ハイキュー!!

□菅原さん、誕生日おめでとうございます
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「何、してんスか?」

 体育館の隅っこ、三年生が進路調査だかなんだかで遅れると言っていた今日、二年生と先に来ていたらしい日向と月島、それから山口が円を作って座っていた。

「遅いじゃんかっ、影山!」

「あ"ぁっ? 掃除当番だったんだから仕方ねぇだろっ!」

 当番や委員会の仕事も疎かにするな。
 そう主将や菅原に言われてキチンとやってきたのに、遅いと言われたら腹が立つ。

「いいから座れって!」

 ニヤッとムカつく笑いを寄越した月島に噛み付こうとした影山は、バレー部イチの元気印、西谷に腕を引っ張られ、渋々その隣に座る。

「さっさと決めちまわねぇとな」

「スガさんにバレたら意味ないしね」

 うんうん、と周りが頷く中、置いてきぼりを食らったままの影山は、話が見えなくて首を傾げた。
 菅原にバレたら困る事とは、一体何だろう?

「朝練より部活終わった後の方がいいよな」

「大地さんに許可は貰ってっから、ちょっと早目に片付けてさ」

「何あげたら喜ぶかなぁ」

 楽しそうに会話する部員達にますます首を傾げ、影山はクイッと西谷のTシャツを引っ張った。

「あの、何の話してんスか?」

 え? と部員全員に注目されて、影山はムスッとした顔で彼等を見返した。
 ひとり遅れたのは確かだが、準備も中途半端なまま話し合いをしている理由を、そろそろ教えてもらいたい。

「何って」

「え、お前まさか分かってないの?」

「だから、何がですか」

 信じられないみたいな目で見られて、余計にイライラが募る。
 眉間に深いシワを刻んで、いいから早く言えとばかりに日向を睨むと、ひぃぃっ! と引き津った声を挙げて田中の後ろに隠れてしまった。
 すると、西谷とは反対側に座っていた縁下が苦笑しながらポン、と肩を叩いて教えてくれた。

「今週、スガさんの誕生日だから、お祝いをしようって話をしてたんだよ」

「誕生日?」

「そうっ! スガさんにはお世話になってるからな!」

 今年のケーキはどこで準備しようかと言えば、月島がオススメの店を知っていると山口が提案し、プレゼントは何が良いかと言えば、菅原好みの七味唐辛子を見つけたとか、着々と話し合いは進んでいく。
 そんな中、影山は難しい顔をして自分のシューズを睨んでいた。

(誕生日って……何したらいいんだ?)

 誰かの誕生日を祝った事なんてない。
 記憶にあるのは、強制的に祝わされた、中学の先輩――及川の誕生日。

『トッビオちゃーん! 今日はカッコいい及川さんの誕生日だからお祝いしてー!』

 後ろから羽交い締めされて、何も準備してないし、ジュース代くらいしかお金も持ってないしで、お祝い出来ませんごめんなさいって言ったのに。
 ポークカレー温玉乗せが食べたいから付き合って。奢るから。
 なんて言われて、カレー専門店に着いて行くんじゃなかった。
 あの、及川徹が、自分誕生日に後輩に奢るだけなんて、少し考えればおかしいって分かるはずだったのに、カレーに目が眩んでしまった。
 初めて入る店で、注文は及川がしてくれた。嬉しくてソワソワしていた影山の前に置かれたカレーは。

 ポークカレー温玉乗せ 激辛

 あまりの辛さに泣きそうになったら、及川に爆笑されて、悔しくて頑張って全部食べてやった。辛くなかったら、間違いなく美味しいカレーだったのに。

 次の年は、部活終りに拉致られて、誕生日の人と一緒だと7割引になるとか言われて、カラオケに3時間。
 ドリンク飲み放題&フードメニュー半額とかで、振り付きで歌う及川を横目にひたすら食べてた。
 意外と上手くてビックリしたけど、マイクを向けられても知らない曲ばっかりで、ただひたすら、及川徹リサイタルを聞いていた。

 そして、去年。
 また拉致られた。今度はスイーツ巡り。
 仙台駅のカフェの新作スイーツと、お土産物売り場の期間限定スイーツ。
 女性客しかいないカフェに、ジャージ姿の男二人が入るのは、さすがに抵抗があった。

『尊敬する先輩の誕生日なんだから、付き合ってよ』

 男ひとりじゃ入りづらいからって引っ張られて。ケーキもパフェも美味しかったけど、誕生日様の特権とか何とかで、『あーん』をさせられたのは、屈辱的だった。
 その後も行列に並ばされて、限定スイーツを手に入れたワケだけど。もちろん、代金は及川持ちだ。

 そこまで思い出して、気付く。

(俺、嫌がらせされたんじゃねぇか)

 あれはどう考えても、祝ったとは言えない。振り回されたという方が正しいだろう。
 あれ? 人の誕生日を祝うって、どうしたらいいんだ?

「……影山?」

 田中達が盛り上がっている中、難しい顔をしたままの影山に、縁下が恐る恐る顔を覗き込んできた。
 ハッとして顔を上げる。

「どうした?」

「あ、と……その、」

「もしかして、個別にもお祝いしたい?」

 え? と目を瞬かせた影山は、縁下に何やら納得したように頷かれて、そうじゃなくてと開きかけた口を、縁下の発言で閉じた。

「影山はスガさんに懐いてるもんな。お前から貰ったら喜ぶと思うよ」

 そうか。喜んでもらえるモノをプレゼントすればいいのか。
 菅原に気付かれないようにと計画を立てているのだから、自分が何か用意するのもきっと気付かれてはいけない。
 まだ数日あるから、何をあげたら喜ぶか考えよう。
 絶対にバレないようにしろよ、という西谷に、影山は大きく頷いた。



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