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□AGAINST THE RULES
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以下、抜粋
「もしかして、爪割れてんじゃね?」
全身を包み込むような音の洪水に身を任せていると、不意に手を掴まれた。
じんじんと鈍い痛みを訴えている指先を見つめてくる不躾な男に、赤崎は眉間に皺を寄せながら手を振りほどいた。
「いきなり何スか、アンタ」
「ちゃんと保護しといた方がいいぜ。ギタリストなんだし」
睨み付けてやったというのに、彼は「ちょっと待ってろ」と言って、傍らに置いていたカバンに手を伸ばした。
爪が割れて、うっすらと血の滲んだ指先を舐める。微量ながらも確かに血の味がするソレに、もう一度舌を這わせた。
ステージからはカウントダウンが聞こえ、歓声と共に次のバンドの演奏が始まる。確か、記憶が正しければ、今自分に背中を向けてカバンの中を漁っている男の出番は、この次だ。
丹波聡。
政府非公認のバンド、≪ETU≫のボーカリスト兼ギタリスト。
最近、よくこの辺り一帯のライブハウスで演奏するようになったバンドのリーダーである彼と、こうしてまともに顔を合わせるのは、今日が初めてだ。
「あったあった。ほら、こっち来いって」
「はぁ? ちょっ、わ――っ」
グイッと強く腕を引っ張られて、バランスを崩して膝から床に座らされてしまった。鈍い痛みに舌打ちをして、文句を言おうと顔を上げるが、顔の前で揺らされた物体に思わず言葉が詰まってしまった。
* * *
「何度来たって無駄っスよ。俺は公安の犬にはならない」
一週間前に告げた返事をもう一度繰り返す。
長身の男――後藤恒生と名乗った彼は、赤崎にシビュラによって執行官の適正が出たとやってきた。
潜在犯が唯一、社会に出て健康な市民を守るという職業。そして、首輪を填められ、常に監視されながら潜在犯を狩る――猟犬。
一日でも早くここから出たいと願っていたが、こんな形を望んでいたのではない。
「いや、今日は別件で来たんだ」
「別件?」
他に何の用があるのかと首を傾げると、後藤はデバイスを操作し始めた。
「これを見て欲しい」
強化ガラスに投影された画像に、赤崎は眉間に皺を寄せた。
それは、破壊された街頭スキャナーの画像だった。
「ここ数ヶ月で破壊された街頭スキャナーだ。手口もバラバラなら、犯人も複数だ」
画像が追加され、犯人らしき人物が映し出される。スーツ姿の男や、カジュアルな格好をした女性、十代と思わしき若い子から四十代前後と、性別も年代もバラバラだ。
「これが俺にどう関係あるんスか?」
「赤崎くんさぁ」
それまでだんまりを決め込んでいた細身の男が口を開いた。トントンと、強化ガラスを指で突きながら顔を寄せてくる。
「これに見覚えない?」
「はぁ? 見覚えって何だよ?」
まさか、自分も犯人だと疑われているのだろうか。
きちんと調べれば、自分がここにいる経緯くらい簡単にわかるはずだ。
この事件には関係のない事だって、もちろん。
「つーか、アンタ誰? アンタも公安の人間?」
「俺は達海猛。後藤と同じ監視官だ」
ポケットから取り出した端末を強化ガラスに近付ける。そこには、公安局のマークとこの男の顔写真。監視官である事は間違いない。
「今日は捜査協力をお願いしに来たんだけど」
「捜査協力?」
「そ。もう一回よく見て。本当に見覚えない?」
じっと眼を見つめ返してくる細身の男――達海の視線に、捜査協力は嘘ではないのかもしれないと判断すると、もう一度、画像に目を向けた。
狡噛→タッツ
ギノ→後藤
六合塚→赤崎
佐々山→石神
唐之杜→ジーノ
リナ→石神
以上のキャストでお送りしております。