魔王は世界を救う

□chapter 4
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異世界にきてもう半年になった。

詩織のお披露目会以降、私は存在価値が欲しくて魔法をクロに習い始めた。
今では簡単なものから結構大きな攻撃魔法が使えるようになった。
何故勇者が旅に出ず、私がこんなに悠長に日々を過ごせているのか、理由は簡単である。

私がまだ魔王ではないからだ。

クロ曰く、私が魔王になるよー的な宣言をしなければ、状況は大きく変わらないのだそうだ。
魔王になる、即ち魔王の目覚めに魔獣や悪魔たちは喜び、世界の腐敗は進むのだとか。

「目覚めって、私の中の何かが変わるってこと?」

私は防御魔法の練習をクロが作った空間で練習していた。
私とクロ以外何も無く、他の人やものが見つけることや、入ってくることはないのだそうだ。
そんな場所で休憩を取っている時に、私は思いついたことを聞いた。

「いや。何も変わらぬ。強いて言うなら魔物に好かれやすくなる程度か」
「魔物に好かれる・・・・?」
「または勘違いした魔物に狙われる程度だ」

さらりと何食わぬ表情で、私にとってとんでもないことを言ったクロ。

「勘違いした魔物・・・・?」
「伊織を殺せば自分が魔王になれるかもしれん、と考えることだ。そんな簡単なものではないことを知らん愚かな考えだがな」

冷たく鋭い声だった。そうだ、クロは本来こういう声だったんだ。
猫だから忘れてたけど。

「じゃあ何で魔王を決めるの?」
「魔王とは、文字通り魔を統べる王だ。それだけの力がなければいけない」
「だったら私を倒せば魔王って考えるのは普通じゃ?」
「それだけではないのだ。理性が必要なのだ」

魔物は魔力を求める。
強い魔力を喰らい、成長していく。だが幾ら喰らっても理性は生まれない。

「世界を我の手にするには、頭が必要だろう」
「ちょ、ちょっと待って。世界を破滅させたいんじゃないの?」

それだけが目的ならば、別に理性とかいらないんじゃないの?

「結果的にはそうなる。たがそれだけでは――――神に対する復讐にならん」

酷く温度の無い言葉だった。
今まで見ていたクロは、本当の姿じゃないのだと、突きつけられた気がした。

「クロ」
「休憩はここまでだ。さっさと始めるぞ」

今日になって見えなかった溝が、今はっきりと私には見えてしまった。
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