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□色鮮やかな雪の花
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《色鮮やかな雪の花》



「したい事?」

「そ。何かある?」

クラブハウスの玄関先に置かれた大きなモミの木は、一週間後のクリスマスイベントの為に用意されたものだ。
どうせだったら本物がいいな、と呟いた達海の一言がジーノの耳に入ったらしく。
三日前に届いたモミの木は、それはそれは簡単に手に入るはずのない、かなり立派なモノだった。

ソレに飾り付けをしていると、脚立に座って1番上に飾る星を手にした達海が、両手で弄りながらそんな事を言い出した。

「突然そんな事を言われてもなぁ……」

「パーッと騒げる事、何かない?」

「そうだなぁ……」

電飾の束を手に取って、後藤は端を達海に渡した。
天辺に電飾を巻き付ける達海を見上げて、ふと既視感を覚える。

「昔もこうやってツリーを飾ったよな」

「だっけ?」

「俺達がまだ寮にいた頃の話さ」

電飾を張り出した枝に絡ませていく後藤を、脚立に座ったまま達海が見下ろした。
手を伸ばして電飾を受け取り、目の前の枝に括り付けて残った端を後藤に渡す。

「よく寮長に叱られたよな」

「俺等が何かする度に怒ってた気がするけどな」

「お前がいつも突発的に始めるからだろ」

「だってさー、思い立ったら吉日って言うじゃん。許可取ってる暇なんてねぇよ」

目の前にぶら下がるオーナメントの雪だるまを指で弾く。
ニヒ、と笑う顔はあの頃を思わせて後藤は苦笑した。

巻き添えを食って怒られたり、一足先に逃げ出した達海の代わりに説教されたり。
今は有里に似たような事をされていると思うと、本当、笑うしかない。

「お前が横山に酷く怒られた事あっただろ? あれ、何したんだっけ?」

クリスマスの時期だったよな、と見上げて来た後藤に、達海は首を傾げながら星を飾った。

「……確か、車に何かしたんだよなー」

イヴの前日とかで、横山がクリスマスは彼女とデートだと言っていて、『自慢しやがって!』と車に向けたのは−−

「あ。アレだ。アレやろうよ、後藤」

手招きをされて脚立の傍に立つと、達海は身を屈めて後藤の耳に唇を寄せた。



***



飾り付けされたツリーがチカチカと光り、クラブハウスの入口を明るく照らしていた。
空は黒一色で辺りを闇で包んでいるのに、この時期はイルミネーションで昼間の様に明るい所もある。

「うーっ、さみぃ」

「雪降りそうっスね」

「俺っ、雪合戦したいっス!」

「ガキだな」

サポーターとのクリスマスイベントが終わり、明日からの休日をどう過ごすか……なんて会話をしながら、帰宅しようとクラブハウスを出ると、寒空の下では馴染みのない音が耳に届いた。

ヒュルルル…
 ヒュルルル…

パンッ
 パンッ

「何の音?」

「近いっスね」

「この音って……」

音のする方を見れば、駐車場の方が不自然に明るい。
何だと駐車場を覗いて見れば−−

「お前ら遅いよー」

むぅ、と唇を尖らせた達海からひょいと投げられたモノを慌てて世良が受け止めると、ソレは達海が手にしているモノと同じだった。

「こっからは大人の時間。花火しよーぜー」

両手に持った花火をぐるぐると回しながら、ニヒー、と達海が笑った。

「いいんスか、こんな所で花火なんて……」

「いーのいーの。だってほら」

「おいっ、人に向けるなっ!」

「GMも共犯者だから」

ニヒー、と笑って花火を向けた先にいたのは、しゃがんで打ち上げ花火を準備していた後藤だった。

「冬にやる花火もいいもんだろ?」

「俺っ、初めてっスーっ!」

真っ先に飛び付いたのは世良で、達海から渡された花火を椿や赤崎にも手渡す。

「監督ー、火つけてー」

「これネズミ花火も入ってるスね」

「パラシュートって……懐かしいけど夜にやったら見えないじゃん」

そこに丹波や石神が混じれば、クラブハウスの駐車場はあっという間に花火大会が始まる。
貰い火で次々と花火に火を点けて、そのまま打ち上げ花火にも点火していく。

「ちょっ! 丹さんっ!?」

「俺の車に向けてネズミ花火投げんじゃねぇっ!」

「ギャハッ! 飛んでっただけだって!」

悪ノリする丹波達と、ネズミ花火に驚いて「ひぇっ!」と声を上げる椿や、騒ぎ過ぎだと慌てる後藤の姿にクスクスと笑っていると、遅れて来た二人が対照的な反応を示した。

「随分と楽しい事をしているね」

「またあんたは何を考えて……」

「んー、たまにはいいじゃん」

はい、とジーノと村越にも花火を差し出すが、二人は視線を落としはするが手に取らない。

「ボクはいいよ。タッツミーが楽しそうな姿を見てる方がいいし」

ふわりと微笑んで達海の頬を指でなぞるジーノに対して、村越は腕を組んではしゃぐ選手達に目を向けた。

「ねぇ、どうして花火なんだい?」

べくちっ、とくしゃみをした達海にジーノは自分のマフラーを巻いてやる。
すっかり冷えた手を包んでやると、ずび、と鼻を啜りながら達海が小さく笑みを浮かべた。

「昔さ、この時期になると寮の奴等とよくやったんだよ、花火」

先日の後藤との会話で思い出したのだ。
商店街から夏の残りを買い占めて、駐車場で手当たり次第に火を点けて。
彼女のいる奴の車に向けてロケット花火やネズミ花火を投げ付けたりしながら。
散々怒られながらバカ騒ぎしてた。

「お前等とも騒ぎたいなーって思ったら、思い出してさ」

雪が降っても、体の芯から冷えるような寒さの中でも。
そんな事を忘れてるバカみたいにはしゃいでた。

「ボクの車には投げ付けないでよ」

「えー、どうしよっかなー」

「絶対にダメ」

ニヤリと笑う達海に眉を顰めれば、ジーノの手を引いて達海は世良達の輪に向かう。
もちろん、村越も引っ張って。

「俺からのクリスマスプレゼントなんだから楽しめっ! 監督命令だ!」

誰かが点火した花火が上がる。
色取り取りの光の柱に目を細めていると、頬に触れる柔らかな冷たさに夜空を見上げた。

「雪だ」

「ホワイトクリスマスになりそうだね」

キラキラと花火の光を反射させる雪の花に、寒さも忘れて見惚れた。



Merry X'mas!



2011/12/07

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