GIANT KILLING

□Mission!
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「監督さんっ、見たわよ〜」

「十年前も格好良かったのね〜」

食堂に入ると、カウンターの向こうからオバチャン達が身を乗り出して達海に声を掛けて来た。

「見たって…何?」

「「CM!」」

「あ?」

何の話か検討もつかなくて、達海が首を傾げる。
クラブハウスの食堂では、選手達の殆どがお昼を食べていて、『CM』というオバチャン達の言葉に何事かと顔を上げた。

「あっ、ほらっ!」

「あれよっ、あれっ!」

揃って指を差した方を振り返ると。

『走れ!』
『誰よりも速く!』

食堂に設置されているテレビに流れていたのは−−

「えっ? これって監督っ?!」

「うわっ、若ぇっ!」

「なんでなんでっ? なんでCMなんて流れてんのっ?!」

十年前の、達海が出演したスポーツ飲料『ダイナモ』のCMだ。

「ああ、今日からだったか」

少し遅れて食堂に入って来た後藤が、皆が見入っているテレビをチラリと見て達海の隣に並んだ。

「あ? お前、何で流れてんのか知ってんの?」

今更、十年も前のCMを流してどうするのか。
首を傾げて見上げてくる達海に、後藤が「は?」と声を上げる。

「ちゃんとお前から許可貰っただろ? 覚えてないのか?」

「えー? いつー?」

唇を尖らせる達海に、はあぁ…と溜息を吐いて「先月…」と始めた説明は、

「「えええぇぇぇっっ?!」」

と選手達の驚きの声に掻き消された。
図らずも十年前の達海の姿を見れただけではなく、追加された内容にザワザワと食堂全体がざわめく。
そして、それを見た彼等の背中には、熱い決意が見て取れる。

その理由は−−

『ダイナモに付いている応募券を集めて、ここでしか手に入らないSPECIAL DVDをGETしよう!』

画面に映ったのは、CM撮影中のオフショット。
撮影スタッフと談笑したり、リフティングしたりしている。
どうやら、メイキング映像と六十秒のロングバージョン、達海の記憶には一切無いが、インタビューも収録された秘蔵DVDらしい。

「えー…誰が欲しがるよ、そんなモン」

この会社、何考えてんの?

思いっ切り顰めっ面で後藤を見れば、呆れた顔で肩に手を置かれた。
ちゃんと説明したのに、達海の耳には入っていなかったようだ。
あの時の「別に良いけど?」は、了解の意味では無かったのか。

「お前が監督としてETUに戻って来たから、キャンペーンをしたいって打診があったって話したの…覚えてないか?」

「だからいつの話だよ?」

……どうやら、本当に覚えていないらしい。
キャンペーンにGOサインを出したのは、時期尚早だったのだろうか。

「監督っ、CMに出てたなんてすごいっスねっ!」

「何スか? あのDVD」

「達海さんっ、カッコイイッス!」

「うえっ?!」

選手達が詰め寄って来て、カウンターに押しやられた達海の体を、食堂のオバチャン達が掴む。

「あ? ちょっと何?」

「あのDVD欲しいんだけど、監督さん、貰ってるんじゃないの?」

「あっ! 俺も欲しいっス!」

「「俺もっ!」」

「はあ?」

CMが放送されるのも知らなかったのに、そんなDVDを持っているはずもない。

「そんなモン無いよ。つーか、いらないし」

何が悲しくて、過去に自分が出演していたCMのDVDを貰わなければいけないのか。
寧ろ、拒否したい。

「え〜、そうなの〜?」

「監督さんに頼めば貰えると思ったのにねぇ」

オバチャン達が顔を見合わせて「残念ね〜」と苦笑すると、選手達も肩を落とした。
それを見て、達海の表情が曇る。

「何でお前らあんなモノ欲しいんだよ? いらねーじゃん」

達海にとっては、望んで出たCMでも無いし、怪我で満足いく動きが出来たわけでも無い。
言わば、苦い思い出だ。

けれど。
選手達にとっては、若かりし日の達海が楽しそうに撮影をしている風景や、時折見せる勝負師の顔をいつでも見れるとなれば、是非とも手に入れたい。

「残念だったな。うちには一枚も来て無いぞ」

そんな彼等の心情は、後藤にしてみれば余りにも分かり易すぎて、苦笑しながら押し潰されそうな達海を救出した。

「地道に応募するんだな」

キャンペーン期間はたった一ヶ月。
果たしてETUの選手達がどれ程、売上に貢献するのか−−。

(考えたくもないな…)

自分達も応募しようかと盛り上がるオバチャン達に、後藤は二人分の昼食をオーダーした。




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