GIANT KILLING

□愛の言葉
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「後藤、クリスマスってヒマ?」

後藤の机で資料を眺めていた達海が、コーヒーを煎れている後藤の背中に声を掛けた。

「クリスマス?」

「ん」

振り返ると、資料から目を上げずに頷く達海がいた。
二人分のコーヒーを持って近付くと、差し出された手にカップを乗せた。

「熱いから気をつけろ。仕事があるからな…夜なら時間は作れるぞ?」

何処か行きたい所でもあるのか?
机に手を付いて身を屈めると、漸く達海が後藤を見上げた。

「まぁね」

ふー、と湯気を立てたコーヒーを冷まして一口含む。

「−−あちっ」

ビクッと肩を震わせた達海に、後藤は苦笑しながら肩を竦めた。



***



クリスマス当日。
年末も近い事から雑務に終われ、気付けば外はあっという間に真っ暗だ。

「達海、もう少し待っててくれ。これを片付けたら終わりだから」

ふらり、とやって来た達海に声を掛けて、後藤は書類に目を落とした。
署名して判を押す。
それを何度か繰り返し、まとめて封筒に入れた。

「待たせたな」

「お疲れさん」

書類をカバンに仕舞いコートを羽織る。
ポケットから車のキーを出すと「あー…」と歯切れの悪い声が聞こえた。

「どうした?」

「ちょっと歩きたい気分なんだよねー」

「何処に行きたいんだ?」

首を傾げる後藤にニヒ、と笑って、達海はジャケットのポケットに両手を突っ込むと「近くだから」と歩き出した。

クラブハウスを出ると、ブルッと達海が肩を震わせた。

「向こうの冬も寒かったけど、こっちもやっぱ寒いなー」

「どうしてお前は寒がりのくせに薄着なんだよ…」

苦笑しながらマフラーを達海の首に巻いてやる。
寒空の下を歩くなら、パーカーにいつものジャケットなんて格好じゃなく、もっと暖かい格好にすれば良いのに。

「後藤が居ればあっためてくれるじゃん」

マフラーに顔を埋めて肩を竦める達海の耳がほんのり赤い。

思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、人目を気にしてぐっと抑える。
クリスマスのせいなのか、いつもより人通りが多い。

何処へ向かっているのかと思ったら、達海が足を止めたのはETUのホーム、隅田川スタジアム。

「お、おいっ、達海!」

勝手知ったるなんとやら…で、ひらりと柵を越えてスタジアムの中へ入って行く達海の背中を慌てて後藤が追う。

達海は振り返らずに歩き続け、ピッチに立つと夜空を見上げた。
今夜は天気が悪いのか、見上げた空には星も月も見えない。

「達海?」

見上げたまま微動だにしなくなった背中に声を掛ける。

はあ、と白い息が上がる。

「−−俺さ」

真っ暗なスタジアムに、ポツンと佇む達海の背中は、そのまま闇に紛れてしまいそうだ。

「またこのピッチに立てると思わなかったよ」

ポツリ、と語られた言葉に静かに耳を傾ける。
達海が何を思って此処に連れて来たのか…

ゆっくりと歩を進め隣に立つ。

「あん時みたいに走り回れないし、立場も違うけどさ。こうやって此処にいるの…嬉しいんだ…」

足元に目を落として、芝の感触を確かめるように足を動かし、後藤を見上げてニヤリと笑った。

「まあ、あんなハガキ一枚で捜し当てるなんて思ってなかったけどな。俺ってば、愛されちゃってるねー」

「…捜すこっちの身にもなってくれよ」

たった一言『イングランドでカントクしてます』なんてエアメール、きっと後藤以外が受け取っていたら、本気にしなかっただろう。

黙っていなくなって、やっと届いた知らせに、居ても立ってもいられなくなってイングランドに飛んだのが、随分と前のような気がする。
それだけ、色々な事が起きた証拠だ。

「お前に逢いたかったからな」

指で頬を撫でると、擽ったそうに身を捩る。

「後藤にはさ、感謝してる。あんがとな、俺を見つけてくれて」

「見つけて欲しかったんじゃないのか?」

「ん−…」

わかんない、と呟いて達海は後藤の肩にコツンと額を当てた。
甘えるような仕種に思わず笑みが浮かぶ。

「お前さー、俺の事、好き過ぎるだろ?」

笑っているのが肩から伝わって来る。
後藤はその肩に腕を回して抱きしめた。

「俺は達海を愛してるよ」

耳元に唇を寄せて、10年分の想いを伝えるように愛の言葉を囁く。

10年前とは二人の立場も違っているけれど、また、同じチームで戦っている。
まるで奇跡のようだ。
たった一枚のハガキから、今ではこうして、愛しい存在が腕の中にいる。

「よく言えるよ、そんな恥ずかしいセリフ」

「お前にしか言わないよ」

愛してる存在は、たったひとり。

「−−俺も後藤に逢いたかった」

モゾモゾと腕の中で動いたと思ったら、腰に達海の腕が回された。
見上げてニヒ、と笑う。

「愛の大きさなら、俺も負けねーけど」

「お前がそんな事を言うなんて珍しいな」

いつもは後藤に「好きだ」と言わせるくせに、自分からは「俺も」の一言で済ませる達海の口から 、『愛』なんて言葉が出て来るのは珍しい。

「まあ、今日ぐらいはさ…」

クリスマスだし?

小首を傾げる達海の額に額をくっつける。
巷の恋人達のように、愛を語るのも良いか。

「愛してるぜ、後藤」

唇に囁かれる達海からの愛の言葉は、この世で一番甘くて、一番、後藤の心を震わせる。

「…離さないからな」

もう二度と。
この腕をすり抜けて行かないように、後藤は強く達海を抱きしめた。

愛の言葉に誓いを乗せて−−




END.

−−−−−−−−−−−−−
拍手用のネタだったけど、長くなったのでこっちに。
クリスマスに絡んで無い気もするけど、甘々な二人が書けたから満足!

2010/12/25

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