短編

□Marco
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天候は荒れ、競業相手である海賊や海王類の襲撃、海軍の出現だったり、とにかく忙しかった。
ようやく落ち着いたかというところで始まった宴会騒ぎの結果、今は数名の見張りを残してほとんどが酔いつぶれている。

「死屍累々。せっかくのハロウィンなのにね」
「そうガッカリすんなって!」

酒より肉!だった今日の俺は、案の定、飯の最中に寝ちまってた。
寝てる間に食いっぱぐれないように料理をちゃんと確保しておいてくれたのは、頼れる飯時の相棒なまえだ。

俺よりほんの少し年下のなまえは自称ナース見習いの雑用らしい。
ほとんど厨房で皿洗いをしているからコック見習いっていうほうがあってると思う。

よく飯の最中に寝ちまう俺が食べ終わるのを、静かに待ってくれる優しい子だ。
俺はなまえを、妹のように大事に思っている。

「とりあえず、起きてそうな隊長を探そうぜ」
「うん!」

今日はハロウィンってやつで、仮装したりして楽しもうと何人かと約束をしていた。
そのほとんどは酔いつぶれちまって、うやむやのまま終わりそうだったけど、俺らだけは仮装して海賊らしくお菓子を強奪しにいくかということになった。

仮装の準備は、何日も前から着せ替える気いっぱいだったナース達がしてくれていた。

おれの方は狼っぽい何かで、なまえは赤頭巾。
あいにく、おれは妹みたいに思ってる赤頭巾を食うつもりはないんだけどな。

なんといっても、この赤頭巾は片思い中だ。
片思い中ってのも相手が誰かってのも、ほんの一部のやつしか知らない。
だから、俺と二人でいると勝手に騒ぐやつがいるんだけどな。

甲板でまだ酔いつぶれてない隊長連中に、「菓子をよこしなー、さもないと酒をぶっかけるぞー」って騒ぐと「何だそれもったいねぇだろ、ほら菓子だ」ってどうみても酒のつまみなやつばかりをくれた。
たまに「おれらがイタズラしてやるぜぇ?」となまえにちょっかい出そうとする酔っ払いもいて、そういうやつは問答無用でおれが酒をぶっ掛けた。
好みが分かれる値もかなりした珍しい酒で、その一番の特徴は非常に臭いことだ。

かけられたやつは絶叫してるが、周りは綺麗にしてこいって爆笑していた。

ハロウィンとは程遠い菓子を持ったまま、今度はぜんぜん酔ってないような顔で酒を延々と飲んでいるイゾウのところへ行った。

イゾウは、さぁお菓子かいたずらかって言う前に

「とりっくおあとりーと、だったか?さっさとよこしな」

って、水鉄砲片手に俺らが強奪してきたお菓子(酒のつまみ)を逆に全部横取りしちまった。
そのあとすぐに、16番隊からだってハロウィンっぽくラッピングされたチョコレートやキャンディの、ちゃんとした菓子セットをプレゼントしてくれた。

さすが、イゾウ!
さっきの酒のつまみより、かなりハロウィンっぽくなった。

次はサッチだ。

「おお!ハロウィンっぽい菓子を作ってやるから任せとけってんだ!」

前もってこういうことやるからと伝えたときに、そう言っていたサッチは、おれらの格好を見てから慌てて厨房に入っていった。
きっと、ものすごく旨い何かを作ってくれていて、まだ時間がかかるんだろう。

おれらは姿の見えなかったマルコを探して、あいつの部屋の前までやってきた。

「寝てるんじゃないかな。だって、ここんとこ忙しかったし」
「かもな」

おれとなまえのハロウィンは、菓子が目的じゃない。
なまえは1番隊隊長のマルコが好きで好きで、遠くから見てるだけで幸せだとよく言っている。

今のままじゃ駄目だとけしかけたおれに乗せられて、告白は無理というなまえが、何かしらアピールするために頑張るのが目的だ。
うん、悪い。正直なところ面白半分だ。でも、ちゃんと応援してるからな!

つまりここからがメインイベント。

心配半分、期待半分。
なまえは、ほんのり頬が赤くしながら緊張で表情を硬くしている。

「なぁ、マルコいるかー?」

ノックもせずにドアを開けて中に勝手に入ると、書きかけの海図を机に広げたまま、その上に頭を乗せて寝ちまってた。

「エース、寝てるから戻ろうよ」

廊下では普通に話してたくせに、寝てる姿を見て小声になったなまえが袖を引っ張って部屋の外へ出ようと訴える。
ビクビクしていて面白い。

「なまえ、チャンスだろ?」
「でも」
「こんだけ寝てんなら、ぜってぇ起きねぇって!ほら」

マルコは、おれが頬をつついてもまったく起きようとはしなかった。

「本当?信じるよ?マルコ隊長、と、Trick or Treat ?」

首をかしげながら、おそるおそるお決まりのセリフを口にする。マルコからは何も返事がない。
そして、この男。甘い菓子なんて持ってないだろう。

おれがジェスチャーだけでイタズラを決行するんだとなまえに伝えると、なまえはポケットから小さい鏡と口紅を取り出し、唇を紅く染めた。

「…マルコ隊長、ごめんなさい」

ちゅっと控えめな音をさせて紅くなった唇をマルコの頬につけ、口紅の痕を残すイタズラをした。
やっちゃったどうしようといった風に、なまえはあわあわとしている。やっぱり面白い。

「今なら隙だらけだったのに、唇じゃなくてよかったのかよ」
「うん。だって初めての時は相手からされたい、から」
「お、おう。じゃあとっとと、ズラかるぞ」
「うん!」

甘い悪戯で愛して愛して

パタパタとかけていくなまえの後を追いかけて部屋から出た。
扉を閉める前に振り返ると、たぬき寝入りしていたマルコが、1番隊隊長の威厳はどこだと言いたくなる、それはもう人には見せられねぇ顔をしていたのが一瞬見えた。

ああ、なまえ。よかったな、未来は明るいぞ。たぶん?

title by ポケットに拳銃


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