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□その不器用ささえ愛しいから
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先日遠い親戚から美味しい林檎が大量に送られてきた。
あまりにも数が多く食べ切れないと衛宮に相談すると、衛宮邸にいる居候達が喜んで手伝うだろうと言ってくれた。
そこで今日、大量の林檎を持って衛宮邸を訪れた訳である。
「ちわー。衛宮いるー?」
「アオイ、よく来てくれた」
一番に出迎えてくれたのは、衛宮のサーヴァントのセイバー。
「やあ、葵。どうぞあがって」
「おう。と、これ。林檎」
少し遅れてやってきた衛宮に持って来た大量の林檎を渡すとそれをセイバーが引き受ける。その自然な流れに思わず笑みがこぼれるが、ふとひとつ気になった。
おいおい、いくら聖杯戦争でお前がマスターだったからってこんな重いもん女性に持たせんなよ。
「ランサー」
「なんだ?」
自分のサーヴァントを呼べば、最初からそこにいたように霊体化していたランサーが現れる。
「林檎、居間まで運んでくれるか?」
「あいよ」
物分かりがよい彼はセイバーから林檎の入った袋をさらい、慣れた足取りで居間までお邪魔する俺の隣に並んだ。
林檎を取られたセイバーは一瞬呆けた顔をしたが、何故か手には林檎が一つ。
衛宮が気付く前にまず1つ林檎が完食された。なんという早業。恐るべし満腹王。
「ありがとう。本当にいっぱいだな。とりあえずアップルパイでも作るか」
「まじ?!アップルパイ?衛宮作れんの?」
「本当ですか?!シロウ!」
俺とセイバーの歓声が重なった
「まぁね」
アップルパイが特に好きというわけでは無いけど、衛宮が作るなら話が違う。こいつの料理の腕前は確かだ。流石日々家事をこなす主夫なだけある。
「手伝う」
「珍しいわね」
聞き慣れた衛宮とは別の声を拾い、着いたばかりの居間に目をやるとそこには凜がお茶を啜って寛いでいた。
「凜」
来てたのか。と問えば、居候してるんだってば。との返答。
この問答はここに来る度にしている気がする。
林檎を運び終えたランサーに礼を言い、迷惑にならない程度に自由にしていてくれと告げる。
「まぁたまには、ね。そういや凜が居るってことはアーチャーも「私を呼んだか?」
やっぱり居ますよねー。
心の中だけで突っ込んでおく。正直アーチャーとすこぶる仲の悪いランサーを実体化させている為、今の状況は非常に心臓に悪い。まぁ用も済んだし、ランサーに霊体化してもらえばいい話なのだけど。
「私に何か用があるのか?」
「あ、あぁ。衛宮がこれからアップルパイを作ってくれるって言うからさ。アーチャーに紅茶をいれてもらいたいと思って」
「君が頼み事なんて珍しい。わかった。私が君に美味い紅茶をいれよう」
「あぁ、ありがとう」
紅茶は皆にいれてくれ。
「俺は適当に嬢ちゃんと茶ぁ飲んでるぜ」
「ん。わかった」
妙にイライラした様子で告げてくるランサー。
あぁ、あぁ、だからこいつをアーチャーと会わせたくなかったのに。
「少しくらい働こうとしたらいいのではないか?」
「あぁ゙?なんでてめぇにンなこと言われなきゃナンねぇんだ」
冷めた視線を向ける弓兵に対し敵意剥き出しで対抗する槍兵
睨み合った二人はそのまま外に飛び出して行った。
「葵、貴女って罪な女ね」
「??」
「無自覚程恐ろしいものは無いのよ…」
凜が心なしか遠い目をしながら何か呟いていたがよくわからん。
さぁ、アップルパイ作りを手伝おうか。