GIANT KILLING2

□これって『恋』なんじゃない?
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「で? お前等の用って何?」

接点のない他チームの監督の元を訪れる理由なんて、達海には思い当たる節もない。
八谷はオールスターで会話をしたけれど、夏木と同類というイメージしかないし、星野と昌洙に至っては顔を合わせただけだ。

「俺は今更そんな事を聞く必要はないって言ったんスけどねっ!」

「昌洙がどうしても、達海さん本人から聞きたいそうで」

どうやら、達海に用があるのは昌洙らしい。
ニコニコと笑顔を向けてくる昌洙に、同じ二十歳でもうちの椿とは大違いだな、と小さく達海は笑った。

「アノネ、達海監督ノ好キナ人知シリタイ。ドンナ人?」

「あ? 好きな人?」

「好きなタイプを知りたいらしいんです」

首を傾げる達海に、昌洙の発言に星野が補足する。
『人』じゃなく『タイプ』ね、と頷いたものの、そんなおっさんの好みなんて聞いてどうするんだろうと、また首を傾げる。

「達海さんは『頼りになる男』がタイプだって、昌洙には言ったんですけどねっ! 正しく、この俺のようなっ!」

ドンッ、と胸を叩いて八谷が得意げな顔をするが、達海の表情は訝しさを増す。

(なんで『男』?)

普通に考えたら『女』のタイプなんじゃないのか。
それとも、好みの『選手』を聞いているのだろうか。
同性の恋愛に偏見はないが、自分にそういう感情を向けられているとは気付いていない達海は、八谷の発言からそう解釈して「まぁね」と返事をした。

「お前みたいなのがいたら、こっちは安心すっかもな。暑苦しくのは勘弁だけど」

「ほらなっ! 俺の言った通りだろっ!?」

「八谷ガタイプ……」

昌洙の形の良い眉が寄る。

「私、頼リナラナイ? 熱イ負ケナイヨ?」

こてん、と首を横に倒して尋ねてくる昌洙に、達海は何だか保護者の気分になってクスッ、と笑った。
手を伸ばして、手触りの良さそうな頭を撫でる。

「こいつと熱さで張り合うなよ。俺はお前みたいなのも好きだよ」

「私モ達海監督好キネーッ!」

「−−うおっ!」

「おっ、おいっ、昌洙!」

ニコッと笑った昌洙に抱き着かれ、意外と勢いのあったソレに達海の体がぐらつく。
慌てて支えようとしてくれる星野にも、達海はニヒ、と笑い掛けた。

「星野もイイ男だと思うぜ。ま、うちの奴等には敵わないけどな」

「……達海さん」

一瞬驚いた顔をした星野の頬が徐々に紅く染まり、照れたように笑みを浮かべてから星野は胸を張った。

「負けませんよ、俺も」

「俺と張り合う気かっ?! ならば全力で相手してやらんとなっ!」

でもなー、そんなに頑張られてもなー、ETUに欲しいってワケじゃないんだよなー。
選手として魅力的だと告げたつもりの達海と、恋愛対象としての評価をもらったと思っている彼等の間に生じたすれ違いには、どちらも気付かず。
それぞれが勘違いをしたまま、話は進んでいく。

「達海監督ハ、今度ノ休ミノ日何シテル? 私、浅草見タイ」

「浅草?」

「観光がしたいらしくて。達海さんにガイドをお願いしたいそうです」

「その時は俺も同行するからなっ! お前等だけでは心配だっ!」

ワクワクした様子で見つめてくる三人に、達海は唇を尖らせて「んー……」と唸る。

「そう言われてもなぁ。まだ日本に帰って来たばっかだし、ガイドなんて……」

日本に帰って来てから、ほとんど外出なんてしていない。
自分の足で向かうのは、クラブハウスの近所にあるコンビニくらいで、それ以外の外出は後藤の車だ。
それほど町並みは変わっていないと言っても、十年のブランクがあるのだ。
もっと適任がいるだろうと、その人物の名を上げようとした時、「監督っ!」と良く知った声が割り込んできた。

「何、やってるんスかっ!」

パタパタと駆け寄って来た彼に、八谷がニヤリと笑って手を上げた。

「よぉっ、椿!」

「は、八谷さん……それに星野さんと……」

「話スノ初メテネー。私、姜昌洙」

「あ、つ、椿大介ですっ!」

フラフラといつものようにいなくなった達海を探しに来た椿は、思いがけない人物が一緒にいる事に驚きながらも、ニコッと笑った昌洙と握手を交わす。
好戦的な八谷と星野の笑顔を前にして、椿はヒクッ、と喉を鳴らした。
いろんな意味で、怖い。

「あっ、と、いや、そうじゃなくてっ!」

怯みそうになる足を踏ん張って、達海に向き直る。

「有里さんがっ、探してるんスっ!」

「あれ? もうんな時間?」

「……そろそろ時計とか、持ち歩いてみませんか?」

悪びれた様子もなく、ごめんごめんと笑う達海に、椿は苦笑を返す。
きっと時計や携帯を持たせても、それらが機能しないだろう事は、安易に想像出来た。




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