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□夕時雨
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実は私には去年から気になってる人がいた。気になってるというだけで、はっきり好きだと言い切れるわけではないけれど。

去年は同じクラスだったその人とは今年はクラス替えで別れてしまったが廊下で会えば挨拶をし、ほどほどに世間話をするくらいの仲。

クラスが別れたのは残念だったが、それでも隣の教室だったので移動教室の時に自然に見える程度に視線を巡らせたりして彼を見つけると少し、嬉しくなったりした。




だけど、

見てしまった。


放課後の教室で彼が私と同じクラスの女の子に告白しているところを。

女の子が顔を赤らめて頷いているところを。

彼が彼女に近づいて、腕を伸ばし…私は逃げた。


元々人の恋愛現場を覗くなんてしちゃいけないと思うけど。さすがに今回ばかりは不可抗力
忘れ物なんか取りに来なければよかった。
後悔しながらまるで見てはいけないものを見てしまったかの様に逃げた。



‐‐‐‐



どれくらい走っただろうか

気付くと河川敷まで来ていた

呼吸を整えながら少し歩く
いくつも並んだベンチのひとつに腰を下ろしそっと息を吐き出した


暖まった身体にまだ寒い2月の風が刺さる。汗が冷えて風邪をひきそうだ。
わざとらしい現実逃避にため息をつき、考えることを投げ出した私が顔をあげると夕日が綺麗だった

沈みかけている赤に近い橙を目に映しながら頭の中ではさっきの光景がリピートされる

5回程打ちのめされたところで突然隣に人の気配が現れた
顔をあげると、そこにはランサーさん


「葵じゃねぇか。何やってんだ?こんなとこで」

「あ、はは」

なんてタイミングだろう。知り合いに会ったからだろうか。ずっと張っていた緊張が切れて酷く乾いた笑いが出てしまった。同時に頬が熱くなる。

「…失恋、しちゃったっぽい」

「……」

「でも、今までは、気になるかな。くらいにしか思ってなかったから好きじゃなかったのかもしれない」

「……んなこたねぇだろ」

「…なんで?」

「好きじゃなかったら泣かねぇだろ」

言われて初めて自分が泣いてることに気付いた
さっきから頬が熱かったのは涙のせいだったのか


「…これは、あまりにも夕日が綺麗で驚いたから、だよ」


優しいこの人は嘘だと見抜きながらも騙された振りをしてくれるだろう。





夕時雨



「そのうちもっといい奴が現れるさ」


月並みな慰めにすぐ頷けない程にはダメージを負っているらしい




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