GIFT
□【捧】NIGHT TRIP (GHSグレゴリー+ボーイ)
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ノックの音にドアを開けると、そこには珍しい人が立っていた。
「…夜分に失礼いたします…実は、お客様にお願いしたい事がございまして…よろしいですかな?」
この人が僕に頼み事だなんて…珍しい事は重なるものだ…と思いながらも、僕は頷いた。
「ええ、かまいませんよ…グレゴリーさん」
グレゴリーさんの頼み事というのは、ある物の修理だった。
「…住人の間の噂では、お客様は手先がとても器用でいらっしゃるとか…でしたら私よりもよほど上手く直せるかと思いまして…」
向かい側の席に腰掛けたグレゴリーさんが手渡してきたソレに、僕は少しだけ驚いた。
「それはいいんですけど…ずいぶん本格的な模型ですね?…車輪を付け替えるなんて、まるで本当にレールの上を走る列車みたいだ」
僕は工具で車輪を外しながら列車の模型とグレゴリーさんとを見比べた。
こういった物を持っているとは聞いた事がなかったが…意外な趣味という奴だろうか?
僕がしげしげと模型を眺めていると、グレゴリーさんが咳ばらいをした。
「あの…お客様?…くれぐれも、余計な改造などはなさらないよう…」
「…なんですかソレ…しませんよ改造なんて!」
「いえ、一応申し上げておきませんと…」
疑わしげな目で僕を見ているグレゴリーさんを軽く睨む。
「…グレゴリーさん…僕のこと、なんだと思ってるんですか?」
「それは地獄のメカニッ…いえ!あの…あのガール様と大変仲がよろしいので、一応申し上げただけでございます!」
慌てて言葉を取り繕うグレゴリーさんに、僕はため息をついた。
「…グレゴリーさん…僕はガールみたいにハタ迷惑な事はしませんよ。一緒にしないでください」
「そうでしたかねぇ…?」
「………何かおっしゃいましたか?」
「!?いえ、何も!!」
「…そうですか…アレ?なんで僕ドライバー逆さまにもってるんだろう?…まぁいいか」
向かい側では何故かグレゴリーさんが汗を拭いていた。冷房が効いているとは言えないが、グレゴリーさんって暑がりなんだな…。
ドライバーを持ち直して作業に戻る。黙々と修理している僕をグレゴリーさんが今度は静かに見ていた。
…ふいに可笑しくなり、笑ってしまう。
「…どうかなさいましたか?」
「…いえ…まさかグレゴリーさんとこうして向かい合って、座ってるなんて…以前は考えた事もなかったものですから…すいません」
グレゴリーさんがああ、と頷いた。
「…互いに魂をかけてホテルから脱出したお客様と、それを阻もうとした私が…今ではただ向かい合って座っている…確かに、以前では考えられませんねぇ…」
ヒヒヒヒヒ…と愉快そうに笑う彼は以前、僕にとってホテルの…この恐ろしい悪夢の世界そのものの象徴だった。
…それが今では、何も言わずただ向かい合って座っている。
…変わらぬ日常を繰り返すホテルで僕達に起きた小さな変化は、何かを変えるのだろうか…?それとも、何も変わらないのだろうか…?
…僕には分からない。
「…慣れってヤツですかね?」
「…慣れでございますか…それも恐ろしいものでございますなぁ…」
「…そうかもしれません。…でも…不思議と悪い気もしない」
「…それはそれは…厄介な事でございますな…お互いに…ヒヒヒヒヒッ!」
グレゴリーさんが愉快そうに笑う。僕も少し笑いながら、グレゴリーさんに模型を手渡した。
「どうぞ…直りましたよ。グレゴリーさん」
「おぉ…ありがとうございます。これでようやく出発出来ますな…」
グレゴリーさんは喜んで僕から模型を受けとった。よかったですね…といいながら僕は工具をしまい、壁に寄り掛かった。
目を凝らしながらの作業だったためか…とても眠い。
窓の外へと目を移すと、視界いっぱいに星空が広がっていた。
「…まるで…銀河鉄道の夜みたいだ…」
「…左様でございますね…もっとも…コチラの行き先は冥界ではございませんが…」
そう言うとグレゴリーさんは立ち上がり、通路を歩いてゆく。
その背に向かって僕は尋ねた。
「…この列車は、どこに行くんですか?」
「…行き先はお客様もご存知かと…もっとも、どこまで行けるかは私も存じませんが…ヒヒヒヒヒヒ…」
そう言って、グレゴリーさんは前方車両へと消えて行った。
瞼が落ちる直前に、窓の外に見慣れた森と建物が見えた。薄れる意識の中で、なぜか列車のアナウンスが聞こえた気がした。
『お客様に申し上げます…丁寧な修理、誠にありがとうございます。この列車は現実発、冥界行き…次は終点、グレゴリーハウスでございます…どなた様もお忘れもののないよう、お気をつけてお降り下さい…』
「…お客様…お客様」
「!すいません降りますッ!!」
肩を揺り起こされて、僕は跳ね起きた。
「…何を寝ぼけていらっしゃるのですか、お客様?」
「…あれ…グレゴリーさん?列車は…?」
「…それは私がお聞きしたいですな…おや…もう直っているじゃありませんか…」
グレゴリーさんが僕の机の上から列車の模型を手に取った。
…どうやら、僕は今まで居眠りをしてしまったようだ…。
「…すいませんグレゴリーさん…直し終わったらなんだか、急に眠くなっちゃって…」
「いえいえ構いませんよ…きちんと修理していただいたようですし…」
やはり、さっきまでの事は夢だったのだろうか…と僕が首を傾げた時、グレゴリーさんは妙な事を口にした。
「やれやれ…どこも改造してありませんね。…見張っていたかいがありました…」
「…え?」
「いえ、なんでもございません。ではこちらはお礼の品でございます。私の好物ですが、お口にあいますかどうか…それとコチラはお客様のお忘れ物です。お気をつけて下さいませ」
模型の代わりに小さな紙袋と工具箱を渡される。
僕が呆気にとられている間に、グレゴリーさんはさっさと部屋から出ていってしまった。
さっきまで使っていたはずの工具箱を…僕はどこに忘れたのだろう。
あの列車の事は、本当に夢だったのだろうか…?
「…まぁ…いいか」
僕は工具箱と一緒に手渡された紙袋を開けてみた。…中には大きなピーナッツが入っている。
「…『旅のお供に…遺伝子組み換えピーナッツ』…?」
〜次の日〜
困った顔をしたボーイが売店でグレゴリーと騒いでいた。
「…グレゴリーさん…あの、ピーナッツって何を食べるんですか?」
「…お客様…ピーナッツは食べ物でございますよ?生き物ではございません」
「…いや…ピーナッツなんですけど…何か食わせろーって言うんですよ…ピーナッツが!!」
「…捨ててしまえばいかがでしょう?」
「そんなの…可哀相で出来ません!!」
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秋様のリクエスト「グレゴリーとボーイで二人きりでほのぼの」です。
二人きりという事でとりあえず…生き埋め案、セクハラクロスワード事件案などの候補がありましたが一番マシなのにしました…ほのぼのってこんな感じですかー!?脳内ギャグ畑なので大丈夫なのか心配です。
一回全部吹っ飛んで書き直しましたが、なんと長さはほぼ変わりません。全く嫌がらせかと思うレベルの長さです。
文 章 力 ゼロ!!(泣)
こんなのでよろしければ、シェフの鍋に突っ込んであげて下さい。←