short
□真夜中の懇願
1ページ/1ページ
夜もふけ日付も変わった時間。
大きく綺麗な満月が、白々と光って部屋を照らしている。
こんな夜は明かりも点けずにソファーに沈みこむ。柔らか過ぎず固過ぎない安定感のあるこのソファーは私のお気に入りだ。
「ランサー」
一声かければふらっと彼は現れる。普段はふらふら遊び歩いてるくせにこういう日には敏感らしく黙って傍にいることが多い気がする。
「もうそろそろ、終盤ね」
青い彼は何も言わない。目線もこちらには寄越さず月を見つめている。
「貴方にはたくさん助けられちゃったわ」
私も構わず続ける。
「まぁ私が貴方を助けたこともあったけど」
たった何日か前のことを遥か昔のことのように感じる。ランサーを盗られて、取り返して幾多の苦難を共に乗り越えた。
それなのに、
「ごめんなさい」
彼はまだこっちを見ない。
「あのね、ランサー」
「あたし、聖杯なんていらないわ。もともと興味なんかなかったの。あたしはただ、一族の血が濃く出過ぎただけ。それに気づいたお父様によって魔術師にさせられて、お母様も家の名のためにって散々厳しくあたしにあたったわ。
いつからかなんてもう思い出せないけどこの家にいると聞き分けのいい子を演じるようになったの。まるで自分なんていないみたいに。それが一番めんどくさくなかったから。こんな生活を16年も続けてこれたのはお兄様のおかげだったわ。でも、唯一優しかったお兄様はもういないのよ。」
あたしを庇ったせいで胸を貫かれて逝った兄の姿はいつだってフラッシュバックを起こし脳裏から離れない。最後まであたしを守ってくれた兄をあたしは守れなかった。その日以来あたしはあたしを許せないままだ。
「ランサー、あたしを殺して。お願い。このくだらない戦争が終わったらあたしを殺してほしいの。お父様にもお母様にもばれないように。誰もいないところへいきたい。貴方にしか頼めないわ。貴方に殺されたいのよ。」
やっとこちらを向いた彼に静かに言った。
「どうかお願いね」
優しい優しい私のサーヴァントさん
真夜中の懇願