黒バス

□君のひとこと
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「彼氏が欲しい。」
「…高尾がいるだろ」

二月目前、高校三年生にとって久しぶりの登校日。センター試験が終わって少しほっとしてる人と、私大と二次に向けて黙々と問題を解いてる人、既に進路が決まってざわついている人が混じった自習の時間。後ろの席の大坪にぼやくと見当違いな返事を律儀に返してくれた。

「あれは彼氏なんかじゃない。付き纏われてるだけ。なんでか朝から帰りまで良く遭遇するのよ。正直鬱陶しい。てかキモい。」
「不憫だな高尾…」
「はぁ。青春したい。彼氏ほしい」
「天野の青春はそれだけなのか」
「だって、私文芸部だったから汗かくような爽やかな青春もなければ、"バイト三昧なんだけど充実してるような日々"なんてのも送ったことないわけよ?そりゃもう勉強だけはしこたましましたけれども」
だから今こんなに大坪に話しかけてるんだけどね。もし推薦もらえてなかったらどんな隙間時間も無駄にしないように今頃ひーひー言いながら赤本解いてる。

「もう高校生終わっちゃうよ大坪。どうしよう。私何してたんだろう。なんにもしてなかった気がする」
「もう今更だろ」
「やっぱり?」
なんでこんな勉強馬鹿になっちゃったのかなー。

そこで少し話が途切れた。大坪はさっきまで真面目に自習をしてたみたいで視線が手元のノートに落ちている。悪いことしちゃった。


「なあ」
今解いてる問題が片付いたのか、不意に大坪がシャーペンを置いて顔を上げた。

「もし俺が天野を好きだと言ったら、俺も高尾と同じ部類に入るのか?」
「え?」
「もしもの話だ」
「え、と?えーと。大坪が?」
なんだなんだ突然。なにを言い出すんだこいつ。

「んー…。考えたことなかったなあ。けど、たぶんキモいとは思わないと思う」

だって大坪でしょ?
バスケ部のキャプテンで人望が厚い。人に厳しいけれど自分にはもっと厳しい。でもそんなことは表に出さない。顔はちょっと厳ついけど男前。背が高くて懐も広くて人に対して誠実だ。

良いところをあげれば次から次へと流れる様に出てくる程には、仲がいい。ただそっちのベクトルには向かなかっただけ、というか向くきっかけが無かっただけで。

そういうわけで、きっと、たぶん、どっちかっていうと、嬉しいと思う。

「そうか」

…ねぇ、大坪。なんでそんな嬉しそうな顔してんの。今のってどういう意味?そういうことだって思っていいの?
って、これじゃあ私、期待してるみたいじゃないか。私、今の今まで大坪のことそんな目で見たことなかったのに。

たった一言だけでどきどきしてきてしまった私はなんて。



なんて単純なんだろう。









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補足:管理人は高尾大好きですよ!そして勉強はできない子です…

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