあります。

…それが、訓練を真面目に受けるように?二度と妙なことを仕出かさないように?

「「…親分…」」
「…お前達…」

公平なる審判者にあるまじきことですが、この時、わたし達の心の中では三人まとめて天秤が大きく揺れていました。

「だ、ダメですよぅ!そんな事したら、ルーキーがルーキーじゃなくなっちゃいます!!」
「誰も何も言ってないだろーが!だいたい育て直しなんて…それは記憶が戻らなかった場合だろ!」

サードが今にも泣きそうな声で叫ぶ。バツが悪いのかセカンドが怒鳴り返した言葉に、フォースが珍しく神妙な面持ちで呟きました。

「もし…戻らなかったら?」
「「「………。」」」

誰も…何も言わなかった。


重い沈黙を破るように、わたしは目下の対策案を出しました。

「とにかく!まずはルーキーに必要最低限の情報を教えておきましょう。それと、わたし達の他にルーキーを守ってくれそうな人を探しましょう。いつでもわたし達がそばに居られればいいですが…現実的に考えて、さすがに無理ですし」

修行などは中止にも出来ますが、親分はそれでなくとも審判者としての責務があります。そしてそれは我々も同様です。ホテルに滞在している分、仕事は溜まっていく…。

誰か一人を常に付き添わせるにしても、記憶を失い存在が不安定になっているルーキーの身に何かあったら…もしもの時の協力者は多い方がいい。

「ふむ…確かに。現状を考えてそれしかないだろうね…」
「オレも賛成だ」
「ボクも!」

仕事の事を思い浮かべたからか…ようやく落ち着きを取り戻した親分が頷く。セカンド達も他に良い案は浮かばないようです。


「…あの、あのね?ぼく思うんだけど…」
「よっし…まずは基本的な事からだ!いいかルーキー!!お前はオレ達と同じ『審判小僧』と呼ばれる者だ!!そんで、この方がオレ達の親分の審判小僧ゴールドだからな!!」

両肩をつかんでまくし立てるセカンドの言葉に、ルーキーがぱちくりと目をしばたく。

「…『親分』?」
「そうだよ!師匠で親分でボクらのゴッドファーザーだよ!!」
「フォース黙ってろ!!」

フォースが茶化して言った言葉に、奇跡が起きた。

「?ゴッドファーザー………えっとつまり、お父さん?」

普段あれだけ親分に冷たい、それこそ反抗期真っ盛りのルーキーの口から…耳を疑うような大間違いの解答が出た。

その途端、バリィッ!!と嫌な音がしました。振り返ると…親分が顔を押さえて俯いています。
恐らく…あまりの不意打ち的優しい言葉に表情が緩みすぎてメッキが剥がれたに違いない…。

「…だ?大丈夫?やっぱり悪い病気?」
「アハハ!大丈夫いつもの事だよー」
「…でも血が…それになんか泣いて」
「大丈夫大丈夫どうせ鼻血と嬉し涙だから!…気にしちゃ負けだよ、ルーキー」

そう語るフォースは、吹き出す寸前まで頬を膨らませて笑っていました…。


とりあえず親分のメッキを再生させるべく、サードとフォースが仕事を思い出させている間に、セカンドとわたしは協力者を探しに行きました。


「いいかルーキー、オレ達『審判小僧』は真実を見抜く力がある。両手に下がってる天秤がソレだ。真実ならハートの入った籠が…偽りならドルの入った籠が重くなる」
「?」

困ったように首を傾げるルーキー。言葉ではイマイチ分からないようだ。セカンドが肩を落としてルーキーの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「…まぁいい…ためしに実践すりゃ分かるな…」

息を吸い込み、ロビーの扉を開けたセカンドは大声で叫びました。

「審判小僧が記憶喪失になったぞーーーッ!!」
「「「な、なんだってぇーーーッ!!!」」」

ロビーにいた者も、いなかった者も駆け寄ってきます。

「マジ記憶喪失か!?オレお前に3万貸してたんだぜ!?」
「じゃあオレ5万ー!!」
「アタシ20万ー!!」
「うわぁ右腕がぁーーーッ!!」

パブリックフォン、地獄のタクシー、デビルドッグの嘘に反応してドル籠が重たくなったのでしょう…急に右腕を引っ張られて倒れそうになったルーキーをわたしはとっさに支えました。

