GIFT
□【捧】天使の退屈〜鼠の憂鬱〜
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「ヒマだわ〜…チョー退屈!サッカー中継もやってないしぃー…何か面白い事ないかしらね〜………あら?」
暇を持て余したエンジェルドッグがホテルの廊下を歩いていると…面白そうなモノを見つけた。
天使も歩けば暇つぶしに当たる。エンジェルドッグは今日も絶好調な己の幸運に感謝して…悪魔の微笑みを浮かべた。
そして、これから自分の手によって不運に突き落とされる相手の肩を叩く。
「ハァイ☆…なんだか面白そうなこと…してるんじゃない?」
ピンク色の化粧箱を持って、グレゴリーは眉をひそめた。
「おいタクシー…この箱はなんじゃ?」
ホテルの必要物資の調達は、グレゴリーから依頼を受けた地獄のタクシーがこなしている。
ロビーで商品の受け渡しをしていたのだったが…調達から帰ってきたタクシーは、購入リストに入っていない物をグレゴリーに渡して寄こしたのだ。
「いやー…外で珍しいチョコレートが売ってたんで買ってきたんですよ!よかったらどうぞ!!」
「………お前の普段の勤務態度はこんなモノではごまかしきれんぞ?だいたい…ワシはチョコレートなんぞ食わん」
「あははははーそんな理由とは違いますよ!旦那が好きそうだから買ってきただけです…まぁ開けてみてくださいよ!」
嫌な予感がしつつも、グレゴリーは恐る恐る箱を開けてみる。…そして静かに蓋をした。
「…タクシー!貴様…いったいなんだこれはーーーッ!!」
「え?何って…おっぱいチョコレートですけど?」
ニヤニヤと笑いながらさらりと答えるタクシーに、グレゴリーは吠えた。
「見ればわかるわッ!!言い方を変えるぞ…いったい、何の、つもりだ?」
タクシーはグレゴリーの狼狽ぶりに思惑通り、とでもいうような笑顔をしていた。
「ジョークですよー、ジョーク!驚かせようと思って。これでもわざわざ大きめサイズを選んできたんですよー?旦那の好きな大きめの」
「分かった!もうしゃべらんでいい!!」
遮るようにグレゴリーが言うと、タクシーは首をかしげる。
「あれー…気に入りませんでしたか?なら自分がー…」
「…いや…一応貰っておく。…か、勘違いするな!子供達やシェフに見つからぬように、処分するだけじゃ!えぇい…そんな顔で見るな!何が言いたい!!」
慌てて付け加えるグレゴリーにタクシーはニヤニヤと笑いながら首を横に振った。
「いえ別に…じゃ、そーゆー事にしときまーす(笑)それじゃー見回り行ってきまーす」
「おい待て…誰にも言うんじゃないぞー!!…まったく…近頃の若いもんは年寄りをからかいおって…」
ピンクの箱に視線を落とし、ため息をつく。しかし…確かに大きめだったな…とグレゴリーは少し頬を緩めた。
「ワシはチョコレートは好かんが…大きめのモノは大好きじゃ…あやつもなかなか見所があるじゃないか…ヒヒヒヒヒッ」
次の給料は少し多めにしてやろうか…と考えていたグレゴリーの肩を、誰かが叩く。
振り返るとそこには、天使の姿をした悪魔がいた。
「ハァイ☆…なんだか面白そうなこと…してるんじゃない?」
突然のエンジェルドッグの出現に、もしや話を聞かれたかとグレゴリーはうろたえた。
「エ…エンジェルドッグ!?貴様…いつからそこにいた!!」
「ついさっきよ〜…『子供達やシェフに見つからないように…』ってとこからかしら〜?」
エンジェルドッグの笑みが目の前でデビルドッグに変わった。
グレゴリーの背筋が凍る。
デビルドッグがいつもの槍の代わりに、大きなメガフォンを構えた。
すぅ、と息を吸い込む音が聞こえる。
「安心しなさいよグレゴリー…アンタが外の世界のスッゴく大きいチョコレートを、一人で食べようとしてるなんて…絶対誰にも言わないから!!」
メガフォンごしにされた大音量の約束に、グレゴリーは青ざめた。
すぐにいくつものドアが開かれる音がする。
「おじいちゃんズルいよ!ボクも食べたいー!そんなヒトリジメするよーなズルいおじいちゃんには…お仕置きが必要だね!!」
「うわーい!お仕置きだぁー!!」
いったい中でどんな遊びをしていたのだろうか…その手にチェンソーと斧を持って自分の孫と子供たちが自室から出てくる。
