GIANT KILLING
□この空は
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見上げた空は、あまりにも青く澄み切っていて。
大の字になって寝っ転がった達海は、吸い込まれてしまいそうな錯覚に目を閉じた。
−−穏やかな、休日の昼。
「……気持ちいいなあ」
穏やかに吹く風が、ふわふわと達海の髪を揺らしていく。
ふあぁっ、と欠伸をして背伸びをする。
涙の滲んだ目で空を見たら、空の青さが目に染みた。
「お、夏木みてー」
視界に入った雲が、夏木のもじゃもじゃ頭みたいに見えてアハハと笑う。
上空は風が強いのか、雲はあっという間に形を変えて流れていく。
「−−あいつら、元気にしてっかなあ……」
向こうでも、こうして寝っ転がっては空を眺めた。
あの頃と、空の青さも、雲の白さも変わらない。
もう一度、目を閉じて深呼吸をひとつ。
あいつらの声が、聞こえてくるような気がする。
自分の名を呼ぶ声と、他愛もない話をする声。
−−おはようっ! タッツ!
−−タッツミー!
−−なあ、聞いてくれよ! タッツミー!
−−今度、三人目が生まれるんだ
−−この間、妹が彼氏を連れて来てさ
−−新メニュー作ったんだ! 食べに来てくれよ!
「……良い町、だったなあ」
ばーさんも。じーさんも。子供達も。
町中の皆が、フットボールが大好きで。
フットボールバカどもの顔を、ひとりずつ、瞼の裏に思い浮かべる。
「お前ら、今も楽しんでるかー?」
イングランドを離れてまだ数ヶ月。
気にはなるけれど、戻りたいわけではない。
心配も、していない。
あいつらなら、大丈夫だ。
「俺も元気だぞー」
大切な人達に再会して。
大切な人達と出会って。
毎日。毎日。
フットボールの事を考えて。
「楽しんでるぜ」
大好きなフットボールと、大切な人達に囲まれて。
(−−幸せなんだ、俺)
だから。お前達も。
「頑張れよ」
頬を撫でる風に乗せるように囁く。
この空は、あいつらの所まで繋がっていて。
空に向けた想いは、あいつらの元に届いて、また此処に戻って来る。
心配すんな。
大丈夫だって。
見上げた空に拳を突き上げて、親指を立てた。
遠い空の下にいる、フットボールバカどもに向かって、ニヒ、と笑う。
「タッツミー」
ふと届いた声に、達海は「よっ…と」と体を起こした。
胡座をかいて、両手で足首を掴む。
「呼び出しといていないって、何なんスか」
「今に始まった事じゃないだろ?」
自分の名を呼ぶジーノの声と、不満げな赤崎の声と、宥める後藤の声。
大切で、愛しい人達の声だ。
「やっぱ愛されてんじゃーん、俺」
彼らに「今すぐ来い」と一方的な電話をしてから、まだ三十分も経っていない。
よっぽど暇だったのか。
それとも待っていたのか。
どちらにせよ。
急な呼び出しにも、彼らは応じてくれた。
頬杖をついて、達海はふっと目を細めた。
此処からは彼らの姿は見えないけれど。
会話から表情は想像出来る。
「「「あっ」」」
三人の声が、何かに気付いたように重なった。
きっと、クラブハウスの屋上に掛けられた梯子を見つけたのだろう。
「さーて。誰が一番乗りかな」
ニヒヒと意地悪く笑って梯子に目を向けた。
−−彼らが此処に辿り着くまで、あと少し。
この空は、どこまでも繋がっていて。
遠く離れた人達にも、同じ青さを届けてくれる。
見上げればきっと。
想いは届く−−
心配すんな。
大丈夫。
お前らの中の、
GIANT KILLINGを起こせ−−
END.
2011/3/24