GIFT
□【捧】ウンババのオン返し(審判多め)
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夜が静かに更けていこうとするグレゴリーハウスの前庭…誰のモノだか分からない墓石でいっぱいのその場所に…一際場違いな浮かれた鼻歌が響く。
「ふんふんふ〜ん♪ボクの名前を知ってるかーい♪審判小僧と言うんだよ〜♪…ようやくバイトが終わったよ〜…これでグレゴリーにこき使われる日々ともサヨナラさー!!」
いつもよりやや高めのテンションで、審判小僧はくるくると回りながら…満面の笑みで手の中の茶封筒を握りしめた。
「長かったけど…これでようやく欲しかったモノが買えるよ〜…これで毎日『オオオカエチゼン』の名ジャッジが…!!」
薄給でこき使われたが、辛抱の甲斐あって封筒には結構な厚みがある。
とりあえず誰かに妨害されないようにゆっくりと中身を確認するためにと、誰もいない前庭へとやって来たのだった。
しかし…。
「…あれ?」
玄関の階段に腰掛けて封筒を開けようとした時、彼はある違和感に気がついた。
墓石の影に、ひょこひょこと小さな人影が見えかくれしている。
子供達はホテルの中で遊んでいた気がしていたが…。
「誰かいるのかい?」
「ンバッ!?アロッ!アロッ!!ウンババ〜〜〜!!」
ホラー映画なら鉄板で襲われる状態にもかかわらず、審判小僧は一切迷わず、軽々しくひょいっと墓石の裏を覗き込んだ。
…一方、突然の審判小僧の出現に驚いたのか…人影は慌てて逃げようとしたが、ガシャン!と音を立てて盛大に転んでしまった。
「おやおや〜?ずいぶん珍しいお客さんだねぇ?」
それは小さな子供のウンババだった。
ウンババは普段グレゴリーハウスの周りの森の中で生活しているため、滅多にホテルの近くでは見られない。
…群れからはぐれて迷い込んだのだろうか…その足を罠に挟まれていた。
「うわッ!ひどいな〜…こんなことするのはトラップマウスだね!?大丈夫かい!?余計にケガするから暴れちゃダメだよ!!」
逃げようともがくチビウンババの足を挟んでいる罠を、審判小僧は素手で捩曲げて無理矢理開いた。…重たいダラーとハートをただただ振り回す日頃の訓練が、ジャッジ以外にも役に立った瞬間だった…。
ようやく自由になったウンババは走り出そうとしたが、数歩も歩かないうちにまた転んでしまう。
「大丈夫かい?ダメだよそんなに急に走ったりしたら…そら、バンソーコーと包帯と…」
テキパキと手当をしていく審判小僧。
「うん、これでよし…訓練の時用の救急セットが余っててよかった!」
「…ウー…ウンババ〜〜〜…」
チビウンババは最初は警戒しながらもニコニコと笑顔を見せる審判と自分の足を交互に見ていたが…しばらくすると、ぐぅう〜〜〜ッとお腹を鳴らして俯いてしまった。
「…もしかして、お腹空いてるのかい?」
「ウンババ〜…」
ぐ〜〜〜…
またしても切ない声を上げるお腹を押さえ、肩を落としているウンババに、審判小僧はしばらく考えてからちょっと待ってて!とホテルに駆け込んで…戻ってきた。
両手に大量の缶詰を持って。
「はい!ちょうど購買にこれしかなくって悪いんだけど…エコロジー缶詰だよ!気に入ってくれるといいんだけど…」
「ウンババ!ウンババ〜!!」
つぎつぎに開けられる缶詰をウンババはすぐに平らげてしまった。
「気にいったかい?よかった!本当はもう少しあればよかったんだけど…それだけしか買えなくて…やっぱりグレゴリーはケチんぼだよねぇ?」
「アロ〜?ウンババウンババ!!」
くしゃくしゃの空封筒をポケットにツッコミながら、審判小僧がウンババの頭を撫でる。
会話は通じないが、嬉しげに撫でられているウンババを見て審判小僧も笑顔を浮かべた。
「やっぱり、誰かのために使った方がいいもんね!親分もきっとその方が喜んでくれるし…」
でもやっぱり知られるのは恥ずかしいなぁ…けどせっかく許可を取ってまでアルバイトしたから、何に使ったか聞かれそうだなぁ〜…どうやってごまかそうか〜?…などと呟きながらウンババの頭を撫でていた審判小僧は、ハッと気がついた。
「そういえば…明日は朝からジャッジの訓練じゃないか!遅刻者は居残り補習!」
寝坊なんかしたら大変だよ!!と審判は大慌てで空き缶を片付けた。
「じゃあね!もう罠にかかっちゃダメだよ!!」
空き缶を抱えて慌ただしくグレゴリーハウスの玄関に消えた審判小僧の背中を、庭に残されたウンババはただただポツンと眺めていた。
そして、しばらくして…小さな人影はグレゴリーハウスの庭から消えた。
グレゴリーハウスの外…森の方ではなく、『中へ』と………。
そして翌日…。
目が覚めたら、訓練開始の5分前だった。
「うわーーーんやっぱりーーー!!ヤバいよヤバいよまだ先輩達来てないよね!?急いで着替えなくっちゃー!!」
その時、ドアがノックもなくいきなり開けられた。どうやら昨日は鍵をかけ忘れて寝てしまったようだ…。
「ルーキー!起きてるか!?」
いつもと違い、一目で怒っていると分かる表情の審判ゴールドがずかずかと入ってくる。
「うわぁ親分ダメまだ開けないでーーー!神様上様仏様お願い時間を戻してタイムイズマネーーー!!」
