GIANT KILLING
□君と一緒に
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「何処だと思う?」
我が物顔でベットに座り、無駄に長い足を伸ばして読書をしていたジーノが、唐突に質問してきた。
主語の抜けた質問に、達海は無視を決め込む。
ホワイトボードに次節の対戦チームのメンバーを置き、こいつは累積でいないな、とメンバーを変える。
そんな達海の態度にジーノは本から目を離し、「ねえ?」ともう一度声を掛けた。
「僕の話聞いてる?」
「聞こえない」
「嘘ばっかり」
ふふ、と笑うジーノの声に、達海は肩を竦めただけで振り返らない。
付き合うだけ無駄だ。
何度こうして邪魔された事か。
「僕はタッツミーが一緒なら何処でも良いんだけど」
だから。
さっきからひとりで何の話をしてるんだ。
会話がしたいなら、もっと分かるように話せ。
「タッツミーは英語が話せるから、海外でも大丈夫だよね?」
「…何の話だよ?」
そのままひとりで会話を続け、仕舞いには自分の意見なんて聞かずに何かを決めそうな雰囲気に、達海は振り返ってしまった。
思わず見惚れてしまうジーノの微笑みが憎たらしい。
「僕にオファーしてくるチームの話だよ」
「……あ?」
「彼にオファーが来たって事は、僕にだってあるかもしれないでしょ?」
ね?、と首を傾げてくるジーノに、達海も首を傾げて返す。
『彼』とは石浜の事だ。
チームとしては移籍なんてして欲しくなかった。
これから、視野の広い、状況判断に長けた選手として成長するはずだった。
だからこそ。
石浜がETUというチームに縛られて、誤った判断をする事だけは、避けたかった。
フットボーラーとして、石浜が成長できる選択をして欲しかった。
その結果。
石浜は移籍を決めた。
それは夏のキャンプ前の話だ。
その事とジーノへのオファーの話が繋がらない。
「試合中にサボる選手を欲しがるチームなんかあるかよ」
「あったらどうする?」
……あぁ、何でそんなに楽しそうな顔して見てんのかなぁ。
お前の望む答えなんて言わないぞ。
「熨斗付けてくれてやる」
ニヒって笑ってやれば、あからさまに嫌な顔をした。
ザマーミロ。
「どうせなら、シルクとかサテンのリボンにしてくれないかな」
……そっちかよ。
これ以上、会話しても埒が明かないと、達海はまたホワイトボードに向き合う。
頭の中で試合をイメージする。
向こうの攻撃の起点は6番と左サイドの14番。
カウンターを仕掛けるとしたら……
完全にひとりの世界に入った達海の背後に、そろりとジーノが近付く。
ぴたりと達海の背中にくっついて、腰に両腕を巻き付けて肩に顎を乗せた。
それでも達海は無反応だ。
ジーノはホワイトボードを持つ達海の手に自分の手を重ねて、強引に指の間に指を侵入させた。
「邪魔すんな」
手を振り払うわけでもなく、達海はされるがままで抗議の声を上げる。
下手に動けば、更に面倒な事になると分かっているだけに、敢えて反応しない。
「リボンは手首に巻いてね。離れないように」
グッとジーノの指に力が入った。
手首にリボン…?
つい、と目線を手首に移し、言葉の意味を理解する。
「…俺とお前を繋いでどうすんだよ」
思いっ切り溜息を吐けば、ふふ、とジーノが笑い肩が揺れた。
耳にかかる息が少しくすぐったい。
「僕はオファーが来たとしても、タッツミーが一緒じゃなければ移籍なんてしないよ」
だから、手を繋いで手首にリボンを巻いて、離れないように。
「タッツミーがいないチームでプレイするなんて、考えられない」
肩の上でジーノが動いたと思ったら、首筋に柔らかい感触。
あっという間に離れた熱に、ほんの少しだけ物足りなさを感じたのは内緒だ。
「ワガママな王子だな」
プロの世界は厳しいんだ。
そんなワガママ言ってたら、オファーなんて来なくなるぞ。
「心外だな。僕は自分に正直なだけだよ」
ジーノの唇が達海の耳朶を食む。
ぬるり、と濡れた舌で舐め上げられて、思わず肩が動いた。
「……お前みたいなワガママ王子」
溜息と共に吐き出しながら、達海は背中にくっついたままのジーノに体重を預けた。
「欲しがるチームはうちぐらいだろうよ」
サボるしよそ見するし集中切らすし。
それでも。
期待以上の働きに目を奪われ。
魅せられて、目が離せないから。
自分も一緒にいたいんだなって、実感する。
「素直じゃないね」
肩に回される腕の温かさを感じながら、達海はホワイトボードから手を離した。
END.
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対戦相手は捏造ですのであしからず。
サッカーも詳しくないので、相方に説明して貰いながら勉強中です。
2010/11/27