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□Sweets web再録集
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 少し遠慮がちなノックの音に、達海はピクリと肩を震わせた。
 ドアは開けっ放しにしているし、こんな時間にクラブハウスにいる人間はひとりくらいしかいないのに、後藤はこうして注意を引いてから声を掛けてくる。

「達海」

「んー? 片付いた?」

「あぁ。すまん、思ったより遅くなった」

「気にすんなって。あ、あとちょっとで終わるからさ、もうちょい待って」

 後藤を待っている間に見始めたDVDは、前半終了まであと10分もない。画面から目を離さずに話し掛けてくる達海に、後藤は床に散らばった資料を拾い上げてテーブルに乗せた。
 邪魔をしないようにベッドの端に腰掛けて、一緒に試合を眺める。
 だが、後藤の視線はボールよりも達海に向けられてしまう。胡坐をかいた膝の上で頬杖をついた格好から、唯一見える白い肌。
 項が赤く艶めく瞬間を思い出し、そういえば、肌に触れたのはどれくらい前だったろうかと思いにふける。
 男のくせに滑らかな肌や、触れる度に敏感に反応する姿に煽られて、年甲斐もなくがっついたのはこの部屋だった。
 翌日、恨めしそうに睨まれ続けたことを思い出し、小さく自嘲していると、達海の手がひらひらと動いた。

「ん? どうした?」

 無言のまま、達海の手が床をベチベチと叩く。達海の顔は相変わらず前を向いたままで、後藤は首を傾げながら近付き、僅かに空いたそのスペースに膝をついた。

「何か欲しい物でもあるのか?」

 顔を覗き込もうとすると、達海の体がゆっくりと枝垂れかかってきて、ポスンと肩に達海の頭が収まった。

「椅子が欲しくなっちゃってさ。ちょっと椅子替わりしてよ」

 背中が痛くなっちゃった。
 そう言いながら頭を擦りつけてくる達海に、後藤はふっと頬を緩ませてその場に腰を下ろした。足の間に達海の体を収め、後ろから抱きしめて自分に体重を掛けさせる。

「これでいいか?」

「ん」

 後藤の膝に手を置いて、達海が満足そうに頷いた。
 密着したことで達海の体温とほのかに立ち上る香りに、後藤は無意識のうちに目の前の首筋に鼻を寄せた。
 途端に強くなる達海の香りに、思わず唇を押し当てる。

「……っ、後藤、何してんの?」

 膝を叩かれて、後藤は達海の肩に顎を置くと「匂いチェック?」と答えた。

「は、何それ? 後藤さんが変態発言してるー」

「お前に関しては変態呼ばわりされてもいいよ」

「開き直んなよ、面白くねぇな」

 ベチベチと膝を叩いてくる達海に、後藤は苦笑しながらその手を取った。指の間に指を差し入れて、そっと握り込む。

「もうちょっとなんだから邪魔すんなよ。『待て』も出来ねぇの?」

 苛立った口調だが、相変わらず体は預けてくれているし、左手らさっきから後藤の足を撫で続けている。
 本気で嫌がってはいない。こういうスキンシップを求めてくるのは、甘えたい時や構って欲しい時の表れだ。
 前半残り三分。
 達海の視線を追うように、後藤も画面の中のボールを追う。




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