短編

□Marco
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※パラレルです。長編主人公が別の世界に行くだけの話しです。



目が覚めたら、知らない天井が目に入った。

知らないベッド、最後に自分が着ていたものとは違う服というか下着姿。
悲鳴をあげたり慌てることもなく起き上がってたのは、こういう状況が経験済みだからだ。

昨日と表現すべきなのか怪しいけれど、眠る前までいた世界は剣と魔法とドラゴンの世界だった。
自分が生まれ育った世界とは違う。
いわゆるトリップというやつをした私は、そこで盗賊の長になった。そして凄腕暗殺者で、英雄で、魔法使い見習いみたいなものだった。
試しに、前の世界の“明かり”の魔法を唱えてみても、使えなかった。

ため息をついた。魔法や前の世界での経験が消えてる。

そりゃそうだろう。
知らないのは天井だけで、部屋の内装は見覚えがあった。

この世界は武器と自分の身体だけを頼りに、大きなモンスターと戦う世界だ。
前の世界と同じく、ここはゲームが本物になった世界。
幾度となく聞いた馴染み深い曲が聞こえてくる。もちろん、空耳だけれど。

再び、キョロキョロと周りを見てみる。

「…置いてきちゃった?」

前の世界で、お互いが帰るまでの期間限定だったけれど、相棒のように一緒に行動していたマルコさんの姿はなかった。
ゲームとは別、漫画の世界の住人だったマルコさん。よき仲間でよき師匠で、大事な人だった。

だいたい目が覚めたら、『起きたのかよい』とか『寝ぼすけだねい』と現れるのに、やってきたのは二足歩行のちっさい猫だった。

その猫はにゃーにゃーとうるさく騒いでから、すぐに外に出て行った。
おそらく、私をベッドに運んでくれた誰かを呼びに行ったのだろう。

ぼんやりしながらも、私はこの状況に至る経緯を思い出そうと試みる。

思い出せるのは、マルコさんと帰れそうと話をしていたことと、これでもかというくらい目を見開いて慌てた顔をしたマルコさんが、必死に伸ばした手が私に届かなかったところだ。

思い出せないけれど、きっと元の世界に帰る過程で何かあったんだろう。
マルコさんは、無事に帰れているといいな。
そうじゃなくても、あの人ならなんとかするだろう。

ひとまず私は目の前の出来事を、この世界のルールを受け入れた。

慌てたって仕方がない。急がば回れというじゃないか。
力とお金と名声を手に入れて、それから情報収拾をする。
この世界で生きていくしかないのか、元の世界や別の世界に行く方法を探すのは、それからだ。

武器も、もう選んでいるけど、大きなモンスターを倒すっていうこの世界に、わくわくしているわけではない。

いつだって、スタート地点の自分は弱いんだ。
だから、頑張らなきゃいけない。

「よしっ!」

私はベッドから出ると、気合をいれた。


 * * * 


あれから数ヶ月。
なんとか私とお供にゃんこだけでの狩り姿が様になってきたと、お供にゃんこに褒められるくらいにはなった。
そして他の村のハンターとチームを組んでみたらどうかと村長に勧められ、集会所のある場所へと初めてやってきた。

そこは歴戦の勇者のような顔つきの人がいっぱいる。
ドキドキしながら手続きをして、自分が参加できそうなハンター募集の張り紙をひとつひとつ見ていく。

どれも、怖そうなモンスターの名前ばかりで泣きそうだ。やっぱり村に帰ろうか。

そんなことを考え始めた時、見知った名前を見つけた。

「マルコ、さん?」

同じ名前なんてたくさんいるのかもしれないけれど、名前のサインの筆跡は確かによく知る彼のものだった。

集会場内を探してみれば、あのよく知るマルコさんが一人で酒を飲んでいた。
装備が違うだけで、あの髪型あの顔、まさにマルコさん。

「ま、ま、マルコさぁぁぁん!」
「なまえかよい!」

思わず抱きついたし抱きしめられたけれど、平時であれば絶対にやらなかっただろう。

マルコさんとは馴れ合うより高めあうような関係と言えばいいのだろうか。
どんなに甘くなりそうないい雰囲気になっても、最終的には別の空気になったし、していた。
そう仕向けていたのは私であったし、マルコさんでもあった。

旅仲間は私とマルコさんの二人きり。
目的がある以上、色恋沙汰で気まずい空気になるわけにはいかなかったんだ。

けれど、今この時は、お互いテンションが振り切れたんだろう。
キスしないのが不思議なくらい、抱きしめあっていた。

落ち着いてきて冷静になってから、ギルドカードというハンターの経歴が判る名刺のようなものを交換した。
これでお互い連絡も取りやすくなる。

「おいおい」

私のギルドカードを持つマルコさんの手とか肩が震えて、笑いをこらえている。

マルコさんのギルドカードを見ると、戦績がすごかった。
もう飛龍種のほとんどを倒した経験があって、ハンターレベルもものすごく高い。

一方の私は初心者に毛が生えた程度。
あまりの弱さに、私は赤面した。

しかし、マルコさんは別のところを見て笑っていた。

ギルドカードには、経歴の他にも、クエストに連れて行く可能性のあるお供にゃんこの名前も記載していた。

私がお供にゃんこを初めて雇った時、一人きりという心細さといつも隣にいた旅仲間恋しさがあった。
そして、出来心というやつが判断力を奪っていた。

「お供におれの名前付けるなんて、そんなに…」

後のセリフが続かなかったのは、マルコさんが話せなくなるほど爆笑してたからだ。

穴があったら入りたい。

ようやく笑いがひっこんだマルコさんが、実にいい笑顔で私向けのクエストを受注し直してきた。

なんでも、最高ランクのハンターになればいろいろな情報が貰えるらしい。
その中に別の世界への情報というのも含まれている可能性が高い。

「一緒に頑張るだろい?これからスパルタだな」


あなたが私を強くする

「何やってんだよい。あれくらいなまえなら見えてるはずだ。避けろ」
「面目ない」
「あと1回、ベースキャンプ戻されたら終いだよい。しっかりしろ」
「うっす」

やっぱり、一人より一緒の方が楽しい。

title by ポケットに拳銃


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