GIANT KILLING2

□お前は俺のモノ!
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後藤はイイ男だと思う。
身長もあるからだけど、現役を退いて何年も経つのに相変わらずガタイはイイし。
昔に比べたら体力は落ちてるし、言葉にはしないけど疲れが中々取れないのも知ってる。
もうすぐ四十路だしな。
けど、顔だってそこそこ男前だし、優しいし、人当たりもイイ。
ちょーっとヘタレなトコもあるくせに、変に頑固だったりするトコもあるけど、総合的に見れば、やっぱりイイ男だと思う。
現役ん時も、それなりに女の子のファンもいたし。

だから。
今も独身で彼女のいない後藤は、それなりにモテてるんだろうと思うよ。
噂では今も後藤のファンクラブがあるとかゆーし。
けどさ。こーゆーの見ちゃうと、やっぱ面白くないワケよ。
『恋人』としては−−



***



あと三十分ほどで日付が変わる−−そんな時間にチャイムが鳴った。
シャワーを浴びたばかりで、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出そうとしていた後藤は、普段から滅多に鳴らないチャイムに首を傾げた。

「……こんな時間に誰だ?」

一瞬頭を過ぎったのは管理人の存在だったが、マンションの入口の脇にある管理人の部屋は、後藤が帰宅した時には既に暗かった。
次に浮かんだのは隣人だったが、先月引っ越して以来、隣は空き家のままだ。
テーブルの上にペットボトルを置いて、インターホンの液晶を覗き込む。

「……な、んでっ」

髪を拭いていたタオルを首に掛けたまま、後藤は玄関へと急いだ。
チャイムを鳴らした人物は見当たらなかったけれど、カメラの前を横切った、もう一度押そうと伸ばされた腕には見覚えがあった。
見慣れた、カーキ色の袖。

「−−おわっ、あっぶねぇな」

「それはこっちの台詞だっ!」

勢い良く玄関のドアを開けると、わざとらしく目を見開いた達海が後藤を見上げた。

「こんな時間に……っ、危ないだろうがっ!」

「危ないって……女じゃねぇんだから平気だって」

むー、と唇を尖らせる達海は、三十も半ばの男だというのに酷く愛らしくて、抱きしめたい衝動に駆られるが−−。

「お前だから危ないんだっ!」

無自覚で無防備に振り撒かれる色気に惑わされるのは、女性に限った話ではない。
ETUの中にも達海を狙っている輩は多いし、最近では他チームからのアプローチも目立ってきた。

「つーか、いつまで玄関に立たせとく気? 入れてくんないの?」

「……入れ」

「おっじゃまー」

顰めっ面の家主の脇をすり抜けて、達海はコンビニの袋をぶらつかせながら靴を脱ぐ。
爪先があっちこっち向いたままの靴を揃えて、我が物顔で部屋へと入って行く達海の後を追う。

「もしかして、もう寝るトコだった?」

「お前……今何時かわかってるか?」

「んにゃ。俺の部屋時計ないしー」

リビングのローテーブルの上にコンビニ袋を置いて、お気に入りのドクペを取り出した達海は、どっかりとソファーに腰を下ろした。
カショ、とプルタブを開ける音に後藤は片手で額を押さえた。

「−−ここまで何で来た?」

「タクシー」

「何の用で?」

達海の気まぐれは今に始まった事ではない。
たが、こんな夜中に部屋を訪ねて来るのは初めてだ。
呼び出された回数は幾度とあるけれども。

「たまたまさ、こんなん見付けたら気になっちゃって」

そう言って達海がローテーブルの上に取り出したのは、A4サイズほどの白い封筒だった。
宛名も何も書かれていないソレに、後藤は首を傾げながら手を伸ばす。
半分ほど中身を出したところで、後藤の手が止まった。

「あんなトコに重ねてたら可哀相じゃね?」

「あ、いやっ、これは、明日返そうと思って……」

「だからって資料の山に埋もれさせなくても」

コンビニの袋からお菓子の箱を取り出して、パコパコと封を開ける達海に、後藤は後ろめたさを感じて中身を封筒に戻した。

「……見た、のか?」

「うん」

「あっ、あのなっ、これは商店街のおばちゃんに押し付けられただけでっ!」

「んな慌てて言い訳しなくったっていいよ」

後藤もいい歳だから、そういう話が舞い込むのも仕方がないと思ってる。
むしろ、四十手前でもまだ貰える方が有り難いのかもしれない。

「本当に、明日返すつもりだったんだ……」

そのまま封筒を鞄の中に仕舞う。
封筒の中身は、いわゆる『お見合い写真』だ。
そんなつもりはないと断ったのに、見るだけでも良いからと半ば強引に押し付けられた様なモノで。
書類と一緒に事務所の机に置きっぱなしにしてしまっていたのを、今の今まですっかり忘れていた。

「後藤が押しに弱いの知ってっから、ソレはいいんだけどさ」

お菓子を口に放り込んだ達海がモゴモゴと口を動かす。




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