ハイキュー!!

□公認になりました
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ドゴッ!
重い音が体育館に響く。
コートのサイドラインギリギリを、ボールが狙い澄ましたように打ち落とされた。
他の誰よりも、東峰の打つスパイスが一番重い。

「どっスか? もうちょいネット寄りの方が良いっスか?」

烏野のエース−−東峰との連携を高めたい影山は、微調整を何度も繰り返しながらトスを上げている。
東峰は日向のようにボールを見ずにスパイクを打つワケではない。
打ち分けも出来るだけに、彼の一番打ちやすいトスを上げなければ。

「あっ、う、うん。今くらいのが丁度いい、かな……?」

真剣にトスについて尋ねてくる影山の顔が、東峰には凄まれているように感じてしまって、思わず後退りそうになる。
ほんの少し目線が下がる二つ後輩の影山は、真剣になればなるほど目付きが鋭くなって正直怖い。
チラリと反対側で同じように練習している日向と菅原の姿が視界に入って来て、少し羨ましい。

「うは〜っ、決まったーっ!」

「日向、次はこれな。何のサインか覚えてっか?」

満面の笑みで見上げてくる日向の頭を撫でる菅原は、見ているだけで癒しになる。

(俺も撫でたい)

月島と山口にレシーブを教えている西谷の方に顔を向けると、ズイッ、と眉間に深いシワを刻んだ影山の顔が近付いて来た。
ヒィッ、と喉の奥が引き攣る。

「東峰さん、気になるトコがあったら何でも言って下さい。合わせるんで」

「あっ、う、うん、いや、大丈夫だからっ」

影山のトスは、回数を重ねる度にまるで定規か何かで計ったみたいに正確で精度が高くなる。
その精度に毎回『おぉっ!』と思ってしまって、気になる所なんて気付けずにいる。

「些細な事でもいいんです。本当に何もないんスか?」

じっと見つめてくる影山の視線に、東峰はぎこちなく何度も頷く。
すると、ようやく影山はいからせていた肩の力を抜いた。

「ならいいんスけど……でも、やってて気付いた事あったら言って下さい。すぐ直すんで」

眉間のシワが少しだけ浅くなる。
東峰が一番打ちやすいトスを上げる菅原に、影山は追い付きたくて必死なのだ。
経験と信頼に勝るのは、技術だけじゃない。そう気付いたから。

「あぁ。わかったよ」

必死な姿が西谷に少しだけカブって、東峰はそっと手を伸ばした。
いつも叱咤激励してくれる可愛い後輩に比べると、だいぶ高い位置にある頭は真ん丸で、ちょっとビックリするくらい撫でた髪はサラサラだった。

「……っ、」

毛並みの良い猫を撫でているみたいだとほっこりしている東峰に対し、こんな風に先輩に撫でられる事に慣れていない影山は、どうして良いかわからず、両手で持ったままのボールを見下ろした。
烏野高校に入学してからというもの、こうして先輩に頭を撫でられる機会が増えた。
筆頭は菅原で、「影山はいい子だね、めんこいめんこい」と目尻を下げて撫でてくるし、澤村は意味ありげにニッと笑って、撫でると言うよりは髪を乱してくるし。
先輩とのスキンシップもほとんど無かった身としては、気恥ずかしいやら戸惑いやらで対応に困る。
−−そう。たったひとりを除いては。

「ヤッホー、トビオちゃーん」

ガラガラガラッ、と体育館の扉が勢い良く開いて、バレー部全員の注意がそちらに向く。

「会いに来ちゃった☆」

甘ったるい笑顔でウインクしてみせたその人物は、烏野高校では絶対に目にするはずのない、青葉城西高校バレー部主将で影山飛雄の中学の先輩である、及川徹だった。

「な……っ?!」

「だっ、大王様っ?!」

思いがけない人物の乱入に、一同は二の句も出ない。
影山でさえも、大きく目を見開いたまま見つめている。

「お、及川、さん……?」

「大好きな先輩が会いに来たよー、トビオちゃん」

ヒラヒラと手を振ってスニーカーを脱いだ及川が体育館の中に足を踏み入れた所で、ようやく影山はハッとして及川に駆け寄った。

「ちょっ、何してんですかっ?!」

「何って、トビオちゃんの顔が見たくなっちゃってさ〜」

「何ワケわかんない事言ってるんですかっ!」

体育館の中に入って来ようとする及川を、必死になって影山が止める。
主将の澤村が不在の中、真っ先に行動したのは二年の田中と一年の月島だ。

「青城の主将さんはおヒマなんですね〜?」

「練習の邪魔なんですけど」

睨む田中と眼鏡をキランと輝かせながら押し上げる月島に、及川はニコニコしたまま肩を竦めた。

「あー……ごめんね〜。トビオちゃんに何度もメールしたのに返事ないからさ。待ち切れなくなっちゃって」

テヘ、と擬音語が付くような笑顔を向けられて、田中と月島の額に青筋が浮かぶ。

(ムカつくっ!すげぇムカつくっ!)

視界に入るだけで苛立つ存在が現れた原因の影山を睨めば、普段は滅多に見る事のない、焦った顔をしていた。

「部活中に携帯見れるワケないでしょっ! 何考えてんですかっ!」

「部活始まる前にもしたのに、返事寄越さないお前が悪いんでしょ」

確かに、着替える時に携帯がチカチカ点滅していて、メールを受信している事に気付いていたが、一分でも一秒でも早く練習がしたくて後回しにした。
それがまさか、こんな事態になるなんて。



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