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□AGAINST THE RULES
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※PSYCHO-PASSパロ
※ザッキーがメインで、タンザキ要素高め
※ジノザキは最後にチラッと程度
※「名前ノナイ怪物」シリーズの設定を引き継いでます






≪AGAINST THE RULES≫





 ベッドに寝転んだまま、両手を天井に向けて突き出した。真っ白な壁のせいで余計に眩しさを感じる照明に目を細めながら、指先をじっと見つめた。
 割れたりしないようにマニキュアでコーティングされた爪が、艶やかに自分を見下ろしている。
 そのまま手を閉じると、あんなに固くなっていたはずの指先が、すっかり柔らかくなっていた。
 最後に弾いたのは、彼の部屋だった。出来たばかりの曲を誰よりも早く聴いてもらいたくて、打ち込んだ音源ではなくギターを抱えて彼の元に向かった。
 今でも指はあの時のメロディを覚えている。
 それなのに、弾き終わった時の彼の顔を思い出せない。唇が動いて、何かを話しているはずなのに、目を凝らすとノイズが走って邪魔をする。
 あの時、彼は何を言ったのだろう。
 そして、自分は何と答えたのだろう。
 視線を廊下の方に向けると、透明な壁に映し出された自分のバイタルと色相データに眉を寄せた。
 思い出そうとすると、色相グラフが僅かに上昇してしまう。若干だが、サイコパスの色も濁りが見える。
 まるで思い出すなと言われているようで、赤崎は両手を額に押し付けると、目を閉じて溜息を吐いた。
 静かな部屋の中で目を閉じると、あの時の曲が頭の中で再生される。
 何かに突き動かされるように作った、彼に聴いて欲しかった、あの曲。
 あれは、自分が初めて作った――

「赤崎さん、貸出品・購入品が届きました」

 ハッと目を開けると、部屋の前にワゴンを引いた介護ドローンが止まっていた。
 小窓から小さな箱が差し入れられて、赤崎はベッドから起き上がってそれを受け取った。

「リストをチェックして下さい」

 壁に映し出されたリストに目を通していくと、購入申請していたはずの物が入っていない。箱を開けて確認するが、下着や爪切りといった物は入っているが、やはりそれだけが入っていない。

「あの」

 部屋の前を通りすぎようとする介護ドローンを引き留める。くるりと頭がこちらを向いたのを確認して、リストを指差した。

「購入申請した物が入ってないんスけど」

「それでは、購入申請用紙をお渡しするので、こちらで再度申請して下さい」

 チェックリストの上に、白紙の購入申請用紙が映し出される。
 それで用が済んだとばかりに動き出す介護ドローンに、「待てよっ!」と壁に手を付いた。

「もう何回も申請してんだろうがっ! 何で許可が下りないのか教えろよ!」

 ×印が入ったそれは、この施設に入ってから既に二十回以上も購入申請をしている。それなのに、一度も許可が下りた事はなく、その理由も分からないままだ。

「見ろよっ、指先がこんなになってんだぞ!」

 自分が欲しいのは申請書なんかじゃない。ずっと自分と共にあった、いまでも自分の中にあるこの音を表現するための相棒だ。

「こんなんじゃ……こんな指じゃ……弾けなくなっちまうじゃねぇかっ!」

 ダンッ、と壁を拳で叩く。すると、部屋の中の照明が一気に落ちて、警告音が鳴り響いた。

「サイコパスが悪化しています。速やかに回復に努めて下さい」

 無機質な合成音声に、ハッとして壁から手を離す。壁の向こうで白衣姿の施設職員が慌ただしく動き始めたのを目にして、赤崎は何度も首を振った。

「違う……っ、俺はただ……っ」

 やめてくれと訴えるが聞き入れられる事はなく、無情にも天井から噴き出した催眠ガスが、赤崎の意識を鈍らせていく。
 ふらりと揺れた体を支えきれず、ベッドに手を付くと、そのまま膝から崩れ落ちた。

「ひと眠りしたら気分も落ち着くさ」

 自分の担当だと紹介された男性職員の声に、強制的に眠らされようとしている重い頭を動かす。
 嫌だ。眠りたくない。俺は弾きたいんだ。

「ここ最近は色相も安定していたから、もうすぐ出られると思うよ」

 白衣が揺れる。顔を見ようと思ったが、体が沼に沈められたように重くて言う事を利かない。

「ここを出たら、好きなだけ弾いたらいい」

 出られる?
 本当に?
 それなら尚更。こんな状態であの人に会いに行けない。こんな指じゃ、まともに弾けるかどうか分からない。
 俺は眠りたくない。弾きたいんだ。

「目が覚めたら、このサプリを飲むんだよ」

 色相を浄化させるサプリと、体質が合わないのか、催眠ガスの眠りから覚めると鈍い頭痛に襲われる赤崎の為にに処方された鎮痛剤だ。
 小窓からペットボトルと一緒に押し込まれたソレを見つめる。ぼんやりと判断のつかなくなった視界に、ゆっくりと瞬きをした瞬間、ここでは見慣れない黒いスーツらしき姿が見えたような気がしたが、赤崎の瞼は持ち上がる事はなかった。



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