長編

□第14話
1ページ/10ページ


大学に到着したのは、明け方だった。
マルコさんが疲れているけれど、すぐにアークメイジの元へ直行した。

私は人狼病のおかげで疲れはあまり感じない。その代わり、体の中に自分以外の何かを感じて、安眠ができないのだけれども。
人狼病を治療した後、反動で何日も眠ったりしないだろうかというのが心配だ。

「まだ寝てると思うけど、鍵が掛かってないんじゃしかたない」

元素の間の上の階に、アークメイジの居住区があり、アークメイジの部屋の鍵はかかっていないので、おそらく中にアークメイジがいる。
私は扉を開けてから、思い出したようにノックして中に入る。

「順番逆だろい」

うっかりやってしまったことを、しっかりマルコさんにつっこまれた。
わかってるってば。

学生の部屋と違って、かなり広いアークメイジの部屋の中央にはちょっとした園芸スペースがあり、常に魔法の光が灯されている。
そこにはポーションや何かの材料になりそうな植物やキノコが植えられているため、園芸スペースといっても華やかさとは程遠いもので、悪い魔女や魔法使いの庭の方が言い方としてはあってそうだ。

高級そうなベッドで寝ていたアークメイジに声をかけた。

「お休みのところ申し訳ありませんが、報告がございます」
「君は…」

一声かけただけで、アークメイジは嫌な顔ひとつせずにすぐに起き上がってくれた。
ダークエルフらしい暗い色合いの肌で、痩せ型なのか頬がこけている。口と顎のヒゲは決して白くはないけれども、顔の皺がそれなりに長く生きている事を物語っている。

「ここへ来たのは最近だろう?気づいてはいたが話をしたことはなかったな」

寝起きとは思えないはっきりとした口調だ。威厳はあるけれど、嫌味などは一切感じない。
自然と背筋を正して、答えだ。

「はい、ありません。私は鈴。こっちは」
「鈴の従者のマルコだよい」

面倒事を避けるために従者ということにしているけれど、マルコさんの口から聞くと、何かこう、違う!という感じがしてむず痒いな。

「では私にも自己紹介をさせてくれ。ウィンターホールド大学のアークメイジ、サボス・アレンだ。ここでは魔法のありとあらゆる側面が調査研究されており、その事に大変満足している。だが、大学の仲間に対して故意に危害を加えるような研究や実験はいかなるものも承認しない。理解いただけたかな?」
「はい」
「それで、用件とは?」
「サールザルのことで」

サールザルと聞いただけで、アークメイジは眉間に皺を寄せため息をついた。

「またひとり見習いが焼死したなどと言ってくれるな。既に手一杯なんだ」

焼死とか何したんだろうか。
興味引かれる事案だけれど、今はそれどころではない。
わざわざアークメイジを起こしたのは報告のため。

「いえ。何か…オーブのようなものを見つけました。トルフディル先生がアークメイジに見てほしい、と」
「そうか…分かった。トルフディルからさらに詳しい説明があると期待している。この件について礼を言う」

これで用件は終わったけれど、まだ下がっていいとは言われていない。
アークメイジは私を見つめたまま、少し考えているようだった。

「お前の小グループの面倒を普段見ているのは、トルフディルか。彼は忙しそうだし、自分はこの目でその発見を確かめなきゃならない。この件について調査を始めてくれると助かる。アルケイナエウムのウラッグと話してみろ。彼がこの発見と合致する何かを気付いていないか、確認するんだ。それから…よくやった。次にノルドの遺跡を探検する事になったら、おそらくこれが役立つだろう」

アークメイジが差し出したのは、初心者用の灯火の魔法ががかった杖だった。
海外の某眼鏡の魔法少年が持ってそうな短いものではない。
私の体の三分の二くらいはありそうなものだ。

せっかく与えられたものなので、ありがたそうに受け取ったけれど、灯火の魔法は覚えている。
灯火の魔法はとても明るくて、よく見える。よく見えすぎて隠密にむかないから、あまり使わない。

例えるなら魔法の光は、白色蛍光灯。
本を読むわけでもなければ私は蝋燭などの揺れるオレンジ色の柔らかい光の方が好きだ。

アークメイジから下がっていいと言われたけれど、一つだけ聞きたい事を思い出した。

「あの、サイジック会に会ったことは?」
「個人的にか?いや、ない。彼らのうちの1人がアークメイジに助言を与えていた事がある。まだ見習いをしていた時の話だが。しかし何年も前に、教団全員がアルテウム島に呼び戻される以前の事だ。その後、ぱったり姿を消してしまった」

アークメイジは、サイジック会を遠目に見たことがある程度で他の教員と同じくらいの知識しかないらしい。
丁寧に礼を言って、私たちはアークメイジの部屋を後にした。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