「うるさい!とっとと起きろ!」
反射的に毛布をかぶって隠れようとした審判小僧から毛布を取りあげ、ゴールドはおかしなことを口にした。
「お前…クロックマスターか?それとも息子の方か?」
「え…?(なんだかよくわからないけど親分すごく怒ってるよ…タイムイズマネーなんて言ったから!?)」
いつもの親分じゃない…と、思いきりうろたえる審判小僧に、ゴールドが吠える。
「早くハッキリしろ!!どっちだ!!」
「ししし審判小僧ですッ!!」
審判の口にした答えに、ゴールドの片眉が跳ね上がる。それを見て審判は何か違和感を感じたが、その正体について深く考える前に、ゴールドに再び怒鳴られてしまった。
「…あぁ?今お前『タイムイズマネー』って言ったじゃねーか!!」
「スイマセンごめんなさい寝坊したから時間が戻ったらいいな〜…ってちょっと思ったんです!!」
下げようとした頭を捕まれ、至近距離でジーッと見つめられる。審判小僧は背中に冷や汗が伝うのを感じた…。
「…本当にルーキーみたいだな…。まぁいい。よく聞け…こいつは冗談とかじゃないからな?いいか…俺は親分じゃない。審判セカンドだ」
「………え?」
「見てくれは親分だろ?だけど俺は審判セカンドだ。…何が原因か分からないけど、入れ替わっちまったんだよ『中身』が!!」
説明する間にも、審判ゴールドの靴先がタンタンと苛立たしそうに床を踏んでいる…たしかに、これはセカンドの癖だ。
「…でも、朝起きたら入れ替わってたなんて…あ、そうかスタンド攻げ」
「全然信用してねーな!まぁいい…ちょっと来い!目玉飛び出るぜ…」
「うわッ!ちょっと待ってまだ着替えが…!!」
「そんなもん後だ!!」
審判ゴールド(セカンド?)に腕を引っ張られて、ロビーに着いた審判小僧は確かに驚愕する羽目になった。
そこにはホテルの住人が集まっていたのだが、皆が皆…どこかおかしいのだ…。
コック服に身を包んだボーイが巨大な包丁をずるずると引きずっているのを、泣きそうな顔でシェフが止めていたり…。
エンジェルドッグが妙に口の悪いロストドールをわたしのお人形…!!と満面の笑みで抱きしめていたり…。
ニコニコと笑って怪しい薬を飲み、泡を吹いて倒れるクロックマスターと、頭を押さえてふらふらと倒れるミイラパパ…は、いつも通りかもしれないが…。
皆が皆、まるで入れ代わってしまったかのように行動がおかしい。
「…いったい何があったのさ…これは…?」
「やぁルーキー…君は無事だったんだって?よかったよかった…」
審判小僧が振り返ると、光り輝く爽やかな笑顔の審判セカンド、涙を目にためた審判ファーストと、青ざめて胃を押さえているフォース、記念に写真撮影しようよ!と口にしてゴールドに殴られたサードがいた。
「えーと…サード先輩がフォース!フォースがファースト先輩!ファースト先輩がサード先輩で…セカンド先輩が親分!!」
「ナイスジャッジだよルーキー!その通りだ!!」
目の前のセカンドは、セカンドにあるまじき優雅さでパチパチと拍手をした。そのありえない爽やかな笑顔も、中身がゴールドであるなら納得できる…。
「…本当に入れ替わっちゃったんですね…?」
「信じる気になったようだね?…その通り。原因は不明だが…現時点でここにいる全ての人物の中身が入れ替わってしまったようだよ…。ルーキー、君以外はね」
やれやれ…だからこのホテルは…と肩をすくめるセカンド(ゴールド)は、審判の格好に気づいてやんわりとたしなめた。
「…それと、君だけがまだ寝巻きのようだね?安全確認はすんだ事だ…今日はジャッジの訓練は中止にするが…今のうちに着替えてきなさい。セカンド、念のために一緒に行ってきておくれ」
「…了解です。ほら、行くぞルーキー」
「あ、ハイッ!!」
自分の姿をしたセカンドの背を審判小僧が追いかけるのを見送り、審判ゴールドはため息をついた。
真面目な顔をしたフォース…もといファーストが、心配そうに問いかけた。
「親分…原因はなんでしょうか?」
「そうだね…私の個人的な考えだが…やっぱりウンババという森の一族が関わってるんじゃないかな…?」
「でもウンババは森の奥に住んでて、滅多にホテルに近寄りませんよ?それに一度にこんなに沢山の人数…ホテルの中で踊りまくらないと無理でしょう?それに、なぜルーキーだけが無事だったのでしょうか?」
「…そうなんだよねぇ。まさかウンババがホテル内にいるわけないし…」
その頃…クローゼットを開けた審判小僧は凍りついていた。
「アロー!ウンババウンババ!」
とっさに扉を閉めてしまったが、見間違えるには難しい茶色の生き物が居た気がする。
審判は、そっと扉を開いた。
「アロー?」
「…やっぱりいる…。君、昨日の子だね!?ダメじゃないかホテルに入ってきちゃあ…」
「ウンババ!!」
「…もしかして、皆が入れ替わっちゃったのは君がやったのかい?」
「…ウンババ!!」
「そうなんだね!?ああ…どうしよう…皆にバレたら大変だよ!!」
「ウンババ〜!!」
審判が頭を抱えたその時、セカンドが予告なしに扉を開けた。
「おいルーキー着替え終わったか?」
「親ぶ…セカンド先輩!ノックぐらいしてください!!」
とっさにクローゼットを閉めた審判は胸を押さえて息を調えた。…心臓に悪い!
