キミボク・キラメキ・本屋サン

□その2
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「聞いてる?」
「ふふ…聞いてますよー」

事前に店長に言われていた通り、ボクは木下海紀の育成係になった。
しかし…

「…で、発注数を決める時は前月の売上を見て、それにプラス…
………あの、木下さん?
き、い、て、る…?」
「嫌だなあー。
聞いてますよー。」

そうなのだ。
人の話を聞いていない。
…と言うか、ボクの顔をじーっと見つめているだけなのだ。

「じゃあこのタイトルの前月売上出してみて。」
「えーーーーっとーーーー」
「ほら!聞いてないじゃないか!!」

ボクが怒っても、木下はへらへら笑っているばかり。
そうしてまた最初から説明するのだが…
………やっぱり聞いてなく。

「やる気、ありますか?」
「恐い顔ー。ひどーい。
笑って下さいよー」
「じゃあちゃんと聞いて下さい!」


「キス…」


「は?」

木下がボクの目の前に来た。
男である事を一瞬忘れる様な綺麗な顔立ちに、ボクは思いがけず頬が紅くなるのを感じた。

「キス…しても…」

どんどん近付く顔―
高鳴るボクの鼓動―
そして…ストレスによる胃痛―

(はっ!!)

「違う違う違う!!!」

ふと我に返る。
気が付くとボクは思いがけず木下を突き飛ばしていた。

「ああっっ!!!
ごめん!!!大丈夫か!?」

木下はへらへらしながら、床から立ち上がった。
幸い、何処も怪我していない様だ。
「もー、酷いなあ。
生野さーん。
………まあ、オレも悪いですよね。昨日自分で早まるなみたいな事言ったのに、オレの方が関係を急いでる…。」
一瞬見せた木下の顔は憂いを帯びていた。
ボクは…先程のショックから立ち直れないまま、彼を見ていた。

また、後輩育成初日からこれで…明日からずっと続くバイト生活を思うと…

胃が痛んだ。
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