短編

□Marco
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※現パロです。


金曜の夜というのは、ウキウキするものだ。
明日は休みで、仕事がないんだから。

大きな仕事を成功させて久しぶりに羽を伸ばせる週末を前に、うちの部署の皆もテンションが上がって、打ち上げを兼ねてビアガーデンでも行こうかという話になった。
テンションの高さが飛び火して、隣の部署も、というか、フロア全体でビアガーデン突撃だって話になって、定時にあがるぞー!って盛り上がっていた。

しかし、私は盛り下がる一方。

会社には、大きな仕事だけじゃなくて、小さな仕事ってものもあってね。
私に回ってきたソレが、未だに終ってない。
このままだと1人だけ日付変わっても残業が終らないという事態になるから、黙々とキーボードを叩いている。

私がミスしたわけではない。
新人の弟馬鹿くんが寄越したデータが間違っていたんだ。
ちなみに弟馬鹿くんが来るまでは、私が一番下だった。
初めて出来た後輩なわけで、教えた私の責任でもあるといえばある。ちくしょう。

今日中に出来上がってないと、月曜日に他の人が困ることになるので、ミスを責める前に黙々と修正作業に取り掛かってる。
この手の作業は慣れたもので、ミスをした本人がやるより私がやったほうが早いし正確だと思う。

チラチラと視界の端に、手伝ったほうがいいのか、でも声がかけ辛いどうしようという視線をたくさん感じるけれど、それを相手にしている余裕もない。ビールは好きじゃないけれど、私だってビアガーデン行きたいんだ。皆と騒ぎたい。

これをこう直して欲しいとか説明している間に、自分で修正したほうが手っ取り早い。
ひたすら手を動かして、画面と手元の資料とにらめっこしていれば、眉間に皺がより、表情が険しくなっている気がする。


「んな顔するなよい。」


ちらっと視線だけ横を向ければ、困ったような笑いで資料の半分以上を手にしたマルコさん。
一応、部署で一番偉い人。


「俺も手伝うから、なまえが思っているより早く終るはずだよい。」


そう言って、私が何か言う前に、私の頭をぽんぽんって撫でて自分のデスクに戻っていった。
少し前までの私なら、とても喜んでいただろう。

今は、ちょっと複雑な心境だ。

皆が、たぶんビアガーデンへ向かって30分ほど経った頃、手品でも使ったのかというくらいの速さで仕事が終った。
さすが、マルコさん。仕事が早くて、ほとんど直してくれた。

マウス片手に画面を注視して、今は一応、最後の確認作業中。
自分の仕事は最後まで責任を持たないとね。

ミスがあるとすれば、私がやったほうなので、気が抜けない。

マルコさんはさっさと帰り支度を済ませて、私の隣に座って、私のパソコンの画面を覗いた。


「あと、少しで確認終ります。」
「たぶん、出来てるよい。」


マルコさんは、マウスを持つ私の右手に手を重ねて、ファイルを閉じてしまった。
クルっと私の椅子を回転させて、向かい合わせになる。

私の椅子の肘掛のところを両手で掴んで、長い脚は私の椅子を挟むようにしているから、私は逃げ場がない。


「なぁ、なまえ。この前の返事、聞かせてくれよい。」


聞かせろというくせに、聞く気はない様で、ゆっくり顔を近づけるマルコさん。
ドクドクと、自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらい、体がカァーっと熱くなるのを感じた。

が。

すぐに冷静になって、扉のほうを見れば、うん、明らかにこっちの様子を伺う人影。
しかも、きっと一人じゃない。

同じ状況が先月にもあって、その時はマルコさんから熱烈な告白を受けたのだ。

その時は、頭が真っ白になって固まってしまったのだけど、ガタガタっと大きな音を立てて、聞き耳を立てていた人達が、雪崩れ込んできて、全部見られたり、聞かれていたことを知った。

その日は恥ずかしさのあまり、うやむやに。
あれから仕事が忙しすぎて、お互いにというか、マルコさんがそれどころではなかった。
毎日遅くまで残業して、休日も出勤していたみたいだし。
無理して二人きりになんてなれるはずもなく、今日に至る。

そして、やっと二人きりになったのに、同じ状況。

できれば先に進めたいのは私も同じ、だけど。

今、マルコさんにする返事は、これしかない。
そっとマルコさんを制止して、扉に視線をやって小声で。


【「周りに人がいないことを確認しましょう。」】


ため息をついたマルコさんは、青筋を立てながら扉に向かっていった。
きっとこの後は、マルコさんが皆に雷落としてから、ビアガーデン。

できれば直接言いたかったけど、もうメールとかでいいかな。

title by 空をとぶ5つの方法


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