「お前が遅いのが悪いんだよ!まだ終わってねぇのか…あと上着だけだろ?早くしろよ」
「わかりました早くしますから出ててください!!」
「ちッ!早くしろよ!!」
こちらに背を向けたセカンドに、ほっと胸を撫で下ろしたした瞬間…。
『ぐ〜〜〜…』
ウンババの腹の音が部屋に響いた。
セカンドの歩みが止まる。
「…今なんか聞こえなかったか?」
「ききき気のせいですよ〜!空耳空耳!」
振り返るセカンドに、審判はぶんぶんと首を振った。
「…そうか…?お前なんか隠してないだろうな?」
「かか隠して…ない…ですよッ!?」
…その時、無情にも再びウンババの腹の虫が鳴いた。
『ぐ〜〜〜…』
「まただ!また聞こえたぞ…。…ルーキーお前、なんでクローゼットに背中を向けてるんだ?着替えるんじゃなかったのか?」
セカンドの指がクローゼットをまっすぐに指す。
「…ひょっとして…その中に誰かいるのか…?」
「い!いやだなぁ…中に誰もいませんよ!!」
「そうか…じゃあ開けてみろ。中に誰も居ないなら開けられるよなぁ〜?」
「………。」
何も言わない審判小僧に、セカンドが手を伸ばす。その手はしっかりとクローゼットの扉にかけられていた。
「…開けないなら…開けさせてもらうぞ?」
「あッダメッ!!」
審判小僧の制止を無視して勢いよく扉を引くセカンド。
「………なんだ、誰も居ないじゃないか。それにしてもぐちゃぐちゃだな…」
「すいません…だから開けないでって…」
恥ずかしそうに言う審判の言葉に、セカンドはため息をついて、くるりと背中を向けた。
「…全く…少しは片付けろ。廊下にいるからな」
「…はい」
セカンドが扉を閉めたのを確認した審判はため息をついてその場に座り込んだ。
「…危ないところだったぁ…とっさに背中に隠しちゃったけど…よくバレなかったなぁ…」
「ウンババ!」
「…しぃー…静かにしててね。おかげで訓練はなくなったけど…これから、どうしよう…」
審判が頭を抱える周りをウンババが楽しそうにくるくると回った。
「…それにしても…グレゴリー、君は随分落ち着いているね?」
審判ゴールドの問いかけに、ジェームスの体になったグレゴリーが振り返る。
「…ふん、何回目だと思っとるんだ?…流石にこっちも慣れたわい…今タクシーにウンババを連れて来させているところじゃ」
「…まぁ、明日は新月だから魂に詳しい誰かさんも来るしね?」
その誰かさんに借りを作りたくないグレゴリーは、話をそらした。
「…そういえば、お前さんこそ…真実の天秤でジャッジすれば一発じゃろう?」
審判ゴールドは、どこか楽しげに笑っていた。
「…たまには自分の頭を使って考えるのもいいさ。…それに…間違えを自分から認めるのを待つのも、親分としての在り方だろう?」
「………なんだそれは?」
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えーリツ様リクエストのオールキャラ入れ替え祭…いかがだったでしょうか…オールキャラになってましたか?
本当は解決までの予定だったんですが、さすがに無理があったようです。字数的に(ここまでで一万字ちょいくらい)
珍しく審判小僧が振り回された今回。とりあえずやりたかっのはナウ●カです!(なんにもいないわ本当よ!!)
子供がごめんなさいを言い出すのを待ってみるのも親の醍醐味です。
審判はちゃんと謝ったのか…ご想像にお任せします(笑)