GIANT KILLING

□SLEEPING KING
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練習開始二十分前。
ほぼ全員が練習場に集まる中、毎度の事ながら、コーチ陣の中にも彼の姿は見えない。

「今日もか…」

思わず溜め息を零した松原に、周りのコーチ陣も苦笑いする。

「有里ちゃんも毎回、ご苦労様だね」

「あれ? 今日は広報の仕事で午前中いないんじゃなかったっけ?」

「じゃあ、誰が起こしに行ったんだ?」

コーチ陣が首を傾げていると、「ふぁぁ」と盛大な欠伸がクラブハウスから聞こえて来た。
まだ寝ぼけ眼の達海の背中を、GMの後藤が苦笑いしながら押す。

「ごとー、まだねみぃよー」

「徹夜なんてするからだろ。まったく」

フラフラと危なかっしい足取りの達海の肩を支えて、後藤は松原の元へと連れて行く。

「大丈夫なんですかぁ? 監督…」

「ん−…無理かもしんない」

松ちゃん、頼む。
ヒラヒラと手を振ったかと思うと、達海はポスッと隣に立つ後藤の肩に頭を預けた。
途端に聞こえる、すーという寝息。

「た、達海っ! 器用な寝方するな!」

「か、監督〜」

思わずその肩を抱き寄せて、後藤はペチペチと達海の頬を叩いた。
松原も、だらりと下がった腕を掴んで揺さ振りをかける。

今日も一日、面倒な日になりそうだと、コーチ陣は顔を見合わせ苦笑した。



***



「え〜とぉ、今日の練習内容はぁ…」

コクリコクリ。
何度も頭を上下させながら、余程眠いのか、目を擦りながら指示を出す。

そんな状態の達海の姿を見るのは初めてではないが、その右側に立つ存在にソワソワする選手の姿、多数。

達海を起こしたら御役目御免のはずだった後藤が、ギュッと袖を掴まれ、逃げられずにいた。
どうやら、後藤を支えにして立っているらしい。

「…昨日の内容を、おさらい、して…」

カクン、と大きく達海の頭が揺れると、後藤の手が伸びて額を支えた。
はっと意識を戻した達海は、フニャリと後藤に笑って見せて、また指示を出す。

なんなんだっ、アンタはっ!
袖を掴んで眠いのを我慢してるなんて、どこのお子様だ!

誰もが心の中で突っ込んだ。
普段から三十五には見えない達海だが、こんな場面を見てしまえば、なんだか幼くて可愛らしく思えてくる。

後藤に見せた笑顔に、不覚にも胸をドキリとさせられた選手も大勢いたわけで。
それに。満更迷惑そうでもない後藤の苦笑いに、勘繰りたくもなる。

気になって練習どころじゃねぇよっ!

「−−そんなトコでよろしく」

ヒラヒラと振る手も、もう夢の中のようで、動きが怪しい。
それでも後藤の袖を引っ張って、いつもの定位置−−ベンチへと向かって行く。

「大丈夫かよ、監督」

「…いつ倒れてもおかしくないっスね」

フラフラな達海から目を離せなくて、皆が見守る中、グラッと体が大きく傾いだ。

「「あっ!」」

倒れそうになった達海の体を、後藤が腰に腕を回して抱き留めた。
そのまま、達海は後藤の背中に手を回して、子供がむずがるように、グリグリと後藤の胸に額を擦り付けた。

「…何だアレ?」

「えぇっと…」

まるで見てはいけないモノを見てしまった雰囲気が漂う中、ジーノはひとり「面白くない」と不満を漏らす。

「ねぇ。僕、今日は帰ってもいいかな?」

「ダメに決まってるでしょーがっ!」

あんなの見せつけられながら練習するなんて、ごめんだよ。

「確かにそうスね」

珍しくジーノの意見に同意した赤崎は、いつもの数倍、鋭い目付きで後藤を睨んでいる。
アワワワと狼狽する世良と椿にチッ、と舌打ちして背を向ける。

「オイオイ! 監督さんよー!」

黒田が達海を指差して怒鳴った。

「寝んのか起きんのか、どっちかにしろ! 気になって練習に集中できねーだろうがよっ!」

だぁっ、イライラするっ!

思わず詰め寄った黒田は、至近距離で後藤の胸に額をくっつけたまま、欠伸で涙の溜まった瞳を見てしまい、ぐっと言葉を詰まらせた。
ほんのりと目元が赤い。

「ん−…、わりぃ、くろぉ…10分だけ、寝かして…」

ポロッと零れた涙をジャージでゴシゴシ拭いて、子供みたいに唇を突き出した達海に、黒田は「お、おう…」と答えるしか出来なかった。

「後藤さん、部屋に連れてった方が…」

おずおずと椿が声を掛けると、後藤にしがみついたままの達海が首を振った。

「…いま、ベットによこんなったら…むり…」

「でもな、達海。こんな状態じゃ−−」

「ん−」

達海はもう一度首を振って体を離すと、また後藤の袖を引っ張り、ベンチへと向かう。
ん、と顎で座るように指示する。

「…もっとそっちー…」

何気なく座ったら、手で端に行けとあしらわれた。
ニヒー、と、いつもより悪さを感じさせない笑顔を見せて、達海は少し離れて座ると、コテン、と横になった。
頭はもちろん、後藤の膝の上。

「「なっ?!」」

選手達からもコーチ陣からも驚きの声が上がる。
後藤は声こそ出さなかったが、ビクッと足を震わせた。

「た、達海…? 俺も仕事があるんだが…」

「だからー、じゅーぷんだけ……おこして…?」

そう言って、達海はまるで猫のように体を丸めて目を閉じた。

10分って、本当に10分で起きるのか?
俺の膝なんかじゃ、返って寝心地悪いんじゃないか?

色々と言いたい事はあったが、すー…と穏やかに聞こえる寝息に後藤は苦笑いした。
そして、膝の上でまどろむ大きな猫の頭を、そっと撫でてやった。








END.
−−−−−−−−−−−−−
後藤さんは、現役時代から達海を甘やかしてたという妄想。
きっとタッツミーも甘えてたに違いない。
こんだけ寝ぼけてたら可愛いよww
こんなの見せられたら、練習どころじゃないね、ホントに。
お読み頂きありがとうございました!


2010/11/20

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