GIANT KILLING

□だって、楽しいでしょ?
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腕を組んで、「うーん…」と悩むジーノの姿は滅多に見られるものではない。
閉じられたドアの前で。
顎に指を添えて首を傾げている。

部屋の主の意思など無視して、部屋に侵入しては我が物顔で寛いでいる彼が、一体どうしたのか。

「どうかしたのか?」

そんな珍しい光景に出くわした後藤は、思わず声を掛けてしまった。
−−それが、頭を悩ませる結果を招いてしまうとも知らずに……。

「ああ、調度良いトコロに。実はちょっと困ってたんだ」

『困っている』と言うわりには、その声色は実に楽しそうだ。

「何かあったのか?」

「ここの鍵、壊しても良いかい?」

「−−は?」

ジーノが指差したのは達海の部屋のドアだ。
元々、倉庫として使っていた部屋だから、大したセキュリティでは無いが…

「開けて貰えば良いじゃないか」

ガラスから部屋の明かりも見えるし、テレビの音も聞こえる。
ノックをすれば気付くはずだ。

「締め出されちゃったんだよ」

ふふ、とジーノが笑う。
締め出された…?

「このボクを締め出すなんて、タッツミーくらいしかいないよ」

それはそれは。
とても楽しそうに笑みを浮かべる。
『締め出される』という初めての経験に、ジーノは心を踊らせているようだ。

「…何をしたんだ?」

「−−知りたい?」

ジーノの笑みが妖艶さを増す。

きっと、次の試合の為にDVDを見ていたのを邪魔したとか、そういう類の事をしたのだろうけど。
ジーノの笑顔には、色んなモノが含まれているような気がしてならない。

「−−いや、いい」

聞く勇気は無い。

「そう? 残念」

全く残念そうに見えないのは、気のせいでは無いはずだ。
もう一度、ふふ、と笑ってドアを指差す。

「−−で。壊してもいいかい?」

「さすがにそれは勘弁して欲しいな」

この部屋の主は、普段から鍵を掛けるという行為をしないが、やはり有るのと無いのでは気持ちの持ちようが違う。

「どうしようかな。タッツミーの機嫌が直るまで待てるほど、気が長いわけじゃないんだよ、ボクは」

ドアの向こうに聞こえるように、少しボリュームを上げてジーノが話す。
すると。
カチリ、と鍵が開く音がした。

「…帰れって言ったじゃん」

そーっと開けたドアの隙間から、達海の顔が覗く。

「そんな顔した君を置いて帰れるわけないでしょ」

両目にはうっすらと涙が浮かんでいて、心なしか少し疲れた顔をしている。

「達海? もしかして具合でも悪いのか?」

熱でもあるんじゃないかと、額に手を伸ばすと、ぷいっと外方を向かれた。

「平気。どこも悪くない」

「だが…」

「ごめんね、タッツミー。次はもう少し加減するから」

尚も手を伸ばした後藤よりも先に、ジーノの指がドアノブを掴む達海の手に触れた。
ゆっくりと撫でる指をペシリと叩く。

「痛いのはもうヤダかんな」

「ふふ。どうかな」

「痛くすんなら帰れ」

「わかったよ。優しくしてあげるから」

−−部屋に入れてよ。

ドアに手を掛けて、ジーノが達海に身を寄せた。
微笑むジーノをしばし見つめて、やがて観念したようにドアを開ける。

−−なんだ、この雰囲気は?
二人の会話も何だか妖しい。
もしかしてこれは…痴話喧嘩に首を突っ込んでしまったのか?

思わず額を押さえた後藤に、ジーノがニヤリと笑ってみせた。

「壊す手間が省けて良かったよ」

達海の背中を押して、二人の姿がドアの向こうに消える。

「ほら。早く」

「急かすなって」

ギシッ…と軋むベッドの音。

「……ん」

「どう?」

「…はぅ…」

−−……勘弁してくれ。

ドアの向こうから漏れ聞こえてくる会話に、後藤は痛む頭を押さえながら踵を返した。
二人の関係は既に周知の事実となっているが、実際にこんな場面に出会してしまうと、何とも言えない気分だ。

声を掛けなければ良かった……

はあぁ…と、重い溜息が廊下に吐き出された。






ドアの前から後藤の気配が消えたのを確認して。

「不摂生してるから、内蔵が弱ってるんだよ」

「…あっ…」

逃げようとする足首を掴んで、親指で足の裏を刺激する。
然程力を入れていないのに、達海は身を捩ってベッドに突っ伏している。

「バランス考えて食事しなきゃ」

「…くっ…うる、せ」

ビクッと達海の体が浮く。
耐えられない程の痛さではないが、ピンポイントに刺激されると気持ち良さと綯い交ぜになって、体が勝手に反応してしまう。

「選手じゃないから良いんだよ」

「またそんな屁理屈言って」

選手であろうと監督であろうと、体が資本なのは同じだ。
特に今は、達海に倒れられたら困る。

「つーかお前、後藤に変な事吹き込んだだろ?」

頭を動かして、にこやかな顔で足裏をマッサージしているジーノに目を向けた。
すると、肩を竦めて心外といった表情を浮かべる。

「まさか。何も言ってないよ」

「変な顔してた」

「それならタッツミーが説明してあげれば良かったじゃない」

親切にも、マッサージをしていて過敏な反応をする達海が可愛くてエスカレートしたら締め出されたと、教えてあげようとしたのに、断ったのは後藤だ。

「お前が含んだ言い方するのが悪い」

「だって、」

ふふ、と笑ってジーノは達海の足の甲にキスをした。
そして。
思わず見惚れてしまうような笑みを浮かべて、当然の事のように言い放った。



「その方が楽しいでしょ?」





END.

−−−−−−−−−−−−−−
ジーノと後藤さんが絡む事ってないなぁ…と思って出来たネタ。
きっとジーノは、こうやって色んな人を悩ませているに違いない。

2011/1/19

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