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□かくれてたくさんキスをしよう
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猛暑日が何日も続く、熱い夏の日だった。
夏休みがもう少しで終わるのに、涼しくなる気配は一向にしなくて、冷房なんてない体育館は、風が吹いても熱い空気が吹き抜けて行くだけだった。
ダンッ、と一人しかいない体育館に、ボールを打ち付ける音が響く。
両手でボールを持った影山は、コートの端に置いたペットボトルを見据えた。
深呼吸をして、集中力を高める。
頭の中で何度も繰り返した彼の動きをなぞるように、ボールを上げる。
振り下ろした掌は確かに中心を捉えたのに、ボールの軌道は思い描いた通りではなくて。
狙いを定めたペットボトルからだいぶ離れた方向に、ラインを越えて飛んで行った。
「……全然ダメだ」
額から流れ落ちてきた汗を袖で拭って、テンテンと転がって行くボールを拾いに向かう。
手に当たった時の音も違う。床に落ちた時の音も、彼のモノとは違う。
二年先輩の彼との体格の違いを上げてしまえばそれまでだが、パワーが全く違う。もっと体も作らないと、彼には追い付けない。
腕の振りの角度もわるかったのかもしれない。彼はどうやって、ボールをコントロールしているのだろう。
彼の動きを頭の中で再生しながら、緩く腕を振り下ろしては首を傾げる。
そうして下ばかりを見ていたら、コロコロと転がっていたボールが、不意に視界から消えた。
代わりに現れた見慣れたシューズに顔を上げる。
「練習熱心だね、トビオちゃん」
ボールを片手で持った彼−−先輩で主将で、影山が追い付きたいと尊敬する及川徹が、ニコリと笑って立っていた。
「及川さん……」
「熱中症になっちゃうよ?」
ぴとっ、と火照った頬に冷えたスポーツドリンクを押し当てられて、影山の肩が跳ねた。
「あざっす」
視線で促されてペットボトルを受け取る。蓋を開けてコクリと口に含むと、体は水分補給を求めていたようで、ゴクゴクと喉を鳴らして流し込んだ。
すぅーっと体の内側から体温が下がっていくような感覚に、ふぅ、と息を吐く。
「ほどほどにしとかないと。ぶっ倒れたらどうすんの。」
ふわりと頭に落ちてきたタオルに、影山は頭を上げた。白と青のストライプのソレは、自分のタオルではない。
ほのかに香るこの匂いは、たまに及川からする匂いだ。
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