GIANT KILLING

□Fight!
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みんな帰ったと思ったクラブハウスの一室で、段ボールに埋もれた男がひとり。

「あ、ドロボーだ」

パーカーのポケットに両手を突っ込んだまま、達海は開け放たれたドアの前で、棒読みで男に声を掛けた。

「人聞きの悪い事言うなよ、達海」

ワイシャツを腕まくりした後藤が、段ボールの向こうから顔を出す。

まぁ、こんなトコに盗みに入る物好きなんて、いるわけない。
どっかの『V』なんて付く金持ちクラブチームならまだしも。

「何してんの?」

「十年前の映像を探してたんだよ」

「何で?」

「実はな−−」

練習が終わった後、有里が広報に載せたいから、と椿にコメントを頼んでいた時の話だ。
何かの拍子に有里が「達海さんが現役の時はね…」と話始めたが、

「永田さん。俺、実は監督の現役時代のプレイって見た事ないんです」

と申し訳なさそうに椿が言った。

「凄かったんだよ! 当時の達海さんはっ!」

熱く語るのは良いが、熱くなりすぎたのか、子供の記憶だからなのか、擬音の混じった説明に近くで聞いていた後藤が苦笑した。

「椿。良かったら見てみるか?」

「え?」

「達海の現役時代。映像あるぞ」

終りの見えない有里の話に困り顔の椿に助け舟を出すと、一瞬、驚いたあと目を輝かせた。

「み、見たいです!」

「明日までに用意しとくよ」


−−と、現在に至る。

「今さら俺のなんて見てどうすんの」

近くにあった段ボールの中を覗いて、達海は肩を竦めた。
当時作ったグッズが入ってる。

「刺激になるかもしれないだろう」

「刺激、ねぇ…」

確かこれは、サポーターからデザインを募って作ったTシャツだ。
まだ残ってたのか。
懐かし−………

ニヒ。

「後藤、俺も探す」

「いや、いいよ。もう見つかったから−−」

あとは選別するだけ、と続けようとして振り返った後藤は、達海の何か企んでる悪い笑顔を前に言葉を失った。



***



翌日。

「椿ー。今日、上映会するから皆に声掛けといてー」

「えっ? あ、う、ウス!」

椿が借りるはずだったビデオは、何故か達海の提案で上映会される事になり、練習を終えた選手達は会議室に集まった。
そこには、選手だけでなく松原やコーチ陣、有里の姿もある。

「監督のプレイが見れるなんて楽しみっスね!」

ワクワクした表情で世良が堺や夏木を見上げる。

「見た事ないのか、世良?」

「堺さん、監督が現役の時って俺、小学生っスよ。スゲエ!て記憶しかないっス」

「俺も。ユースにいたけど、興味無かったスからね」

しれっと話す赤崎に、清川が酷く驚いた顔をして近付いた。

「赤崎っ、達海さんは日本代表にもいたんだぞ! 興味無かったって?!」

椿も知らないって言ってたし!
うちの若手は監督の事を知らな過ぎる!

「だから良い機会なんじゃないか、清川」

「ドリさん」

「ったく、騒がしいな」

ガックリと落とした肩を叩いたのは緑川だった。
隣に立つ村越も、相変わらず難しい表情をしているが、練習中から何だかソワソワしていた気がする。

「うおーっ、監督のスーパープレイが拝めるなんてっ! 盗んで俺のモノにっ!」

「おいっ夏木! 耳元ででけー声出すんじゃねーっ!」

急に拳を握って騒ぎ始めた夏木を、黒田が首に腕を回して締め上げた。

「ぐ、ぐぇっ」

「テメーはうるせぇんだよっ!」

夏木に負けず劣らず、普段から騒がしいのは黒田も同じなんだけどなぁ。
そう言ったら余計に騒がしくなりそうだなと、石神は窓際にパイプ椅子を移動させた。

「バッキー、ちょっとあの二人黙らせて来て」

「えぇっ?! む、無理っス!」

結局、みんな現役時代の達海のプレイを見れるのが楽しみなのだ。

村越は一緒にピッチに立った仲だし、緑川も対戦した事があるが、他のメンバーにとっては選手としての達海は『雲の上の存在』と言ってもおかしくない。

「おーし、揃ってるな。んじゃ、始めるぞー」

後藤にビデオテープを持たせて、達海が会議室に入って来た。



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