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□39度と+αの微睡み
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「ランサー、寒い」

「あぁ、そりゃあ冬だからな」

「ランサー、熱い」

「どっちだよ」

「ランサー、気持ち悪い」

「喧嘩売ってんのか?」

ランサーはいつものように笑っている。頭が重くて顔を上げられない。

「ランサー、頭がぼーっとす」

「んあ?……葵?!」

身体がぐらりと揺れて振り返るランサーの顔は、見えなかった


‐‐‐‐



「……あ、れ?」

目を開けると見慣れた天井
私とランサーはさっきまで外にいたのに、知らない間に私の家に移動している

「ランサー?」

「あいよ」

「私は…?」

「道の真ン中で倒れたからとりあえずここまで運んだ、覚えてねェか?」

「ん、あんまし」

なんだろう。喉がイガイガするせいでうまく喋れない。

「熱も39度あるから、あれだ。あの巷で流行りの、あー、インフルエンザってやつだろ」

悪かったな。すぐ気付いてやれなくて。

すまなそうに謝る彼にゆるゆると首をふる
今日のことはランサーが悪いわけではなく、自己管理ができなかった自分に非がある


謝らなくていい


そう伝えようと少し空気を吸い込んだら、思い切り咳き込んだ


「大丈夫か?…坊主んとこでも行って薬」

そのまますぐに出かけてしまいそうなランサーに手を伸ばした


行かないで

行かないで

此処にいて


「は、は…よわっ、たな…」

思わず出そうになった言葉は声にならなかった。ならなくてよかった。が、無意識に伸びた腕は自分のサーヴァントに甘える為のものだと気付き、弱音が口からこぼれる

薬が無いと回復が後れて辛いのも事実、しかし今は一人になることに不安を感じるのも事実なのだ


「わかったよ。マスターが眠るまでここにいてやるから。何か他にしてほしいことはねぇか」

…さむい

「そーか、んじゃちょっくら失礼」

そういや口に出さなくても言いたいことわかるんだよなー

と、今更なことを考えていたところで、そう言った彼は私の蒲団に入ってきた
その行動がさも当然であるかのように堂々としていたことと、私に体力がなかった為につっこむことはできなかった


前から抱きしめられる形だったから反転したら拗ねるような声が聞こえた
けれども寒いのは背中なので仕方ないでしょう?


熱による体温と温かい温もりの中で葵は微睡み始めた


サーヴァントって風邪とかひく?

さあ、どーだろーな


………


「ごめん。うつ、るから…やっぱ、ダメ…あっち、行っ、て、て」


ごほっごほっがはっ、


「嘘嘘、無理すんなって。冗談だ。…たぶん」


トントンと子供をあやす様な、背中を叩く心地良さにまた眠気が襲ってきた




39度と+αの微睡み






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