読み物

□槍の雨
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「この分からずや!!」

「それはこちらの台詞だ!!」

昼下がりの保健室に二人の激しい怒声が響いていた
二人ともが普段はそんなに大きな声を出すことも無い大人しい人物だったので生徒たちは驚き保健室へと集まってきていた
「もういいですよ、貴方なんて大嫌いです」
教室に帰りなさいと付け加えて光秀はくるりと元就に背を向けあからさまに拒絶の意思を示した
それを見た元就はこれまたあからさまにバンッと、大きな音を発てて保健室の扉を閉め、憤慨の意を示した
「おい毛利何があったんだよ?
お前が光秀と喧嘩するなんて珍しい、槍でも降るんじゃねぇのか」
「そうだよね〜、いつもは仲良いのにどうしたのさ」
元就の同級生の長曾我部元親と猿飛佐助が少し俯きつつ歩く元就の背を叩いてきた
「……長曾我部と猿飛か、どうもこうも無いわ」
ばつが悪そうな顔をして元就は喧嘩の原因を二人に話し始めた
「あれは、昼休みのことだ…」

昼休みに元就が光秀に会いに行ったところ、
光秀が信長とアヤシイ雰囲気にあり、その事で口論になり先ほどの喧嘩に至る、というものであった
「ふぅ〜ん、まぁそりゃ怒るのも無理ないかもね」
「けどよう毛利、お前光秀の言い分ちゃんと聞いてやったのか?」
元親が怪訝な顔で元就を見やり、元就はさも当然と言わんばかりに
「聞いてやるわけが無かろう」
と、返した
それを聞いた元親は驚き呆れ返り、佐助は苦笑いを浮かべて可哀相にと、内心光秀に同情していた
「おま…馬鹿だろ」
いくら自己中だからってと続ける前に元就の鉄拳が飛んできて元親は床へダウン
「いやでも今の話を聞いてるとそっちにも非があると思うな、俺は」
佐助の言葉にむ、と眉間に皺を寄せ睨みを利かせる
「だ、だってさぁ明智センセだって言い分くらいあるでしょ?
もしかしたら、明日の職員会議遅れたら承知しないぞ。とか釘刺されてただけかもだし…
ほらっ、そこにいい口実もあることだし、
話聞くだけでもしてきた方が良いって」
俺がとばっちり受けんのは御免だからと言う言葉は飲み込んで足元に落ちている元親を指差して言う
少々の間黙り込んでいた元就だったが、やがて乱暴に元親を掴み佐助に言ってくると告げて歩き出した
「まったくもってめんどくさいカップルだな、ほんとに」
呆れた声で呟く佐助の声は幸い元就にはきこえていなかったようだ




「明智、居るか」
ガラリと勢い良く開かれた扉に光秀は反射的に其方の方を向く
そこにいたのは、ばつの悪そうな顔をした元就と何故かボロ雑巾のごとき惨めな姿をした元親らしきものであった
あまり今は元就と関りたくなかったものの、元親の姿を見てこれは酷いと思った光秀は処置のため中へと迎え入れた
「何をすればこんな事に…」
元親の身体は全身に打撲、処によっては血の出ている箇所もあった
「こやつが階段から盛大にずり落ちたのだ」
嘘である、保健室に向かう途中むしゃくしゃして元就が階段で手を離し落としたのだ
「……そう、ですか」
あぁ、落とされたのか…と、光秀は思いご愁傷様ですと軽く手を合わせた
「ところで、だ
明智、さっきの事なのだが…」
ぼそぼそと元就が言葉を紡ぐ
「少し、考えてみたのだが、貴様の言い分を聞こうとしなかった我にも非はあった、許せ…」
元就の口から出た謝罪の言葉に光秀は一瞬目を丸くし、そしてすぐに優しく微笑んでハイと返事を返した
「ですが、元就殿が謝るなんて…今日は槍でも降るんじゃないでしょうか?」
「やめろ、貴様が言うと本当に降ってきそうだからな」
それはそれで楽しいかもしれないと物騒なことを言ってくすくすと笑う光秀を見やり、こやつが笑っていられるのならば槍が降っても良いかもしれぬな、と元就も心の中で危険な事を言った


「俺のこと、忘れんじゃ、ねぇ…」
今回一番可哀相な元親が蚊の鳴くような声で呟いた

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