□愛の深さを知った日
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「…なぁ、旦那」
「……何だ」
「明日、二人で町にでも行かないか?うん」
「嫌だ」
「ちょ…即答?こう…もうちょっと考えてくれてもいいんじゃ…」
「うるせぇ」
「……」

 今朝から旦那はこの調子だ。今日は日々任務に忙殺されるオイラ達の束の間の休暇なのだが、その休暇を旦那は惜しげもなく傀儡の手入れの時間に費やしているわけである。当然、オイラは全く面白くない。恋人同士の折角の休暇なのだ。どうせなら二人で一緒に仲良く過ごしたいところ。
しかし、旦那はオイラをそっちのけにして自室で傀儡の手入れを始めてしまい、何を話し掛けても気のない返事ばかりが返ってくるばかり。最後には冷たくあしらわれる始末だ。結局そんな調子で既に3時間経過。一緒の部屋にいて、こんなにも近くにいるというのに、それではあんまりだとオイラは思うわけである。
少しふて腐れながら、そっと後ろを振り返って黙々と作業を続ける旦那の様子を盗み見れば、僅かに伏せられた長い睫と深い紅をたたえた奇麗な瞳に思わず目を引かれる。
でも、その瞳が映しているのがオイラではないという事実に、ちりちりと胸の奥を焦がされるような気がして、深い溜息が零れた。
この感情はたぶん『嫉妬』。
情けないことに、どうやらオイラは物言わぬ傀儡達に嫉妬しているらしい。馬鹿らしいことだとは分かっているけれど、それでも無条件に旦那の傍にいることが許される傀儡達が羨ましい。
旦那から目を逸らし、またひとつ溜息を零す。…ここにいても旦那は相変らずだろうし、もう部屋に戻ろう。そう決めて立ち上がり、部屋を出るときに旦那に何か声をかけようかとも思ったけれど、一瞬迷った後に結局何も言わずに部屋を出た。
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