Fantasista

□ニャンコと一緒!4
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うにゃっにゃっにゃー
にゃーにゃっにゃー


後部座席から、達海のイマイチ調子外れな鳴き声が聞こえる。
どうやら、とても機嫌が良いらしい。

「車に乗るの好きなのか?」

ミラー越しに達海を見ると、窓に手を掛けて、尻尾をゆらゆらさせながら外の景色を見ていた。

「うんっ! でも、さかいはあんまりしないし、うるさいって言われる」

むー、と小さな口が尖る。
堺の事だから、先程のように鳴いたりしたら、集中が途切れるとか言いそうだ。

「なーなー、もうつくの?」

後ろからヘッドも一緒に、達海が赤崎の首に腕を回して来た。
ヒョコッと助手席との間から顔を出す。

「危ないからちゃんと座ってろよ、達海」

赤信号で止まって、達海の額を押しやる。
うにゃっ、と頭は引っ込めたが、首に回された腕はそのままだ。
腕を離させようとすると、更に寄り掛かってきてシートを揺らす。

「おいっ、揺らすなって」

「なーなー、もうつくー?」

次の交差点を曲がれば、赤崎が住むマンションが見えてくる。
達海が不満そうな声を上げるのは、飽きたからではなく−−

「少しだけ、寄り道してくか」

独り言のように呟けば、「ニャッ」と短い鳴き声が聞こえた。

「おれ、あかさきすきー」

「だから揺らすなって」

ピョンピョンと跳ねる振動が、シートに抱き着いたままだから直に伝わって来る。
ポンポンと優しく腕を叩くと、「ニャー」と可愛いらしく鳴いて後部座席に座った。

(俺、何かしたか…?)

元々、動物に懐かれ易い方だとは思うが、こんなに懐かれたのは初めてだ。
特別な事をしたつもりもないのに。

車線変更して、マンションとは反対の方へウインカーを出す。
近所をぐるっと一周して帰ろう。
嬉しそうに笑う達海を見て、こんな週末もたまには良いな、と思いながらハンドルを切った。




***




赤崎の部屋はいたってシンプルだ。
ワンルームというせいもあるのだろうが、必要なモノだけしかない。
一段高くなった部屋の奥は、カーテンで仕切ってあってベッドが置いてある。

「テレビでも見とけ。晩飯の準備すっから」

初めて訪れる部屋だからか。
達海はポカンとした顔でぐるりと見回している。
きっと、居心地の良い場所を探しているのだろう。

グリグリと頭を撫でてやって、テレビの電源を入れる。
ほら、とリモコンを預けると、ちょこんとテレビの前に座って尻尾を振り出した。

(大人しいな)

毎日世良と過ごしていたのなら、もっと騒がしいのかと思っていたが、世良のそういう所は似なかったらしい。
堺の言った通り、手間はかからないようだ。

「何を食わせりゃいいんだ?」

堺から渡されたメモを見ながら、冷蔵庫の中身をチェックする。
好きなモノよりも、食べないモノの方が多いが、幸い今あるモノで間に合いそうだ。

簡単に夕飯を作って、堺の躾の賜物なのか、意外と綺麗に食べた事に少し感心して。
お風呂も特に面倒な事は無くて、最初の夜は穏やかに更けようとしていた。

−−が。
思わぬカタチで動揺してしまう出来事が、就寝前に待っていた。

「今日はもう寝るぞ」

ベッドの側の間接照明を点けて、部屋の照明を消そうとキッチンの方に移動すると、達海が赤崎に向かって両手を伸ばして来た。

「だっこ」

んー、と強請る仕種が可愛くて、ふっと小さく溜息と共に笑みを零して達海を抱き上げた。
すると、達海が赤崎の肩に両手を置いて首を傾げた。

「達海?」

何かしたのかと思って赤崎も首を傾げると、自分を見つめる達海の顔が近付いて来て。
ふに、と唇に柔らかい感触がした。
鼻先を掠めるシャンプーの香りは自分と同じモノなのに、何故か妙に甘さを伴っている。

軽く押し当てられたのが唇だと気付いた時には、ニヒ、と笑う達海が妙に可愛く見えた。

「せらのまねー」

「は?」

「ねる前に、いつもさかいとしてる」

そう言って首に腕を回して抱き着いて来た達海に、赤崎は額に手を当てて「……ったく」と小さく呟いた。

まさかこんな形で、彼等の日常を垣間見る事になろうとは。
そしてそれを、達海が実行に移すとは……

(まだ何かあったりすんのか?)

さすがにキス以上の事はないと思うが、意外と達海が目撃している事を、堺に伝えておいた方が良いだろう。

頬を擦り寄せてくる達海を抱え直して照明を消す。
ベッドに横になると、達海はピッタリと赤崎にくっついて、はふ、と小さく欠伸をした。

「おやすみ、達海」

瞼が落ちそうな達海の髪を梳いてやると、「……にゃぁ……」と小さな鳴き声がした後、すよすよと気持ち良さそうな寝息が聞こえて来た。

「……お前みたいな猫だったら、飼ってもいいな」

耳の後ろを掻いてやると、ピクピクと耳が動いて身動ぎする。
小さな体に腕を回して、その温かさを感じながら、赤崎はそっと目を閉じて眠りの波に身を任せた。




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