それよりも恐ろしいのは『食堂』のドアが開いたことだった。
扉を開けて出てきたのはシェフだった。
本当に地獄から聞こえてきているのではと思うほど、低く怒りに満ちた声が響く。
「…グレゴリィイイイ………!!」
ちなみに、ホテルに入ってくる食べ物は、ほとんどが『食材』である。…当たり前だ。
「…命も惜しくないほど…オレの料理より…食いたいのかぁあああ…?」
文字通り、地獄のシェフを烈火のごとく怒らせることが目に見えているからである。
グレゴリーの手の中の箱を見つけると、その手に持つ包丁がギラリと光る。包丁を振りかざすシェフにグレゴリーはたまらず逃げ出した。
さっきまでいた場所の床板が包丁の直撃を受けて粉々に吹き飛ぶ。
「ぎゃあああああああああーーーーーー!!」
かくしてホテルの支配人が追われるという…世にも奇妙な地獄の鬼ごっこが始まった。
「アンタは行かないのかい?他の奴にチョコレートが取られちゃうよ?」
冷たい石畳の上で、座り込むネコゾンビにデビルドッグが話しかける。
「…気が進まないニャ」
廊下をバタバタと複数の足音が通り過ぎていく。何かが壊れる音に混じって、時折、グレゴリーの悲鳴が聞こえた。
「本当に…気が進まないニャ…」
ネコゾンビがため息をついて立ち上がる。するりと足枷が外れた。
エンジェルドッグが笑って問いかける。
「助けてあげるつもり?それとも追い詰める?」
ネコゾンビはドアノブにかけた手を一瞬だけ止めて、笑った。
「…ネコがネズミを追いかけるのに理由が必要かニャ?」
扉を開けて飛び出していくネコゾンビの背中を見ながら、それもそうね…とエンジェルドッグは満足そうに頷いた。
「大人しく出てこい…グレゴリィイイイ…!!」
「おじいちゃーん!どこに行ったの〜?隠れても無駄だよ〜!!ニャハハハハ〜」
忌ま忌ましいピンク色の箱を抱えて、グレゴリーは食卓テーブルの下で震えていた。
ホテル中走り回ったが、シェフを怒らせたグレゴリーを誰も助けてくれるわけがなく、あっさり見捨てられ…今では2階にも地下にも追手がいる状態だ。
追い詰められ、やむなく逃げ込んだ食堂で身を潜めている。
「…何故…何故ワシがこんな目にあわなければならないのだ…!」
本来であれば楽しく追い詰めていく側はホテルの支配人であるグレゴリーの役割だ。それが今度は追い回される役とは…しかも自分のホテルの住人達に。
あまりの事態に小声で呻いたその時、つま先に影が落ちた。
ゆるゆると視線をあげると…糸の隙間から見える赤い瞳がテーブルの下を覗きこんでいた。
「…見つけたニャ…」
縫い付けられた口を歪めてネコゾンビが薄く笑う。あらたな追手の出現にグレゴリーは恥も外聞もなく叫び声を上げて逃げ出した。
「NOOOOOーーーッ!!」
「待つニャ…グレゴリー…チョコレートを渡すニャーーーッ!!」
「いたぞ!おじいちゃんだ!!」
「…ゆーるーさーなーい…!!」
グレゴリーを先頭にして後に続くように全員がロビーに向けて走る。…またも不毛な追いかけっこが開催されようとしたその時、グレゴリーの目の前に天の救いが現れた。
「ちょっと何やってんだいアンタ達!うるさくて私の部屋まで響いてるよッ!!」
「おおッ!これはこれは…ママではありませんか!!私のせいではございません!あやつらが人の話も聞かずに追い回してくるのです!!」
グレゴリーはそういうとサッとママの後ろに隠れた。ピンチだったこともありグレゴリーにはいつもの倍、ママが美しく見えた。それでもシワシワだが…。
「あッ!おばーちゃんだ!!」
「むぅ…グレゴリー…ママを盾にした…ずるいぞ…」
グレゴリーママ相手では、さすがのシェフも分が悪いと見えて、背中の後ろに包丁を隠した。
「今さら隠したところで、背中の後ろに包丁がはみ出しておるわい!馬鹿め!」
グレゴリーの言葉に、慌ててシェフが包丁を持ちかえるが、サイズがサイズなのでどうあがいても見え続けている。
「で…?この騒動の原因は何だい!?」
ママの問いかけに、全員がグレゴリーの持つ箱を指差す。
「おじいちゃんが外の世界の大きなチョコレートを自分だけで食べようとしたんだよ!!」
「はぁ?本当なのかいグレゴリー?」
ジェームスの言葉にママが振り返り、グレゴリーの持つ箱に手をかけた。
(マズイ…忘れておった!!)
