GIANT KILLING
□ご褒美を頂戴
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やっぱり女達が騒ぐだけの顔してんなぁ…と、自分の前で微笑む男を見て、達海は「はあぁ…」と大袈裟に溜息を吐いた。
「なぁ、ジーノ」
左手を腰に、右手を壁を背に立つ達海の顔の横について、「逃がさないよ」と視線で訴えてくるチームの10番を呆れ顔で見つめた。
「三十五の、こ〜んなおっさんとそんな事して、ほんっとに楽しいのかよ?」
女なんて選り取り見取りの容姿をしているくせに、なんだって自分にそんな事を要求するのか。
ジーノがお願いすれば、二つ返事で引き受ける女は大勢いるはずだ。
「僕はタッツミーが良いんだよ」
こんな笑顔を向けられたら、イチコロなんだろうな。
「ほら。ご褒美はまだ?」
なんでこんな事になったんだ…
もう一度溜息を吐いて、達海は事の発端となった昨日の出来事を思い出した。
***
対戦チームのDVDを見て、フォーメーションを考え、ちょっと息抜きにクラブハウスを出たら、珍しい人物がいた。
時間も既に日付が変わる頃。
「何やってんだ? ジーノ」
そこに居たのは、明日の試合にスタメン出場のジーノだった。
「やぁ、タッツミー。僕とした事が、忘れ物をしてしまってね」
ヒラリと軽く手を振って笑う仕種は、芝居がかっているようにも見えるが、ハーフという容姿のせいかサマに見えるから不思議だ。
「お前なぁ…明日で良いじゃん。早く帰って休めよ」
パーカーのポケットに両手を突っ込んで、呆れた顔でジーノを見れば。
形の良い眉を寄せて、達海の隣に立った。
「明日じゃ、そんな時間はなさそうなんだよねぇ」
「じゃあ、早く取りに行けよ。そんで早く帰れ。今何時だと思ってんだ?」
「タッツミーこそ」
「俺はいーの。監督だから」
「それ、どんな理屈?」
フフ、と肩を震わせて笑うジーノに、達海はジト〜と眉間に深いシワを刻んで睨んだ。
こんな所で会話をしていないで、さっさと取りに行けば良いのに。
「だからさ〜。早く帰れって」
しっしっ、と手を振ると、ジーノがその手を掴んだ。
「言ったでしょ? 忘れ物したって」
端正な顔が近付いて来る。
女だったら喜ぶんだろうな、て思いながら、ますますシワを深くする。
「だ〜か〜ら〜…」
「ご褒美」
「……はぁ?」
何を言い出したのか分からなくて、達海は首を傾げた。
「タッツミーにご褒美をお願いするの、忘れたんだよ」
「…………はぁ?」
ますます分からなくて、達海の首は肩に触れる位、傾げられた。
一体こいつは何を言ってるんだ?
「何言ってんだ? お前」
「明日、僕がシュートを決めたらご褒美が欲しいんだ」
「やなこった」
即答で拒否したっていうのに、ジーノは笑顔を浮かべたまま、内緒話でもするように耳に唇を寄せて来た。
誰が承諾なんかするか。
ジーノが欲しがる物なんて、べらぼうに値の張る物か、入手困難な物に違いない。
「僕のモチベーションを上げる為にも、快諾してよ」
ふわりとジーノから良い香りがする。
「い〜や〜だ。お前の欲しいモンなんて、どうせすっげぇ高いんだろぉ?」
シーズン序盤の、ゲーム大会をした時だって、景品は200万もする椅子が欲しいと言った男だ。
貧乏クラブチームの監督が、ホイホイそんな物を買える高給取りのわけないのに。
「タッツミーがいれば大丈夫。お金なんてかからないから」
「……なんか怖ぇなぁ。何が欲しいんだよ?」
聞くだけ聞いてやると顎をしゃくれば、勿体振ったように耳元で笑う。
「ヒ・ミ・ツ」
「あ?」
思わず顔を見れば、目を細めてジーノは笑う。
こいつが何を考えてんのかなんて、サッパリ分からない。
「ご褒美、くれるって事で良いんだよね?」
わざわざこんな時間に戻って来て強請るご褒美なんて、ロクなもんじゃないと思ったけど。
ジーノが100%シュートを決めるとは限らないし。
……少し、聞いてみたい気もして、達海は渋々、首を縦に振ってしまった。
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