GIANT KILLING2

□ワン!ダフル デイズ2
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※『ワン!ダフル デイズ』の続編になります。
単品でも読める内容になっております。



ETUのマスコットと言えば、『マスコット界の潰し屋』と評判のパッカを思い浮かべるのが当然だが、クラブハウスに訪れるファン達の間でマスコット化している『彼』の存在を忘れてはいけない。

「見て見てー、今日もあそこで練習見てるー」

「可愛いよねー」

「休憩になるとこっち来てくれるらしいよー」

女子高生達のお目当ては選手達ではなく−−

「「ダイスケー」」

手を振るその先にいるのは、ネット越しに達海の後ろを陣取って練習場を見つめる一匹の犬。
『ダイスケ』と言う名のその犬は、ニヶ月前に達海が拾ってきた犬だ。
渋る後藤に『ちゃんと面倒見るから』と何度もお願いして、クラブハウスで飼う事を許可して貰ってから、達海はダイスケを溺愛している。
それはもう。
選手達がヤキモチを妬くほどに。

「人気者だねー、ダイスケ」

ベンチに座ったまま、両手を後ろに付いて振り返った達海に、まるで返事をするかのように「ワンッ」とダイスケが鳴く。

二回りほど体の大きくなったダイスケは、以前のようにむやみやたらと吠える事はなくなったが、ジーノが『飼い犬』と呼ぶ椿よりも落ち着きを見せ、達海を守る番犬として貫禄すら漂わせている。

「よーし、15分休憩ー!」

松原が腕時計に目を落とすと、パンパンと手を叩いて選手達に声を掛けた。
まるでそれが合図のようにスクッと立ったダイスケに、「行ってらー」とニヒッと笑った達海が手を振る。
ダイスケが向かった先は、練習を見に来ているファン達の元だ。

「ファンサービスに余念がないね」

ふふ、と笑みを浮かべて近寄って来るジーノに、達海は女子高生に頭を撫でられているダイスケから視線を外した。

「お前より女の子に人気あんじゃね?」

「ボクと『彼』じゃ勝負にならないよ」

涼しげな表情でジーノは女性ファン達に軽く手を振る。
それだけで「キャーッ」と声が上がるのだから充分だと、ジーノは肩を竦めてみせた。

「お前もあれくらいサービスしてやれば?」

「タッツミーがボクに惚れてくれるなら考えるよ」

一緒に写真を撮る事もサインすらしないETUの王子様は、多国籍の女性達を魅了する笑みを達海に向ける。
これで落ちてくれるなら簡単なのだが、天然で鈍感な達海は、顔の良い奴は得だよなぁ、とか色恋沙汰とは無縁な事を考えながら見上げて来るだけだ。

「あーっ、王子! 抜け駆けはズルいっスよ!」

二人の間に割って入って来たのは、サポーターから『可愛い』と評判の元気印、世良だ。

「ホント、抜け目ないよなー」

「達海さんはお前だけのモンじゃないんだぞー」

後に続けとばかりに、石神や丹波もスポドリ片手に達海の周りに集まって来る。
ダイスケがETUに来てからというもの、達海はすっかりダイスケに取られてしまって、以前の様に接する時間が減ってしまった。
ただでさえ敵対心剥き出しのダイスケが傍にいたのでは、達海と会話することすら難しくて。
ダイスケが達海の傍から離れると、こうして選手達が達海を囲む。

「うちのマスコットにダイスケも加えるかー」

練習を見に来てくれたサポーター達に可愛がられている姿に、頬杖をついた達海がへらへらと笑う。
頬を緩ませている達海は、それはそれで愛嬌があって良いのだが、どんだけ溺愛してんだよ! と突っ込みたくなるのもまたしかり……で。

「えっ? パッカとダイスケの二枚看板スか?」

「一緒にして大丈夫なんかねー?」

「あー、狂犬って呼ばれてるから、ワンコ同士仲良く−−」

「出来るワケないだろ」

そもそも、パッカはカッパであって犬ではないし、もっと言ってしまえば生物の類に分類されるモノでもない。
堺の溜息混じりの突っ込みに、それもそうだと選手達が頷いていると、達海が頬杖をついたままニヒ、と笑った。

「タッツミー。何を企んでいるんだい?」

達海の表情に気付いたジーノが、ふふ、と笑みを浮かべながら視線を向ける。

「さーて。何の事やら」

んー、と背伸びをした達海は、そのまま頭の後ろに両手を組んで、パタパタと尻尾を振るダイスケを眺めた。




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