GIANT KILLING

□これが『恋』だと気付きました
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タオル片手にシャワールームへと向かう椿は、ガックリと肩を下げ、「はああぁぁ……」と大きな溜息を吐いた。

(なんか、イマイチ調子悪い……)

ここ数日、練習に身が入らないというか、気が散るというか……。
ふとした瞬間に視界にある人物を捉えてしまうと、途端に集中力が途切れてしまう。

変に緊張してしまうのは前から変わらないが、最近は少し、違う気がする。
上手くは言えないけれど。

(……なんか、変……)

ちょっとした事でモチベーションがアップダウンを繰り返すのは、まだまだ自分がメンタル的に未熟だからだとわかっているけど。
こうも同じ人物が関わってくると、余りにも情けなくなってきて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
せっかく起用されているのに、期待を裏切っているようで、苦しい。

(明日はミスを無くそう……っ!)

うしっ、と拳を握って廊下の角を曲がると、シャワールームを通り過ぎた向こう側に、達海の後ろ姿が見えた。
パーカーのポケットに両手を突っ込んで、仲良さ気に会話している相手はGMの後藤だ。

「……あ」

思わず後退った椿は、そのまま壁に身を隠した。

やましい事なんて何も無いから、隠れる必要は無いのだけれど。
何となく、二人に声を掛けてシャワールームに入るのも、だからと言って黙って入るのも気が引けて。
そっと顔を出して、様子を伺う。

「だからー、最初っからそー言ってんじゃん」

「まったく……お前のそういう所は変わらないな」

くすり、と笑った後藤が、達海の頭を撫でた。
子供じゃないんですけどー、と文句を言いながらも、止めさせるわけでもなく撫でられ続けている。

こんな光景は、始めて見るわけではないけれど。

(やっぱりあの二人、仲良いんだなぁ……)

現役時代を共に過ごして来た仲だから、ここにいる誰よりも気心が知れているのだろう。
笑い合う二人の姿は、仲睦まじく感じられて。

(……何だろう、これ?)

胸の中に沸き上がって来た、モヤモヤとした得体の知れない気持ち悪さに胸を摩る。
いろんな事を考え過ぎて、ネガティブ思考になって気持ち悪くなる時があるが、それとは少し違う気がする。

気付かないうちに暑さにやられたのだろうかと思っていると、

「どうしたんだ、椿?」

と、いつの間に目の前にいたのか、世良が顔を覗き込んで来た。

「こんなトコで呆けてんなよ」

「あ、えっと、その……っ」

呆れた顔で自分を見て来る赤崎に、呆けてたワケじゃ……と説明しようとして、どう説明していいのか分からなくなって吃ってしまう。

「あっ、監督ー、お疲れっス!」

廊下の向こうに立つ達海に気付いて、世良が手を振った。

「おう。お疲れー」

振り返った達海がニヒ、と笑って、後藤の肩を叩いて椿達の方に歩いて来た。

「さっさとシャワー浴びろよ。汗臭くなるぞー」

「えっ、臭いっスかっ?! 匂うっスかっ?!」

慌てて自身の匂いをチェックする世良に、達海は声を上げて笑う。

「まだ大丈夫」

腕を上げて、スン、と小さく鼻を鳴らした赤崎と世良の背中を軽く押して、シャワールームに向かわせる。

「お前、前髪から汗垂れてんぞ」

ハハ、と笑う達海の手が伸びて来て。
汗で束になった前髪を摘まれた。
額に僅かに触れた指と、くいっと引っ張られた感覚に、椿は驚いてビクッと体を震わせた。

「椿?」

「あっ、あのっ、そのっ! お、俺……ッ!」

ずっと達海を見ていた事と、こんな至近距離にまで近付いてるのに気付かなかった事と。
触れた指が少し冷たかったとか、間近で見る達海の笑顔が眩しかったとか。

いろんな事が一緒くたになって、思考がまとまらない。

「スッ、スイマセンッ!」

ぐるぐると回る思考にワケがわからなくなって、首を傾げている達海に頭を下げてシャワールームに駆け込んだ。

「何だ、あいつ?」

椿の行動にワケが分からないのは達海も同じで。
んー…と首を捻ったあと、「ま、椿だからな」と妙に納得して自分の部屋へと戻って行った。




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