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□Dolce web再録集
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 彼は甘い匂いがする。どこか安っぽい甘さの、女の子からするような花の蜜のような甘さとは違う、懐かしさを感じような甘い匂い。
 匂いの正体を探ろうと、首筋に鼻を寄せると彼は肩を竦めて体を捩らせた。

「なんだよ。暑いんだからくっつくなよ」

「それならもう少し温度下げようか? それならくっついてても平気だよね?」

 テーブルの上のリモコンに手を伸ばそうとすると、ぺちりと手の甲を叩かれた。
 お気に入りの棒付きアイスを啣えたまま、上目遣いで自分を見上げてくる恋人は、三十路も半ばだというのに可愛らしい。
 ついでに言えば、九つも年上の男だ。

「いい。あんまり下げると体冷えっから」

 細い体のせいか、体質なのか。
 達海は冷房の風が苦手だ。苦手というか、弱い。
 体が冷えると古傷が痛むせいもあるのだろう。汗をかくのを嫌うジーノの好む設定温度を、この部屋に来る度に達海は二度上げる。
 それでも、こうしてくっついていても不快な温度ではないのだから、普段から上げておけばいいのに、と思う。

「大丈夫。冷えたら僕が内側から温めてあげるよ」

 もちろん、ベッドの上でね。
 肩に腕を回してニッコリと微笑むジーノに、達海は唇を尖らせて眉を寄せた。

「セクハラ王子」

「愛し合ってる恋人にそれはひどいんじゃない?」

「うるせぇ。お前の性欲に毎回付き合えるほど、俺は若くないんだよ」

 つーん、と外方を向いてしまった達海の唇が、不健康そうな青い色をしたアイスを啣える。
 冷房の効いた部屋でそんなものを食べているから、余計に体が冷えてしまうんじゃないかと思ったが、これ以上達海の機嫌を損ねてしまったら、強行手段で帰ってしまうかもしれない。

(せっかくのオフなのに、それだけは避けたいなぁ)

 あんな扇風機一台ではどうにもならない、サウナ並みに暑い部屋に帰したくはない。なんとか言いくるめて、ここまで連れて来たのだ。

(ホント、この恋人は思い通りにはならないね)

 素直じゃないし、なかなか甘えてもくれないし、いつもこちらの想像を上回る行動ばかり取ってくれる。

(こんなに夢中にさせておいて)

 平気な顔をしている年上の恋人が、たまに恨めしく思ってしまう事がある。恋愛において、こんな感情を抱いてしまうのは、初めてだ。

「いつも思うんだけど。それってジェラートより美味しい?」

 シャク、と最後のひとかけらが達海の口の中に消える。

「ん、美味いよ。夏はさ、これが一番だって」

 少し溶けたのか、ペろりと指を舐める。
 その舌がうっすらと青く染まっていて、その青さに目が惹かれた。

「じゃあ、ボクも味見してみようかな」

「あ? お前の分なんかな−−」

 顔をこちらに向けた瞬間に、顎を指先で捉えて上向かせ、ジーノは唇を重ねた。




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