GIANT KILLING

□ある寒い日の光景
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ぎゅう。
腰に両腕を巻き付けて、背中にピッタリとくっついた。

あぁ…やっぱあったけーな。

ジャージ越しにも椿の体温の高さがわかる。
子供は体温が高いっていうから抱き着いてみたけど、椿もまだ子供の部類に入るのかなぁ…なんて肩に顎を乗せてぼんやり考えてたら、ギギギィ、と油の切れたロボットみたいに椿が顔を動かした。

「お前、あったけーな」

目が合って、ニヒッて笑ってやったら、ボッと真っ赤になった。

「かっ、かっ、監督っ?! なっ、何してんスかっ?!」

わたわたと両腕を振り回して暴れる椿を、達海はしれっとした顔で押さえ込む。

「寒いからさ。お前で暖取ってんの」

「は? えっ? あ、ちょっ、えええぇぇぇっ!」

抱き着かれるなんて行為になれていない椿にとって、達海の行動は余りにも心臓に悪い。
背中に感じる熱に心臓はバクバクと痛い位に煩いし、至近距離でんー、と満足げに目を閉じて肩に頬を擦り寄せる顔を見てしまったら、硬直してしまって動けない。

ど、どうしよう…っ!

泳ぐ目が腰に回された腕を捉え、カッと体が熱くなる。

「−−こんな所で何してんだ、あんたは?」

後ろから届いた声に達海が振り返った。
遅れて椿も振り返る。
呆れたような疲れたような顔した村越が、腕を組んで大きな溜息を吐いた。

一体この人は、クラブハウスの廊下で何をしているんだ。

椿の声に気付いたチームメイトが、ロッカールームから顔を出した。
椿が監督に抱き着かれている光景に、「あーっ!」と声を上げる。

「何スかっ、何なんスかコレっ?!」

「椿っ! 今すぐ離れろっ!」

「はっ、ハイッ!」

世良や赤崎に詰め寄られ、思わず直立不動で返事をするが、肝心の達海に離れる気配が無い。

「なんだよ、うるせーな…んなっ!」

「何? どうしたの?」

騒ぎに気付いて、黒田や石神達も姿を現した。

「何で椿に抱き着いてんスか」

「だってさー、寒かったんだもん」

椿って体温高そうだから抱き着いてみた。
ただそれだけだったのに、何故こんなにも彼等は騒ぎ立てるのか。

あっという間に囲まれている。

「監督っ、俺も体温高いんスよっ」

んぎゅー、と達海の背中に世良が抱き着くと、へらっと達海の顔が緩む。

「あったけー」

人肌って良いなぁ、なんて若手二人の体温にぬくぬくしていると、ベリッと引き剥がされた。
バランスを崩して近くにあった腕を掴むと、目を吊り上げた赤崎が達海を支えた。

「世良さん、あんたじゃ小さくてカバーしきれてないスよ」

「ぐっ…気にしてる事を言うなっ」

今度は赤崎が正面から達海を抱き竦める。
意外と温かい。
若手連中はみんな、体温が高いようだ。

「お前等あったけーな」

「達海さんは痩せ過ぎだから、体温低いんじゃないスか?」

ハハハと笑っていると、またも引き剥がされ今度は黒田が、

「熱さなら負けねぇ!」

と抱き着いてきた。

「いっ、痛いって!」

ギリギリと締め付けられてその背中を叩くと、杉江が黒田を引き剥がした。

「お前の馬鹿力じゃ、達海さんが折れるだろ」

「サンキュー、スギ」

抱きしめられた位じゃ折れはしないと思うが、痛みが勝っていた黒田の抱擁から解放されたのもつかの間。
今度はふわりと杉江の腕に抱き寄せられた。

「達海さん、俺はどうですか?」

ゆっくりと背中を撫でられ、あれ?と違和感に気付く。

「なんだよ、俺も混ぜろよ」

杉江の腕を避けて、石神が達海の背中に抱き着いてきた。
杉江の手も、石神の手も、達海を撫でる手がなんだか優しい。

代わる代わる選手達に抱きしめられていると、「ここは俺がっ」と一際大きな声が割って入って来た。

「チーム一の熱い男! 夏木陽太郎が監督を温めますよっ!」

両腕を広げて飛び込んで来るのを待つが、達海は杉江達に抱き着かれたまま首を横に振った。

「お前は暑苦しいからヤだ」

「ぬおおぉぉーっ!」

膝から崩れ落ちた夏木を見下ろして、次にされるがままのの達海を見て村越が顔を顰める。

「いつまでやってんだ。あんた、後藤さんに呼ばれてたんじゃないのかよ?」

「……あ」

そういえば、と思い出した所で甲高い声が達海を呼んだ。

「いつまで油売ってるのっ?! 今日は取材が入ってるからって、後藤さんからも聞いたでしょっ!」

広報の永田有里だ。
達海が選手達に囲まれて抱きしめられている光景を見ても、眉ひとつ動かさずに達海の腕を掴んで引っ張って行く。

ちょっと目を離すとすぐこれなんだからっ。

自分がどれほど周りに影響を与えているのか、そろそろ自覚して欲しい。
女である自分よりも、男の達海の方が男にモテるという現実は、とっくの昔に受け入れてしまった。

「後藤さんっ」

丁度良く部屋から出て来た後藤を呼び止めて、有里は達海を指差した。

「ちゃんと達海さんを捕まえてて下さいよっ、また皆に囲まれてたんだからっ!」

「え?」

突然の事に何を言われているのかわかっていない後藤に達海を預けて、有里は記者を迎えるべく玄関に向かった。

後藤が達海に好意を持っているのは皆が知っている事実だ。
達海も満更では無いようだから、いっその事、二人がくっついてしまえば丸く収まる気がする。

「達海さんって、ホント罪作りな人だなぁ」

羨ましい気もするけど、自分もまた、達海に魅力されているひとりだ。

「まぁ、それが達海さんらしいのかも」

時間にルーズなトコだけでも直してくれたら良いんだけどなぁ…。

チラリと後ろを振り返り、後藤に抱き着く達海を見て、有里は苦笑するのだった。





END.
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寒がりタッツを皆で愛でよう!がコンセプトだったのに、キャラが増えるとグダグダに…orz
今年もタッツは皆に愛されれば良いんだよ!(^0^)/

2011/01/03

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