GIANT KILLING2
□お前は俺のモノ!
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「……じゃあ、なんでこんな時間に来たんだよ?」
もうすぐ日付が変わる。
明日だって練習があるのだ。
夜中に訪ねて来て、お菓子なんか食べて。
『ソレはいい』と言うのなら、一体何をしに来たというのか。
「『なんで?』 ソレ見たからに決まってんじゃん」
「だからっ、これは違うって−−」
「お前が隠すから」
ポリポリとお菓子を食べ続けていた達海が、ようやく後藤を見上げた。
真っ直ぐに見つめられ、後藤は言葉を途切れさせる。
「正直に言えばいいのに。あんなトコに隠して」
「隠すも何も……っ! 俺はちゃんと断ったし、お見合いなんてするつもりも……っ!」
「だから、俺は別にお前が断り切れなくてお見合いしたって怒ったりしねぇよ」
自分達の関係は、世間に大っぴらに出来るモノではないと理解している。
だからこそ、後藤が相手の顔を立ててとか、世間体でお見合いのひとつやふたつぐらい、したって構わないと思っている。
けれど。
達海が引っ掛かるのは、もっと根本的な事で。
「お見合いの話が来たって、教えて欲しかった」
唇を尖らせて達海が目を逸らす。
十年の間に増えた、達海の知らない後藤を全て知る事は難しくて。時間も足りなくて。
過去を振り返るよりも、これから先の後藤の全てを知りたいと、そう思っていたのに。
「する気もないお見合いの話を話したって仕方がないだろ」
眉を寄せたままの後藤が達海の隣に座る。
「俺が明日、写真を返してきちんと断れば、無かった話になるんだから」
後藤の手が達海の頭を撫でる。
いつもと変わらない、慈しむようなその手が好きなのに。
「事務所に置きっぱなしにしてた俺が悪いな。すまん。お前に余計な心配かけた」
達海が言いたいのは、そういう事ではない。
後藤の事ならどんな些細な事でも知りたいと、ただそれだけなのに。
「……何で、俺には関係ないみたいな言い方すんの?」
きっと他のスタッフの耳には入っているだろう。
誰か他の奴から聞かされるよりは、後藤自身から話して欲しかった。
「無かった事にすれば、俺には黙っとけばいいって思った?」
「そうじゃない。こんな事、いちいちお前に報告する必要はないと思ったから」
ゆっくりと後藤の手を払う。
モヤモヤし過ぎて、これ以上何も考えたくなかった。
立ち上がった達海は、手にしていたお菓子の箱を後藤の膝に放り投げた。
「もういい。帰る」
「ちょっと待てっ。こんな夜中に歩いて帰る気か?」
後藤の手が達海の腕を反射的に掴んだ。
こんな時間に拗ねた達海をひとりで帰らせるくらいなら、ベッドを差し出した方が遥かにマシだ。
だが、泊まっていけ、と続ける前に達海に腕を払われてしまった。
「達海っ」
「さっさと寝ろよ。邪魔して悪かったな」
「達海っ!」
「おやすみ」
視線すら向けてくれない達海の背中は、後藤を拒絶していた。
触るな、話し掛けるな。
遠ざかる背中に手を伸ばした拍子に、膝の上からお菓子の箱が転がり落ちた。
カーペットの上に散らばったお菓子に一瞬気を取られた隙に、達海は玄関の向こうへと消えてしまった。
バタン、と音を立てて閉じたドアに、後藤は溜息を吐いてソファーに座り直した。
(失敗した……)
昔からETUに卸してくれている馴染みの店の、おばちゃんの勢いに負けて受け取ってしまったのがいけなかった。
明日、チラシと一緒に持って行こうと思って、机の上に置いてしまったのがいけなかった。
(今週末には試合なのに)
次の試合に集中している達海の耳に、こんな話を入れたくなかっただけなのだ。
余計な事に気を取らせたくなくて、事務所のスタッフにも口止めしていたのに。
(明日、きちんと断ろう)
そして達海にも、もう一度ちゃんと説明しよう。
お見合いをするつもりなんて、本当に1ミリもないのだ。
達海しか見えなくて、達海だけが愛しくて、心の全てが達海で埋まって、溢れそうなくらいに愛しているのだ。
「ごめんな、達海」
浅はかだったと後悔しながら、後藤はローテーブルに置かれたままのドクペに手を伸ばした。
独特の甘さに眉を寄せながら、達海とのキスも大半がこの味だと思い出して、小さく苦笑した。
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