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□初雪
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《初雪》ゴトタツver.


べくちっ

誰もいない夜の練習場に響くくしゃみ。
ズー、と鼻を啜る音。

帰宅しようとクラブハウスを出た後藤は、その音に気付いて足を止めた。

パーカーにジャージという軽装の達海を発見して、慌てて練習場へ駆け込む。

「何やってるんだ! 風邪引いたらどうするっ?!」

「あ?」

背中から抱き締められて、漸く後藤に気付いたのか、後藤の肩に頭を乗せるように見上げてきた。

「ごとー。今帰り?」

抱き寄せた細い肩は、すっかり冷えていた。
くしゃみしたせいなのか、寒さのせいなのか、鼻が赤い。

「いつから此処に居たんだ?」

「んー…いつかなぁ」

「部屋に戻るぞ」

「やだ」

くしゃみするぐらい寒いくせに、なんで嫌がるんだ。
膝だって、痛くなるはずなのに。

「達海…」

思わず溜息交じりで名を呼ぶと、達海は肩に回された腕に手を重ねた。

「もうちょい、このまま」

考え事、したいから。

「…五分だけだぞ」

言い出したら聞かないから。
後藤はコートの前を開けて、達海の体を包み込んだ。

「あったけー」

「それだけ体が冷えてるんだろ」

頬に触れる達海の髪もひんやりしてる。
こんな寒空の下で、一体何を考えていたんだ。

「あ、見て後藤」

空を見上げる仕種に、後藤も空を見上げる。
真っ黒な空から、白い粒がゆっくりと落ちて来た。

「道理で寒いと思った」

「…やっぱり寒いんじゃないか」

「初雪だよ、後藤」

達海は空に手を伸ばして雪を掴んだ。
冷たいと感じた瞬間には、もう溶けて消えてしまった。

「なぁ、後藤」

くるり、と後藤の腕の中で向きを変えて、達海は後藤を見上げた。

「俺の部屋、さみーんだよ。お前んち、行ってもいい?」

突然の申し出に、後藤は一瞬驚いたが、すぐに相好を崩した。

「構わないよ。だが−−」

唇で触れた達海の額も、やっぱり冷たい。

「上着を持って来い。俺は車を暖めておくから」

「あんがと、後藤」

ニッと笑う達海の唇に、キスをひとつ。
お互いの唇が同じ温度になるまで、唇を重ねた。

ふわふわと、綿雪が二人に舞い落ち、そっとその姿を包み込んだ。



END.

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