「お約束な嘘ついてんじゃねーよ、てめーら!つーかタクシー…じゃあってなんだじゃあって!!」
「それよりエンジェルの20万の方が欲張りすぎだろ!!」

「大丈夫かい?重たくなったら重さに逆らわずに腕を下げていいんだよ」
「…ふぇえ…こうゆう事だったのかぁ…」

三人が嘘を認めてようやく軽くなったドル籠を目をしばたかせながら眺めるルーキー…。

…どうやらジャッジのやり方は忘れてしまったみたいだが、ジャッジの能力自体はまだ生きている…やはり最初に発見したのが我々でよかった…とわたしが一人頷いた時…。

「記憶喪失ぅ〜?大丈夫〜これは採血が必要かしらァ〜?」

わたしがとっさにルーキーを抱き抱えて体ごと回転させると、さっきまで立っていた場所に巨大な注射器の針が突き刺さった。

「あらん、いやねぇ〜…間違えちゃったわぁ〜?」
「また右腕が重くなった!」
「正解…だけど聞きたくなかったなぁソレは!!」

専属の看護婦キャサリンの注射器は、明らかにわたしを狙ってた…。
再び襲い掛かってきた針をドル籠で防ぐ。格子に絡まった針がギチリと音を立てた。

「…動くと折りますよ…」
「あらぁ残念…アナタはまた今度採血してあげるわぁ〜」
「…ご遠慮シマス!」

セカンドが大声で叫んだりするから、こんな目に…!と非難の目を向けると、セカンドが口を開きました。

「…と、このような危険がいっぱいだから一人でうろうろしないように!」
「はーい!」
「頼むから、わたしを教材にしないでくれないかい!?」

後輩達の自由っぷりに、また胃が痛くなってきた気がしました…。

「まぁそんなわけで…ルーキーが記憶喪失になったからちょっとアンタらの知ってるルーキーを教えてやってくれ」
「趣味は献血よォ〜」
「いつもボクと遊んでくれるよ!ニャハハハ!」
「…人の三倍…食事をする…」
「厄介者じゃ」
「病気がちですな!」
「大切なお友達よ!」
「…落ち着きのある…静かな人だよ」
「アミーゴはアミーゴだぜ!」

「なんでだろう…さっきから右と左が交互に重くなる…」
「それで正解だ!あとは暇な時に自分で聞いて回れ!!」
「ちょっと!さっきと言ってる事が反対だよセカンド!?」

慌ててツッコミをいれるとセカンドは、強い口調で語った。

「だって面…自分の身くらい、自分で守れるようじゃないと危ないだろ!!」
「いや、だからって一人にしちゃダメだからね!?危なすぎるからね!?あと今キミ…面倒って…」
「あの〜…二人とも…」
「誰も面倒なんて言ってないだろ!」
「言いかけただけだって言うんだろ!?キミはいつもそうだよ!」
「…あのね!二人とも!」
「なんだよ!お前だって…いつも優等生面しやがって!!」
「ちょっと待ちなよ…ぼくがいつ優等生面したって!?」
「〜…二人ともちょっと聞いてよッ!」
「「うるさいお前は黙ってろ!!」」

言い争う二人に怒鳴られて泣きそうな顔で立ち尽くすサード。

「カエル占い師さんから…あずけてた記憶をもらってくればいいんじゃないかなぁ…って…うっ…ううっ…」

置いてきぼりをくらったルーキーの手を引いて、フォースは泣き出しそうなサードの肩を叩き、首を横に振った。

「いいよもうー…やらせとこうよ。ボクらで連れて行けばいいじゃん。いこいこー」
「ふぇえ…待ってよフォースちゃぁ〜ん…」

…数時間後、ルーキーがいなくなっている事に気がついた二人が慌てて戻ると…すっかり記憶の戻ったルーキーと親分の説教…なぜか冷たい後輩達が待ち構えていた。


「…くっそ〜…なんでオレ達が訓練部屋の罰掃除なんて…」
「…仕方ないだろ…おや?なんだこのヒモ…『ドリフ注意』?」


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リツ様の相互リクエスト「審判記憶を失う!」の巻きです。
今回も審判多めです。あと親分がだいぶメッキ剥がれてます…ごめんなさい!親分ー、メッキメッキ!というツッコミとともにお読みください。(ドリフオチ繋がりで)
全体的には、セーブはこまめにね!という話です。…ソウルコレクター、まだミイラパパで止まってますけどね…。

こんなお話でよろしければ、どうぞご自由にお持ち帰りくださいリツ様!
最後になりましたが、相互リンクありがとうございました!


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