ハイキュー!!

□純情テレパシー
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最近、後輩が可愛い。
もちろん、田中や西谷達二年生も前から可愛い後輩だけれど、今年入部した一年生四人も、それぞれに個性があって可愛い。
日向は何だか小動物みたいで可愛いし、何より自分よりも小さいっていうのが良い。
今年の一年生は皆デカくてちょっと悔しい。
その筆頭が月島だ。既に190センチ近いってなんだ。
いつもツーンと澄ましてるくせに、何気に負けず嫌いで褒めると嬉しくない態度を取るのが、素直じゃなくて可愛い。
山口はいつも何にでも一生懸命で、必死に他のメンバーに追い付こうと頑張ってる、真面目で可愛い後輩だ。
そして、もうひとり。

(お、いたいた)

窓の外から見えるグランドには、見知った頭が見える。
真っ黒くて真ん丸な、周りから飛び抜けて見える頭は、可愛い後輩だ。
『コート上の王様』なんて異名をつけられて、生意気でプライドの高い影山に、ある日を境に妙に懐かれた。

(今日は何すんのかなぁ)

窓際の後ろから二番目。
グランドが良く見えるその場所は、周りからピョコンとはみ出た後輩の姿が良く見えた。
もうすぐ定年を迎えるおじいちゃん先生の古文を聞いているより、窓の外の一年の体育を見ている方が、よっぽど楽しい。
頬杖をついて眺めていると、先生がサッカーボールを持って現れた。
今日はサッカーをやるらしい。

(あいつ、バレー以外ってどうなんだ?)

先週の体育の時間は体力測定みたいなのをやっていて、見えた限りでは良い記録を出していたように思う。

(けど、これでサッカーも上手かったらムカつくなぁ)

準備体操が終わって、影山はクラスメイトと何やら会話しながら校舎側に歩いてくる。
各クラス二チームに分かれて試合をするみたいだで、チーム分けのビブスを着ていないところを見ると、影山は前半は見学のようだ。

(こっち見ないかな)

影山の頭を見下ろしているうちに、気付いたらいいのに、と視線を強く送る。
影山本人はあんなに強い視線を向けてくるくせに、自分に向けられる視線には鈍感だ。

(こっち見ろー)

テレパシーを送ってる気分で影山の丸い頭を見下ろしていると、その頭が不意に動いて後ろを振り返った。
そのまま見上げてきて。

(――あ)

目が合って、手を振った。
ビックリして目を見開いたのが何だか可笑しくて、影山が気付くかどうかわからないけど『が・ん・ば・れ』と口パクで声援を送る。
すると、影山も何かを伝えようとするかのように口を開いたが、クラスメイトに話し掛けられてそちらを向いてしまう。
何か頼まれたらしく、影山はクラスメイトと一緒に移動してしまった。

(何て言ったかわかったかな、あいつ)

部活の時間に聞いてみようと思いながら、菅原は教科書に視線を落とした。



***



(び、びっくりした……っ!)

バクバクと煩い心臓に、影山は体操着の上から左胸を押さえた。
三階の窓際に菅原の姿を見つけたのは、つい最近の話だ。
窓を開けていたのか、ふわふわと揺れる色素の薄い髪は、一目で菅原だとわかった。
何の授業を受けているのかはわからなかったけど、頬杖をついている感じからすると、数学や英語の類ではないような気がする。

(つまらない、のかな?)

何度かチラチラと見上げてみるけど、菅原の体勢はいつ見ても同じだった。
それから、外で体育の授業がある時は三階の窓を見上げるようになった。
あの柔らかい髪の色を見つけては、朝練で顔を合わせているのに嬉しくなったりして、一度くらいこっちを見ないかな、と思っていたのだが。

(まさか、見られてたなんて……っ!)

ひっそりこっそり、その姿を眺めて揺れる頭を楽しんでいたのに、見上げたらこっちを見てた。
見られていた挙げ句、手も振られて何かを言われたのに、ビックリし過ぎて何も返せなかった。

「影山。俺あっちやるから、お前こっちな」

ホイッスルと旗を渡されて、「おう」と頷く。
主審は先生がやるけれど、それ以外は残った生徒が順番に受け持たなきゃいけない。
サイドラインに立って、ゲームが始まるのを待つ。
先生が時計を見ながら指示をしているのを横目に見ながら、影山はちらりと三階を見上げた。
期待した顔は、下を向いているみたいで、もうこちらを見ていなかった。

(……ちょっと、残念……だな)

ビックリしたけれど、電波みたいな何かが繋がったみたいで、少し嬉しかったのに。

(また、こっちを見てくれないかな)

今度目が合ったら、何か返そう。
先生が鳴らしたホイッスルの音に、影山は三階の窓からサッカーボールへと意識を移した。



***



試験に出しますよ、という一言にマーカーで線を引く。
ついでに赤ペンで『テストに出る』と書き込んで、教科書にも丸で囲んだ。
意味と使い方もノートに書き込んでいると、不意に視線を感じた。
顔を上げてちらりと周囲を見回してから、何となく窓の外に視線を向けた

(――あ)

こちらを見上げる、黄色いビブスを着た影山と目が合う。
何か言いたそうに口を開いたと思ったら、フイッと顔を逸らされてしまった。

(まったくもう)

その仕種も何だか可愛く見えて、頬杖をついて眺めていたら、もう一度影山がチラリとこちらを見上げてきた。
何かを迷うような素振りに何だろうと思っていると、ゆっくりと影山の左手が動いて――

「……っ!」

掌が小さく横に揺れた。
さっき自分がしたように手を振ってくれたのだと気付いて、振り返そうとした時には、影山はまたクラスメイトに呼ばれてその場から離れてしまった。

(な、何なんだよ……今のっ!)

中途半端に持ち上げた手で口許を覆う。
振り返すなら、普通に手を振ってくれればいいのに、あんな風に周りの目を気にするような、ちょっと恥ずかしそうにされたら、こっちもどう反応していいか困るじゃないか。

(やば……何か顔熱い)

サッカーボールを追い掛ける影山の姿を眺めながら、不器用な後輩がますます可愛く見えて、菅原は緩みそうな頬を手で押さえた。




END.

2013/4/16

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