グレゴリーは箱の中身を思い出し、何としてもママの手に渡らないように箱を強くつかんだ。
「いえこれは!その…!…ゴミです!!処分するところだった物で!!」
食べ物を捨てる発言に、シェフが目をむいたが気にしてはいられなかった。
「いいから!およこし!」
「絶対ダメでございますッ…!!」
グレゴリーとママが両端をつかんで引っ張りあう。
…その時、耐えきれずに箱がビリィッ!!と音を立てて壊れた。
全員の目の前で宙を舞い散るチョコレート。
タイム・イズ・マネーでも使ったのか…時が止まった気がした。
一瞬の空白を置いて、子供たちが歓声を上げる。
「おっぱいだーおっぱいだー!!」
「すごいや!おっぱいのチョコレートだ!!そっかぁ!おじーちゃん、だからヒトリジメしようとしたんだね〜!ニヒヒヒッ!!」
さっきまで怒り心頭だったシェフは何も言わず…ただ何とも言えない視線だけをグレゴリーに向けていた。
グレゴリーママが怒りに肩をプルプルと震わせたまま、叫んだ。
「グ…グレゴリィイイーーーーーー!!アンタって奴は…どうしようもないバカ息子だねぇ!…こんな恥をアタシにかかせるなんて…覚悟おしよ!?」
耳を掴まれ、グレゴリーはママの手によって引きずられていった。しかしグレゴリーはそれでも構わなかった。
今の彼には、どんな罵声やお仕置きよりも…この場の沈黙と空気のほうが堪え難く辛かった…。
「やれやれ…ママが来るなら、ボクの出番はなかったニャ…」
ああ見えてママはなかなか優しいニャ…と呟くネコゾンビ。
その横で料理人が真っ白になっていた。
「…オレの料理は…アレに負けたのか…?」
徐々に灯火が小さくなっていく料理人にネコゾンビはため息をついて、口を開いた。
「シェフ。今日のおやつはチョコレートがイイと思うんだけれども…ボクはさすがにアレは食べたくないニャ。かといって捨てるのも勿体無いニャ…もっとマシなものに作り変えてくれないかニャ?…あの量なら…皆で食べられるケーキになりそうだニャ?」
「ケーキ!?ケーキ作ってくれるの!!」
「うわーい!ケーキ!」
子供たちの歓声に、シェフの蝋燭の炎がゆっくりと強くなる。
「待ってろ…食べきれないくらいの特大サイズを作ってやる…」
「それはいいニャ。チョコレートケーキはチョコレートと同じくらい大好物ニャ」
一度後ろを振り返り、ネコゾンビはシェフと子供たちの後をゆっくりと歩いて行った。
「…行ったみたいだぜ、エンジェルドッグ!」
「すっごく面白かったわぁ〜グレゴリーの顔ったらなかったわねぇ!!もう大成功ね!」
「あったり前だろ…オレが手伝ったんだから」
タクシーがため息をつきながらビリリとその顔をはがし…元のパブリックフォンの顔に戻る。
実は最初にグレゴリーに問題のチョコを渡したのは、タクシーに変装したパブリックフォンだったのである。
今日も今日とて懲りずに悪事を働こうとしていたところをエンジェルドッグに見つかり、弱みを握られて暇つぶしの手伝いをさせられていたのだ。
「頼むぜ〜…ここまでしたんだから、タクシーにはこのこと絶対黙ってろよ〜…エンジェルドッグ!」
「この事って?」
キョトンしているエンジェルドッグに、パブリックフォンは笑って言った。
「タクシーの制服パクッたりしたことだよ!頼むぜオイ!もしタクシーにバレたら…オレ絶対轢かれちまうよ!!だから絶対言うなよ!?」
エンジェルドックはニッコリと笑って言った。
「そうねー…アタシは言ってないわよ。ねぇ?タクシー」
「へ…?」
ポカンとしたパブリックフォンは背後に立つ何者かにガシリと肩を掴まれた。
「へぇー…なんか制服が足らないと思ったらそーゆーことかぁー…パブリックフォーン…お前、人の制服使ってナニしてたのかなぁー…あ゙ぁ?」
自分の後ろから伸びる長い影に、パブリックフォンはゆっくりと振り返る。
その青ざめた顔を見て、エンジェルドックが静かにデビルドックに変身した。
「?…今…悲鳴が聞こえなかったか…?」
「気のせいだろうニャ」
「…そうだな」
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せーの…(^д^)、クダンネ!ペッ
こんな下らないネタしかも内容が伏せ字。捧げモノでさえ自重できないダメな大人代表…ナンダコレです!
ギャグ人間にギャグを求めると大惨事☆になります。ご注意ください。
ネコゾンビ出演をリクエストされたんだが…ネコゾンビを可哀相な目に合わせられない件について…はい、良心の限界を感じました。
え、グレゴリーさんの公開処刑?なんの事で?
最初はネコゾンビにも追いかけられる予定だったんにネコゾンビが寸前でデレたんだ…だから容赦はいらないと思った(鬼)
こんなクダンネ作品しかも内容伏せ字…キリュウ様。
どうぞお納め…エアーキャンプファイヤーで燃やしたって下さい。