GIANT KILLING

□ご褒美を頂戴(椿視点Ver.)
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「ねぇ、誰か達海さん見てない?」

ちょこっとロッカールームに入って来たのは広報の永田有里。

フラフラとすぐ姿の見えなくなる監督を探して、コーチ陣からも有力な情報を得られず、有里は選手達に情報を求めに来たのだ。

「監督っスか? ここには来てないっスよ?」

一番近くにいた赤崎が答え、隣の世良や椿に同意を求めた。

「そういや…廊下歩いているの見た気がするから、もうバスに乗ったんじゃないスか?」

キュッとネクタイを締めながら、ジーノがロッカールームを出る時にドアの隙間から達海の姿が見えた気がして、世良が振り返って有里を見た。

「いなかったから探してるのよ。ホントあの人、自分勝手なんだからっ」

腕を組んで頬を膨らませる有里に、その場に残っていた選手達は皆、苦笑いを浮かべた。
確かにこのチームの監督は、自分勝手というか、自由すぎる。
監督としての手腕は、それぞれ認めざるを得ないが、なにしろ発想が奇抜で突拍子もない。
ニヒーと笑われると、何かを企んでいる悪い顔にしか見えない。

「俺も探しましょうか?」

「椿くん、試合出て疲れてるでしょ? 大丈夫よ」

バスに向かおうとしていた椿が、その辺見てきますからと、ロッカールームを出ようとする。
試合中、あれだけ走り回っていたのに元気だなぁと、有里は苦笑した。

「じゃあ、ちょっとお願いしようかな。あっち、見てきてくれる?」

「ウ、ウスッ」

ニカッと笑顔を見せて、椿は走り出した。

「−−ホント、スタミナあるわねぇ、椿くんは」

「そうっスね」

赤崎は無表情で、世良はアハハハと笑顔で同意した。



***



それ程遠くには行っていないだろうと、近くをウロウロしてみたものの、達海の姿は見当たらない。
一応、トイレの中も確認してみたが、どこにもいない。

「ん−…こっちにはいないのかな」

この先はスタジアムに続く階段があるだけだ。
違う場所を探そうと踵を返した時、椿の耳に聞き覚えのある声が入って来た。
達海監督の声だ。
誰かと話してるらしい。

邪魔しちゃ悪いけど、永田さんが探してるし…
用件だけ話せば−−

そろ〜と様子を伺う様に近付いて−−椿はガバッと壁に張り付いた。
バクバクと破裂しそうなくらい煩い心臓を押さえ付けて、今見た光景がなんだったのか整理した。

そこにいたのは確かに監督で。
ひとりじゃなかった。
一緒にいたのは、自分達よりも先にロッカールームを出たジーノ。

監督と選手が一緒にいるのは不思議な事じゃない。
そう、不思議じゃないんだけど…

でええぇぇぇぇっっ!!

思わず悲鳴が口から出そうになって、慌てて両手で塞ぐ。

駄目だ!
混乱してて何がなんだか分からない!
なんだアレっ?!
どう見たってアレはっ…


キス、だよ、な…?


えええぇぇぇっ!
なんで監督と王子がっ!

どっからどう見ても親密な感じがする。
ただの監督と選手が、あんな濃密なキスをするとは思えない。

「ん……ふ、ぅ」

耳に届く達海の声は、普段のからかうような感じでも、激を飛ばすような鋭い感じでもなく。

甘ったるくて、艶っぽい。

心臓の音が煩いのに、その声だけはよく聞こえてきて。

本当にあの監督なのだろうかと、椿は恐る恐る、もう一度覗き込んだ。

ジーノが達海の頬に手を添えて。
見つめ合った二人は、また口付けを交わしてる。

どう見ても恋人同士の雰囲気に、椿は慌てて顔を逸らした。
衝撃を受け過ぎて、胸が痛い。

不意にコツコツと足音が聞こえて、椿は更に壁に体を押し付けた。

飛び出そうなくらいに煩い心臓の音が聞こえてしまったら…
バレたらどうしよう…

近付く足音に息を殺し、椿は壁の一部のように動けなくなった。
やけにゆっくりなその足音は、椿が身を隠したその場を通り過ぎて、立ち止まった。

「−−覗き見なんて、良い趣味だね、バッキー」

ビクゥゥゥッ!
椿の体が大きく跳ねた。
背を向けたままのジーノに見えるわけもないのに、両手を胸の前で何度も振って違うと主張する。

「いやっ、あのっ、違っ、」

動揺し過ぎて上手く言葉の出て来ない椿に、ジーノは横目でちらりと見遣った。

「主人のモノに手を出しちゃダメだよ? 君は僕の忠犬なんだから」

はは、といつもの調子で笑顔を見せて去って行く背中を、椿は目を逸らせずに見ていた。

忠告されたのだと気付いたら、また胸が痛くなった。

どうしよう。
監督を見つけたのは良いが、どう接して良いのか分からない。
心臓はまだバクバク言ってるし息苦しい。

というか、まともに顔を見れる自信がない……
監督が、あんな、蕩けそうな顔するなんて、思わなかった−−
思い出して、かあぁっと顔が熱くなる。

「あっ、王子! 達海さん見なかった?」

有里の声が聞こえて、また椿の体が跳ねる。

「いや〜、僕は見てないよ」

しらばっくれるジーノの科白にギョッとするが、有里は気付かずに文句を言いながら去って行く。

どうしよう…
俺は一体どうしたら…っ!

混乱の極みに立たされた椿は、その場から走って逃げた。



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