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□かくれてたくさんキスをしよう
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(中略)


「正座だと足痛くなるよ?」

 ちらりと見上げてきた及川の視線に、影山は足を崩し、少し悩んでから体育座りをした。
 斜め前に座る及川は胡座を掻いていて、影山の手をまじまじと見つめた。

「トビオちゃんの手、子供みたいでか〜わいい。爪もまだちっちゃいし」

 ふにふにと指先を揉まれて、思わず手を引こうとしたらがっちり掴まれた。
 部室の一角−−一段高くなった畳の上でこれから行われる行為に、大半の部員から羨望と嫉妬と、一部の先輩からは何故か同情の眼差しを向けられている。
 最初は断ろうとしたのだが、「こんなに親切な先輩の好意を踏みにじるの? 信じらんな〜い」と騒がれてしまっては、さすがに断り切れなかった。
 フンヌフーン なんて、ちょっと変な鼻歌を歌いながら、及川は指先を摘んだ。

「こまめにヤスリは掛けた方がいいよ」

 シャッ、シャッ、と及川の手によって爪が整えられていく。
 きっかけは、とても些細な事だった。
 部活が始まって、最初は柔軟と走り込み。それから三年生と二年生−−レギュラーを中心としてコートを使った練習が始まる。
 一年生はもっぱら、ボール拾いだ。もうすぐ三年生は引退してしまうから、四月に比べたらボールを触れるようになってきたけれど、それでもまだまだ足りない。
 トス練習が始まって、何本かトスを上げているうちに小さな違和感に気付いて、影山は自分の手を見下ろした。何度も手を閉じたり開いたりしてみるが、その違和感が何なのかわからず仕舞いだ。

「トビオちゃん」

 休憩の時間になって、及川が手招きをしてきた。何だろうと思いながら、小走りで近付く。

「ちょっと、手見せて」

「? 手ですか?」

 言われた通りに掌を上にして両手を差し出すと、「こっち」とひっくり返された。
 及川の指が爪を撫でては離れていく。

「あの」

「今日は部室で居残りね」

「え? 何でですか? 何で部室?」

「爪。ただ切ればいいってモンじゃないんだよ」




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