GIANT KILLING
□サンフラワー
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ソレは、彼の手にはしっくりハマっていて、そんな物を持って愛車に寄り掛かっている姿は、まるで映画のワンシーンのようだった。
それだけ様になってた…って事だ。
けれど。
ソレが自分の手の中に収まった途端、鮮やかな色がくすんだ気がする。
そう。余りにも、似合わなくて。
こんな物を持っているのが。
「可愛いでしょ?」
満足げに達海の手の中にあるソレを見つめて、ジーノがフフ、と笑う。
「なんで?」
同じ様に見つめて首を傾げる。
どうしてコレをプレゼントしようと思ったんだろう。
ジーノから渡されたのは、黄色とオレンジでまとめられた、小さな花束。
見た事ある花だけど、名前までは分からない。
「君と外でデートなんて、滅多に無いからね。たまには良いかと思って」
「だから、何で花?」
正直、貰ってもどうしていいのか分からない。
プライベートで花を貰うなんて、初めての経験だ。
「花屋の前を通ったら目に入ったから」
「お前、いっつもそうやって女口説いてんだろ」
細い花びらを摘んで指を滑らせる。
独特の、指に吸い付くような感触に、生花だな、なんて改めて確認した。
「まぁね。プレゼントされて喜ばない女性はいないよ」
髪を掻き上げて、ジーノはキーを回してエンジンをかけた。
心地好い振動が、深く座ったシートから伝わってくる。
ジーノが助手席のヘッド付近に手を掛けて後方確認をするのを見て、達海は花束の扱いに困りながらシートベルトに手を伸ばした。
「タッツミー」
カチリ、とシートベルトを締めると、不意に名を呼ばれた。
顔を上げるとすぐそこにジーノの顔があって、「何?」と聞き返すよりも先に唇を塞がれた。
重ねただけの唇が、優しく達海の唇を食む。
薄く開いた唇を、ジーノの舌がゆっくりとなぞった。
「ん」
ぬるり、と舌を絡ませてお互いの感触を確かめる。
一瞬強く吸われて、リップ音を立てたと思ったら、あっさりと唇が離れて行った。
「−−その花」
助手席のシートに手を掛けたまま、フフと笑いながら車をバックさせる。
「ガーベラって言うんだけど」
何気なく見ていたジーノの横顔から視線を外して、達海は膝に乗せた花束を見下ろした。
ガーベラねぇ。
聞いた事あるような、無いような…
「花言葉がタッツミーにピッタリなんだ」
「あ?」
バラの花なら『愛してます』みたいなヤツか?
花言葉まで把握してるなんて、生粋のキザ野郎だな。
「崇高な美」
「……は? 何だって?」
思わずジーノの顔を見返すと、それはそれは多国籍の女性を魅了する笑みで達海を見つめてきた。
「崇高な美−−まさにタッツミーの為にあるような言葉だよ」
「んなわけあるか。俺のどこが崇高な? しかも美? ないない」
ヒラヒラと手を振って否定する。
しかしこの花。
ジーノの言うように可愛らしいくせして、随分と堅苦しい花言葉が付いてるんだな。
「そう? タッツミーは綺麗だよ」
「目悪いんじゃね? メガネかければ?」
戯れ事には付き合ってられないといった感じで、達海は窓に肘をついて外に顔を向けた。
ゆっくりと走り出した車に合わせて流れていく風景を眺める。
「タッツミーは自覚してないだろうけど、美人だから皆が君を放っておかないんだよ」
まだ言うか、この男は。
どこをどう間違ったら、自分が『美人』になるのかさっぱり分からない。
寧ろ、ジーノの方が似合いそうなのに。
「意味わかんねー」
思いっ切り呆れた顔を向ければ、横目でちらりと見て何故かしたり顔。
「内側から光り輝く感じかな。時折、眩しくてね、眩暈がするよ」
「へー、そう」
「眩し過ぎて、触れたら火傷しそうだよ。まるで太陽だ」
「……」
顰めっ面の達海にアハハハ、と声を上げて笑うと、ジーノは手を伸ばして達海の頬を撫でた。
「…火傷すんじゃないのかよ」
ペシリと手を払う。
言ってる事とやってる事が違う。
真っ先に手を出したヤツが何を言ってるんだか。
「ボクは欲しいモノは何でも手に入れたい主義だから」
仮にも王子が火傷なんてすると思うかい?
噛み付いてやれば良かったかな、と達海は溜息を吐いた。
自他共に『男前』と認めるジーノから賛辞を浴びせられても、嘘臭くて仕方ない。
「それだけ、魅力があるって事だよ」
危なっかしくて目が離せなくて。
気付けば目で追っていて。
けだるさの中に、狡猾さが潜んでいて。
折れそうなほど細い体は、獣のようなしなやかさがあって。
ふとした仕種に、色香が漂う。
手を出したら戻れない−−危うい美しさ。
それでも、触れてみたくて眩しい光に引き寄せられる。
「で? 何処に行くんだよ?」
「行きたい場所があるなら向かうけど?」
「…いや」
流れる夜景から目を逸らして、達海はニヤリとジーノの横顔に笑ってみせた。
「今日はお前のデートプランを採点してやるよ」
だから俺を楽しませろよ?
一瞬、驚いた顔をしたジーノだが、次の瞬間にはフフと笑みを浮かべる。
「難癖つけたりしないでよ」
「お前次第だな」
もう一度、花束に目を移す。
幾重にも重なった細い花びらは、太陽の光を思わせるように広がっている。
(…太陽、か…)
向日葵をチョイスしない所がジーノらしい。
ETUを照らす光。
太陽になれと言われたのは昔の話だ。
そんな大層なモノになれる器なのかどうか、今も分からないけれど。
ジーノに太陽のようだと称されるのは満更でもないな、と達海はそっと目を閉じた。
END.
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花言葉も本によって多種多様ですが、今回はこれで。
ガーベラの花束を持つジーノと達海…うん、可愛いな。
そんな妄想です。
2010/12/11