読み物

□死に際
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「もうすぐ、僕は死ぬかもしれない」
床に伏した半兵衛が誰に言うでもなくぽつりと呟いた
本当はその呟きを聴いて欲しい人が居たのだけれども・・・
その人は今此処には居ない、その人の消息は誰も知らない、幾ら探しても見つからない、もしかしたらもう死んでしまっているのかもしれない
そんな事を取り留め無く考えているとふと昔その人と話した事を思い出した
それは半兵衛がその人とまともに話した最後の会話だったのかもしれない


「まったく下らない」
その時の僕は先の戦で大怪我を負い、今と同じように死ぬかもしれないと呟いていた
そんな事を言っていたらたまたま屋敷に来ていたその人にすっぱりと一蹴された
「今の貴方には死相は見えていません、残念なことにね」
心底悔しそうにため息をつきながら言われて正直僕は少し傷ついた
でも普通とは違う少し不思議な君の言うことだから間違いは無いだろうと僕は何故か君に変な信頼感を抱いていた
「まぁ、貴方が近い内に死ぬのは決まりきった事ですけど」
その分その後の言葉にも重みがあった
「・・・うん、わかってる」
此処で生き延びたとしても僕自身死が近いことに変わりは無い、それは分かっている
だからこそ今、伝えておかないといけないと思った
その言葉が君の心に届かなくとも、絶対に

けれどそれは叶わなかった
「下らない、と言ったのは貴方の考えていることを含めてですよ」
その人はそれを見通していたらしい
「でもね・・・僕、本当に君の事が」
好きだったんだと言おうとする僕の口の前にその人が人差し指を立て制する
そして、ゆっくりと口を開く

「別に、貴方のことは嫌いでしたし
貴方が病で私よりも先に逝くというのも決まっていた事です・・・けれど
私の手で貴方をあちらへ送る事が出来ないのは、残念に思いますよ」


「・・・ぇ」


その時の僕は酷く情けの無い顔をしていたことだろう

言葉自体は冷たいものだったけれどこれが君の心からの慈悲なのだろうと僕は思った

薄く壊れそうな、困ったような優しいような笑みを浮かべて微笑みかけるあの時の君は本当に綺麗だったんだ

その笑顔とこの言葉がどれ程の力を持っていたのか、君は知っているのだろうか?

知っていたとすれば君は本当に酷い人間だね

また一つ、僕が死にたくないと思ってしまう原因を作ってしまったのだから







「また、嫌な事思い出しちゃったな」






ねぇ光秀君、君は一体

    

これ以上、僕に何を悔やんで逝けと言うんだい?

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