魔王は世界を救う
□chapter 2
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翌日から詩織の修行は始まった。
一日目である今日は基礎体力の向上と、剣を握ることから始まるらしい。
広い闘技場の端から端をダッシュで何回も走ったり、重そうに剣を抱えたりしている。
私は観客席に座りながらそれをぼーっと眺めていた。
“魔王にしてはのんびりとした奴だな”
「なるだなんて言ってねーっつの」
口が悪いと言われようが仕方ない。父がそうなのだ。詩織の前では使ったこと無いけど。
“伊織が認める認めないの問題ではない。これはもう決まったのだ”
上機嫌な元魔王とは反対に、私の心はだんだんと棘が増えていく。
それに気付いた上で元魔王は話を続ける。なんと性格の悪いことか。
“まず始めに何をする?手始めに近くの村でも狂わせるか。ああ、あの勇者を今のうちに潰しておくのもいいかもしれん”
その言葉の意味を理解した瞬間、私はそばにあった椅子を思い切り蹴った。
「そんなことをしたその瞬間、私は自殺してやる」
何故かこの身体が惜しいのか、元魔王はピタリと話すのを止めた。
私は目を閉じて荒くなった心を深呼吸を一つして落ち着かせる。
いおりちゃん。いおり。伊織。
何度も私の名前を呼んで笑顔を向けてくれた。私を必要としてくれた。
守りたい。命をかけても守りたい。
なのに、まさか勇者に倒される魔王になってしまうなんて。一体どんな罰ゲームだ。
「荒れてるな」
「っ・・・・リーオンさん」
私はすぐさま姿勢を直し、にこにこ笑っているリーオンさんにお辞儀をした。
「敬語はいらないし、呼び捨てでいい。えっと・・・名前?」
「伊織」
敬語を省くと一気に無愛想な一言になってしまった。
気を悪くしてはいないだろうかと盗み見たが気にしていないらしい。顔から笑顔は消えていなかった。
リーオンは私の隣に座ると、未だ厳しい修行をしている詩織を眺めた。
「大変だな。突然呼び出されて、勇者だなんて。俺だったら怒って村一つ壊してるな」
「恐ろしいことを・・・・。でも詩織だったら出来るから」
小さいころから詩織は私にとってスーパーマンだ。
あれ?女の子だからスーパーガール?
結局、最後に彼女の元に幸せが来なかったことなんかないのだ。