めだか短編

□腐敗したショートケーキ
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私の両手は触ったものを腐らせる悪魔の手だった。子供の頃からこの手を怖がって、両親でさえ私を恐れた。私は可愛いわんちゃんを撫でても、愛らしい猫ちゃんを抱いても、みんな腐って死んでしまうの。可愛い服もお人形さんも、絵を描くためのクレヨンだって、全部、全部。


みんなみんな私を怖がる、恐れる、侮蔑するの。だから、こんな私は何より腐ってて、過負荷(マイナス)で、お母さんたちを泣かせないためには、私が死んだ方がいいと真剣に考えていたわ。


でもね、


お母さんもお父さんも私の誕生日は祝ってくれたの。6歳の誕生日だったと思う。それがお情けで、本当はお母さんはケーキを切るナイフに百通りの恨みを込めてたかも知れないけど、お父さんは私が生まれてこなければって思ってたかも知れないけど、とても嬉しかった。七五三は着物が腐ると困るって祝ってもらえなかったし、赤ん坊のころからこの手は悪魔が宿ってて、今でもお母さんの肩には火傷のような私の手形が残ってるから、私は誕生日を祝ってもらう資格なんてないんだって思ってたの。本当に本当に嬉しかったわ。



だから、生まれて初めて食べるバースデーケーキを愛することにしたの。



お母さんが切り分けてくれたショートケーキは、ふわふわとした純白のホイップクリームとスポンジ。キラキラ光るルビーみたいな赤い苺と『HappyBirthday』って描かれた薄いチョコレート。それは可愛らしくて愛らしくて、私はまるで恋を愛する女の子のようにそのケーキを愛したわ。そして、フォークで刺してしまうのは可哀想って思ったの。



愛して愛して愛し尽くしたこのケーキを無情なフォークでぐちゃぐちゃにして、崩して(コロシテ)しまうのは可哀想!だってこのケーキは私にドロドロになるまで愛されて、愛し尽くされて、原料から鶏まで私に愛されるために育ち卵を生んだに決まってるんだから。私のものなんだから。私の為にお母さんとお父さんがくれたものなのだから。



フォークを投げ捨てて、優しく指でそっとクリームを撫でてみたの。それだけなのに。






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