GIANT KILLING

□この空は
1ページ/1ページ

.


見上げた空は、あまりにも青く澄み切っていて。

大の字になって寝っ転がった達海は、吸い込まれてしまいそうな錯覚に目を閉じた。

−−穏やかな、休日の昼。

「……気持ちいいなあ」

穏やかに吹く風が、ふわふわと達海の髪を揺らしていく。

ふあぁっ、と欠伸をして背伸びをする。
涙の滲んだ目で空を見たら、空の青さが目に染みた。

「お、夏木みてー」

視界に入った雲が、夏木のもじゃもじゃ頭みたいに見えてアハハと笑う。
上空は風が強いのか、雲はあっという間に形を変えて流れていく。

「−−あいつら、元気にしてっかなあ……」

向こうでも、こうして寝っ転がっては空を眺めた。
あの頃と、空の青さも、雲の白さも変わらない。

もう一度、目を閉じて深呼吸をひとつ。

あいつらの声が、聞こえてくるような気がする。
自分の名を呼ぶ声と、他愛もない話をする声。

−−おはようっ! タッツ!

−−タッツミー!

−−なあ、聞いてくれよ! タッツミー!

−−今度、三人目が生まれるんだ

−−この間、妹が彼氏を連れて来てさ

−−新メニュー作ったんだ! 食べに来てくれよ!

「……良い町、だったなあ」

ばーさんも。じーさんも。子供達も。
町中の皆が、フットボールが大好きで。

フットボールバカどもの顔を、ひとりずつ、瞼の裏に思い浮かべる。

「お前ら、今も楽しんでるかー?」

イングランドを離れてまだ数ヶ月。
気にはなるけれど、戻りたいわけではない。
心配も、していない。
あいつらなら、大丈夫だ。

「俺も元気だぞー」

大切な人達に再会して。
大切な人達と出会って。
毎日。毎日。
フットボールの事を考えて。

「楽しんでるぜ」

大好きなフットボールと、大切な人達に囲まれて。

(−−幸せなんだ、俺)

だから。お前達も。

「頑張れよ」

頬を撫でる風に乗せるように囁く。

この空は、あいつらの所まで繋がっていて。
空に向けた想いは、あいつらの元に届いて、また此処に戻って来る。

心配すんな。
大丈夫だって。

見上げた空に拳を突き上げて、親指を立てた。
遠い空の下にいる、フットボールバカどもに向かって、ニヒ、と笑う。

「タッツミー」

ふと届いた声に、達海は「よっ…と」と体を起こした。
胡座をかいて、両手で足首を掴む。

「呼び出しといていないって、何なんスか」

「今に始まった事じゃないだろ?」

自分の名を呼ぶジーノの声と、不満げな赤崎の声と、宥める後藤の声。
大切で、愛しい人達の声だ。

「やっぱ愛されてんじゃーん、俺」

彼らに「今すぐ来い」と一方的な電話をしてから、まだ三十分も経っていない。
よっぽど暇だったのか。
それとも待っていたのか。

どちらにせよ。
急な呼び出しにも、彼らは応じてくれた。

頬杖をついて、達海はふっと目を細めた。

此処からは彼らの姿は見えないけれど。
会話から表情は想像出来る。

「「「あっ」」」

三人の声が、何かに気付いたように重なった。

きっと、クラブハウスの屋上に掛けられた梯子を見つけたのだろう。

「さーて。誰が一番乗りかな」

ニヒヒと意地悪く笑って梯子に目を向けた。


−−彼らが此処に辿り着くまで、あと少し。





この空は、どこまでも繋がっていて。
遠く離れた人達にも、同じ青さを届けてくれる。

見上げればきっと。

想いは届く−−


心配すんな。
大丈夫。


お前らの中の、
GIANT KILLINGを起こせ−−





END.

2011/3/24

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